人財屋、開業
第17話です。
新しい拠点を手に入れた直人たち。
いよいよ、自分たちの場所で「人財屋」としての仕事を始めます。
まだ小さな事務所。
まだ三人だけの人財屋。
それでも、最初の相談客が訪れたことで、新しい物語が動き始めます。
そして一方、凛のもとにも少しずつ変化が――。
どうぞお楽しみください。
翌朝。
俺は一階の窓を開けた。
朝の風が室内に入り込む。
昨日まで、ここはただの空き家だった。
でも今は違う。
机がある。
椅子がある。
書類を置く棚もある。
そして、入口には――。
『人財屋』
昨日、セリアと一緒に作った看板が掛かっていた。
「……完成ですね」
セリアが嬉しそうに見上げる。
「思ったより、それっぽくなりました」
レオンも看板を見ている。
「これで、誰か来ますかね?」
「来るでしょう」
俺は答えた。
「仕事を探している人も、人を探している人も」
これまで俺たちは、ギルドから依頼を受けていた。
でも今日からは違う。
ここが、俺たちの仕事場になる。
俺は机の上に一枚の紙を置いた。
『人財屋 仕事の相談を受け付けています』
それだけの簡単な案内だった。
「これだけでいいんですか?」
セリアが尋ねる。
「最初は十分です」
「もっと詳しく書かなくても?」
「人が来てくれれば、直接話を聞けますから」
俺は椅子に座った。
会社を始めたばかりの頃を思い出す。
最初から大きな事務所があったわけじゃない。
社員が何十人もいたわけでもない。
仕事を一つずつ積み重ねた。
それだけだ。
「直人さん」
「はい?」
「誰か来ました」
「え?」
入口を見る。
一人の男性が立っていた。
「ここが……人財屋ですか?」
「はい」
「仕事を探しているんですが……」
俺は立ち上がった。
「どうぞ。話を聞かせてください」
男性は少し緊張した様子で入ってきた。
年齢は三十歳前後。
服装は質素。
手には古びた鞄。
「以前は商店で働いていました」
「辞めた理由は?」
「店が閉店しまして……」
「なるほど」
俺は話を聞きながら、男性の様子を見る。
すると――。
《人財鑑定》
文字が浮かんだ。
【接客能力:A】
【計算能力:A】
【交渉能力:B】
さらに――。
【商才:A】
俺は少し驚いた。
「以前、商売をしていたことは?」
「いえ……」
「本当に?」
「はい」
「でも、接客だけじゃなく、数字を見るのも得意ですよね?」
男性が目を見開いた。
「……よく分かりましたね」
俺は笑った。
「人を見るのが仕事ですから」
その言葉を聞いて、セリアが小さく笑った。
これが――。
俺たちの最初の「自分たちで見つけた人財」だった。
一方、その頃。
王城。
「勇者様、こちらへ」
凛は訓練場へ向かっていた。
異世界へ来てから、まだ分からないことばかりだった。
魔法。
魔物。
剣術。
王国の仕組み。
毎日覚えることが多い。
けれど、一つだけ気になることがある。
「……直人」
凛は、またその名前を口にした。
召喚されたとき。
直人とは別々になった。
その後、何度探しても情報がなかった。
「生きてるよね……」
誰に聞くこともできない。
勇者として期待される自分が、弱音を吐くわけにもいかなかった。
凛は拳を握る。
「……私も、頑張らないと」
そして剣を抜いた。
王城の外では、街の人々が行き交っている。
その中には――。
新しく掲げられた看板。
『人財屋』
まだ誰も、その名前が王都を変えることになるとは知らない。
そして。
直人も凛も知らなかった。
二人の距離が、少しずつ縮まっていることを。
第17話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回から、直人たちの人財屋が本格的に動き始めました。
小さな看板から始まった人財屋が、これからどこまで大きくなっていくのか。
そして、直人と凛。
離れ離れになった二人の物語も、少しずつ動き始めています。
ここからさらに、人との出会いが物語を広げていきます。
Amane




