すれ違う二人
第二章 第24話】
人財屋を訪れた、一人の女性。
その人物は、直人にとって忘れられない存在でした。
しかし、二人はまだお互いの正体に気づきません。
すれ違う二人の距離は、少しずつ近づいていきます。
人財屋に、新しい朝が来た。
「この書類はこちらでまとめます」
エドが机の上の書類を整理していく。
「助かります」
俺は商業組合から届いた資料を確認する。
昨日までなら、これを全部俺がやっていた。
依頼を受ける。
話を聞く。
人を探す。
資料をまとめる。
商店と交渉する。
すべて自分でやるしかなかった。
でも今は違う。
「エド、この商店についてどう思います?」
資料を渡す。
「そうですね……」
エドはしばらく考えた。
「この店は、人を増やすより先に、仕事の分担を見直した方がいいと思います」
「理由は?」
「現在の従業員三人のうち、一人に業務が集中しています」
俺は頷いた。
「正解です」
エドが少し驚いた顔をする。
「本当ですか?」
「はい」
「……よかった」
小さく笑った。
その様子を見て、セリアも笑う。
「エドさん、少し自信が出てきましたね」
「そうでしょうか」
「最初はずっと緊張していましたから」
レオンも頷いた。
「人財屋に入ってから、表情が変わりました」
俺は四人を見た。
人財屋は、少しずつ変わっている。
人を紹介する場所から。
人が働き、成長する場所へ。
そんな未来が、少しだけ見えてきた。
その日の昼。
俺は商業組合へ向かうため、事務所を出た。
「行ってきます」
「お気をつけて」
セリアが手を振る。
俺は街へ出た。
その頃――。
凛もまた、王都の街を歩いていた。
「ここ……」
昨日、馬車から見えた看板。
人財屋。
凛はその場所を探していた。
通りを一つ曲がる。
さらにもう一つ。
「……あった」
小さな建物。
入口には見覚えのある名前。
人財屋
凛の胸が大きく高鳴る。
「直人……」
扉に手を伸ばす。
しかし――。
その瞬間。
「すみません」
後ろから声をかけられた。
凛が振り返る。
「はい?」
「この辺りに、人財屋という店はありますか?」
「……ここです」
「ありがとうございます」
凛が答える。
そして再び扉を見る。
けれど――。
中から出てきたのはセリアだった。
「あら?」
セリアが凛を見る。
「何かご相談でしょうか?」
「……」
凛は言葉を失った。
目の前にいる少女。
知らない人物。
けれど、その先に――。
直人がいる。
「いえ……」
凛は一歩下がった。
「今日は、また来ます」
「はい。いつでもどうぞ」
凛はその場を離れた。
その直後。
通りの反対側から俺が戻ってきた。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
セリアが答える。
「さっき、誰か来ました?」
「はい。女の子が」
「依頼ですか?」
「それが、すぐ帰ってしまって……」
「そうですか」
俺は何気なく通りを見る。
そこには――。
遠ざかっていく一人の少女の背中。
なぜか、ほんの一瞬だけ目に留まった。
「……?」
知らない人。
そう思った。
けれど。
その背中を見た瞬間、胸の奥に懐かしい感覚が走った。
俺は無意識に一歩、前へ出る。
「直人さん?」
「……いや」
俺は首を振った。
「何でもありません」
少女の姿は、人混みの中へ消えていった。
そして凛もまた、歩きながら振り返る。
遠くに見えた人影。
「……今の」
胸が苦しくなる。
声を聞いたわけでもない。
顔を見たわけでもない。
それでも――。
「直人……?」
二人は、ほんの数十メートルの距離ですれ違っていた。
あと少し。
ほんの少しだけ、タイミングが違っていたら。
二人は――再会していた。
再会は、もうすぐそこまで来ています。
ただ、今回はあえてすぐに再会させず、少しずつ距離を縮めてみました。
長く離れていた二人だからこそ、再び出会ったときに何を思うのか。
その瞬間を楽しんでいただければ嬉しいです。




