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再び、あの店へ

再び人財屋を訪れる凛。


そして、ついに直人が店へ戻ってきます。


長い時間を越えて、二人の距離が重なろうとしています。

 翌朝。


 いつもより少し早く目が覚めた。


 窓から差し込む光を眺めながら、昨日のことを思い出す。


 あの女性。


 顔をはっきり見たわけじゃない。


 声を聞いたわけでもない。


 それなのに、なぜか頭から離れなかった。


「……凛、か」


 口に出してみる。


 日本にいた頃、何度も呼んだ名前。


 もう二度と会えないと思っていた名前。


 この世界に来てから、できるだけ考えないようにしていた。


 だが――。


 昨日から、その名前が妙に近く感じる。


「考えすぎだな」


 そう呟いて、ベッドから起き上がった。


 今日は仕事がある。


 それに、人財屋は俺一人のものではなくなり始めている。


 それを忘れてはいけない。


 階下へ降りると、すでにセリアが準備を始めていた。


「おはようございます、直人さん」


「おはよう。早いな」


「直人さんこそ」


 セリアは笑いながら、机の上に書類を並べている。


 少し離れたところでは、エドが真剣な顔で資料を確認していた。


「おはようございます」


「おはよう、エド」


「昨日の案件ですが、少し気になる点があります」


「どこだ?」


 エドが一枚の紙を差し出す。


「商店街の中に、従業員が長続きしない店が何軒かあります」


「前に調べたところだな」


「はい。ただ、共通点が少し違います」


 エドは資料を指差した。


「待遇が悪いわけでもない。仕事量が極端に多いわけでもない。でも、人が定着しない」


「なるほど」


 俺は資料を受け取った。


 数字だけを見ると、確かに大きな問題には見えない。


 だが、人が辞める理由は数字だけでは分からない。


「今日、直接見に行こう」


「はい」


「レオンにも声をかけてくれ」


「分かりました」


 少しずつだが、確実に仕事の形が変わってきている。


 以前なら、全部俺がやっていた。


 今は違う。


 エドが資料をまとめ、レオンが外部との調整をし、セリアが面談を担当する。


 俺は全体を見る。


 経営者だった頃と、少し似ていた。


 その感覚が、不思議と心地よかった。


 ――その頃。


 王都の別の場所では、一人の少女が街を歩いていた。


 凛だった。


 今日は護衛も最低限。


 王城を出ることも、以前より許されるようになっていた。


 だが、彼女の目的は観光ではない。


「……ここ、だったよね」


 凛は小さく呟いた。


 昨日見つけた店。


 入口には、確かに書かれていた。


 人財屋。


 その名前が、頭から離れない。


 偶然なのかもしれない。


 同じ名前の別人かもしれない。


 それでも――。


 確認したかった。


 凛は店の前まで歩いていく。


 扉の前で、一度だけ立ち止まった。


「……もし、直人だったら」


 胸が大きく鳴る。


 怖かった。


 期待することが。


 もし違っていたら。


 もし、本当に直人だったら。


 どちらにしても、今までとは同じではいられない。


 凛はゆっくりと手を伸ばした。


 そして――。


 扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


 声をかけたのは、セリアだった。


「……こんにちは」


「本日はどのようなご相談でしょうか?」


 凛は店内を見渡す。


 昨日と同じ場所。


 けれど、今日は少し違う。


 奥にある机。


 並べられた書類。


 壁に貼られた依頼一覧。


 そして――。


 そこには、見覚えのある字があった。


 凛は息を止めた。


「……これ」


「はい?」


「この字……」


 セリアが不思議そうに見る。


「どうかしましたか?」


「……いえ」


 凛は首を横に振った。


 間違えるはずがない。


 長い付き合いだった。


 何度も見てきた。


 その文字を。


 凛は、震える指先をそっと握りしめた。


「……少し、お話を聞かせてもらってもいいですか?」


「もちろんです」


 セリアが椅子をすすめる。


 凛は腰を下ろした。


 そして、ゆっくりと口を開く。


「この店を作った人について……教えてください」


 その瞬間。


 セリアの表情が、わずかに変わった。


「……直人さんのことですか?」


「……!」


 凛の瞳が大きく開いた。


 名前が、はっきりと聞こえた。


 間違いない。


 この世界で。


 この場所で。


 その名前を呼ぶ人間がいる。


 凛は立ち上がりかけた。


「……直人……」


 その声は、震えていた。


 だが――。


 まだ、扉の向こうに本人はいない。


 そして同じ頃。


 人財屋へ向かっていた直人は、店の角を曲がった。


 いつもの道。


 いつもの店。


 いつもの朝。


 ただ一つ違ったのは――。


 今日は、そこに。


 凛がいる。

ここまで引っ張ってきた再会が、いよいよ目前まで来ました。


二人が再び顔を合わせたとき、どんな言葉が交わされるのか。


次回、ついに二人が向き合います。


Amane

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