初めての相談客
第18話です。
人財屋を開業して数日。
少しずつ依頼が増え始めた直人たちのもとに、一人の女性が相談に訪れます。
「何でもできる。でも、どれも中途半端」
そう思っていた彼女に、直人が見つけた才能とは――。
人財屋だからこそ見つけられる、人の可能性。
今回も新たな出会いが待っています。
どうぞお楽しみください。
人財屋を開業してから、三日。
「……誰も来ませんね」
セリアが窓の外を眺めている。
「まだ三日ですよ」
「でも、看板も出しました」
「三日で評判が広がるほど甘くないですよ」
俺がそう言うと、レオンが静かに頷いた。
「でも、昨日の男性は?」
「採用が決まりました」
「じゃあ、仕事はしています」
「そうですね」
俺は笑った。
昨日相談に来た男性は、商会で働くことになった。
人手不足だった商会。
そして仕事を探していた男性。
双方にとって必要な出会いだった。
紹介料として受け取った金額も、決して大きくはない。
それでも――。
「最初の売上ですね」
セリアが嬉しそうに言う。
「はい」
俺は帳簿に数字を書き込んだ。
人財屋。
売上。
利益。
経費。
まだ小さな数字しかない。
でも、会社を経営していた頃と同じだった。
最初は、こういうところから始まる。
そのとき。
コンコン。
入口を叩く音がした。
三人が一斉に顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
俺が扉を開ける。
そこに立っていたのは、二十代くらいの女性だった。
「ここが……人財屋ですか?」
「はい」
「あの……仕事の相談をしたくて」
「どうぞ」
女性を椅子へ案内する。
「名前は?」
「ミアです」
「今、仕事を探している?」
「はい」
ミアは少し俯いた。
「以前は宿屋で働いていました」
「辞めた理由は?」
「……仕事がなくなって」
「宿屋が潰れた?」
「違います」
ミアは首を振る。
「私が、必要ないと言われました」
セリアの表情が曇る。
「どういうことですか?」
「料理もできます。掃除もできます。接客もできます」
「それなら、仕事がありそうですが」
「はい……」
ミアは困ったように笑う。
「でも、全部中途半端だと言われました」
俺は黙って彼女を見る。
そして――。
《人財鑑定》
表示が浮かんだ。
【接客能力:A】
【調理能力:A】
【清掃能力:A】
さらに、その下。
【状況対応力:S】
「……」
俺は少し驚いた。
「ミアさん」
「はい」
「あなたは、自分が何でも中途半端だと思っていますか?」
「……はい」
「違います」
ミアが顔を上げる。
「あなたは、何でもできるんです」
「え?」
「一つの仕事だけを専門にするタイプじゃない」
俺は続けた。
「人手が足りない場所で、複数の仕事をこなせる人です」
ミアは黙って俺を見る。
「それは、この世界ではかなり価値があります」
「……私に?」
「はい」
セリアが小さく頷く。
「直人さんは、人の良いところを見つけるのが得意なんです」
ミアの目に、少しだけ光が戻った。
「私……本当に仕事が見つかりますか?」
「探します」
俺は即答した。
「あなたに合う場所を」
これが、人財屋の仕事だ。
できないことを責めるのではない。
できることを見つける。
そして、それを必要としている場所につなげる。
その日の午後。
俺たちは王都の宿屋を何軒か回った。
そして――。
一軒の小さな宿で、店主が言った。
「実は、ちょうど人が足りなくてね」
ミアが驚く。
俺は笑った。
「ほら」
「……ありがとうございます」
ミアは深く頭を下げた。
その帰り道。
「直人さん」
「はい?」
「人財屋って、いい仕事ですね」
セリアが笑った。
「そう思いますか?」
「はい」
レオンも頷く。
「人が喜んでいます」
俺は二人を見る。
「だったら、もっと大きくしましょう」
「もっと?」
「はい」
俺は新しい拠点を振り返った。
小さな一軒家。
小さな看板。
小さな会社。
でも――。
確実に人が集まり始めている。
その頃。
王城では、凛が一枚の書類を受け取っていた。
「勇者様」
「何ですか?」
「王都で少し変わった商売をしている者がいるようです」
「商売?」
「はい」
凛が書類を見る。
そこには――。
『人財屋』
という名前があった。
「……人財屋?」
なぜだろう。
その言葉を見た瞬間。
胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。
そして凛は、無意識にその紙を強く握った。
「……まさかね」
まだ二人は、出会わない。
けれど――。
確実に、互いの存在を知るところまで近づいていた。
第18話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、自分では「中途半端」だと思っていた才能が、別の場所では大きな価値になるというお話でした。
人には、それぞれ違った得意なことがあります。
大切なのは、それを活かせる場所を見つけること。
直人の人財屋も、少しずつその役割を果たし始めています。
そして、凛のもとにも「人財屋」の名前が届き始めました。
二人の再会も、少しずつ近づいています。
Amane




