忘れられない声
再会を予感させる出来事が続く中、直人の心にも変化が現れ始めます。
名前を口にするだけで蘇る記憶。
そして、忘れられなかった過去。
二人の再会は、もう避けられません。
あの日から、三日が経った。
「最近、どうしたんですか?」
セリアが尋ねてきた。
「何が?」
「ぼーっとしていることが増えました」
「そうですか?」
「はい」
俺は少し考えた。
あの日。
人財屋の前ですれ違った女性。
顔は、ほとんど見ていない。
それなのに――。
なぜか、ずっと気になっていた。
「昔の知り合いに似ていた気がして」
「知り合いですか?」
「ああ」
俺は窓の外を見る。
日本にいた頃。
よく一緒にいた女性。
近所に住んでいて。
何でも話せる存在だった。
異世界に来てから、一度も会っていない。
もう二度と会えない。
そう思っていた。
「……凛」
気づけば、名前を口にしていた。
「凛?」
セリアが聞き返す。
「昔の知り合いです」
「大切な人ですか?」
「……そうですね」
それ以上は答えなかった。
その日の午後。
俺は商業組合へ向かった。
今回の仕事では、俺がすべての商店を回る必要はない。
「エド、この店をお願いします」
「分かりました」
「レオンは商業組合との打ち合わせを」
「任せてください」
「セリアは応募者の面談をお願いします」
「はい」
三人に仕事を任せる。
それだけのことなのに、少し不思議な感覚だった。
これまでなら、全部自分でやっていた。
でも――。
人が増えれば、自分一人ではできないことができる。
それが組織なのだ。
夕方。
俺が事務所へ戻ると、セリアが笑顔で迎えてくれた。
「今日、三人面談しました」
「どうでした?」
「一人、すごく良い人がいました」
「採用候補ですね」
「はい」
エドも報告を終える。
「商店側との調整も問題ありません」
レオンも頷く。
「商業組合から追加の依頼が来ています」
俺は三人を見る。
「……すごいですね」
「何がですか?」
「俺がいなくても、仕事が進んでいる」
三人が顔を見合わせる。
そしてセリアが笑った。
「当たり前です」
「……そうですね」
少し嬉しかった。
人財屋は、俺一人の店ではない。
少しずつ――。
みんなの場所になっている。
一方。
王都の別の場所では、凛が一人で歩いていた。
あの日。
人財屋の前で聞いた声。
ほんの一言だった。
でも、忘れられない。
「……直人だった」
確信はない。
顔も見ていない。
それでも、分かる。
長い時間を一緒に過ごした。
何度も聞いた声だったから。
「次は……」
凛は足を止める。
「ちゃんと会う」
今度は逃げない。
そう決めた。
その夜。
人財屋の事務所。
俺は一人で帳簿を整理していた。
窓の外を見る。
王都の夜景。
そして、ふと思う。
あの女性は――。
今頃、どこにいるのだろう。
もう会えないと思っていた人。
もし本当に、この世界にいるのなら。
「……まさかな」
俺は小さく笑った。
まだ確信はない。
でも。
心のどこかでは――。
もう一度会えるような気がしていた。
今回は、再会の直前にある二人の気持ちを中心に描きました。
過去の関係があるからこそ、再会した瞬間にすべてが元通りになるわけではありません。
ここから二人がどんな関係を築いていくのか。
ゆっくり見守っていただければと思います。
Amane




