眠っていた人財
第14話です。
商会の問題を調べる中で、直人たちは一人の女性と出会います。
彼女は毎日懸命に働いているものの、自分自身の才能には気づいていませんでした。
そんな彼女を見た直人が、人財屋として出した答えとは――。
「できる人」に仕事を集めることと、「人財を活かす」ことは同じではない。
直人の考える人財屋の形が、少しずつ見えてきます。
どうぞお楽しみください。
床に散らばった帳簿を、女性が慌てて拾い始めた。
「すみません……」
「大丈夫です」
俺も一緒に帳簿を拾う。
近くで見ると、かなり細かく書き込まれている。
商品名。
入荷日。
数量。
販売数。
残数。
さらに、その横には女性自身が書いたと思われるメモまである。
「これ、全部あなたが?」
「はい……」
「名前は?」
「リナです」
リナは小さな声で答えた。
「この商会で働いてどれくらい?」
「三年です」
「三年……」
俺は帳簿をめくる。
数字の間違いがほとんどない。
しかも、ただ記録しているだけではない。
商品が動く傾向まで書き込まれている。
「この数字、分かりやすいですね」
「え?」
「どの商品が売れているのか、一目で分かります」
「……ありがとうございます」
リナが少し驚いた顔をする。
おそらく、今まで誰かに褒められたことがないのだろう。
「でも、どうして一人で全部やっているんです?」
俺が尋ねると、リナは少し黙った。
「人が足りないので……」
「だから、あなたが?」
「はい」
「毎日?」
「……はい」
俺はグレイさんを見る。
「これが原因じゃないですか?」
「え?」
「三人が辞めた理由」
グレイさんの顔が固まった。
「リナさんに仕事が集中している」
「……」
「そして、リナさんも一人で抱えている」
「彼女が優秀だったので、つい……」
グレイさんが言葉を濁す。
「優秀だから仕事を増やす」
俺は苦笑した。
「それ、よくあるんですよ」
会社でもそうだった。
できる人に仕事が集まる。
できるから任せる。
任されるからさらに忙しくなる。
そして――。
限界を迎える。
「人財を活かすというのは、仕事を押し付けることじゃありません」
グレイさんが黙って俺を見る。
「能力に合った仕事を任せて、その人が長く働ける環境を作ることです」
「……」
「リナさんは管理が得意です」
俺は帳簿を見せる。
「でも、倉庫作業まで全部やる必要はない」
リナが顔を上げた。
「私……管理が得意なんでしょうか?」
「少なくとも、俺にはそう見えます」
「でも、私は普通の事務員で……」
「普通?」
俺は首を傾げる。
「三年間の在庫をほとんど正確に管理している人が、普通ですか?」
「……」
リナは答えられない。
俺は《人財鑑定》を見る。
そこには、はっきりと表示されていた。
【事務処理能力:S】
【管理能力:SS】
【分析能力:A】
そして――。
【潜在能力:SS】
「リナさん」
「はい」
「もし、もっと管理の仕事に集中できる環境があったら、どうします?」
「……やってみたいです」
初めて、リナがはっきり答えた。
「だったら、やりましょう」
「でも……」
「大丈夫です」
俺はグレイさんを見る。
「この商会には、新しい人が必要です」
「はい」
「ただ、人を増やすだけではありません」
倉庫を見る。
「仕事を分けます」
レオンが頷いた。
「俺は倉庫の動線を見直せます」
「セリアは?」
「簡単な管理用魔道具なら作れます」
「そしてリナさんには、在庫管理に集中してもらう」
四人が顔を見合わせた。
「……そんなことが」
グレイさんが呟く。
「できます」
俺は答えた。
「これが、人財を活かすということです」
その日の午後。
俺たちは倉庫の整理を始めた。
レオンが商品の配置を確認する。
「これは出入口の近くに」
「これは奥でいいです」
「薬草は種類ごとに分けたほうがいいです」
セリアは簡単な管理用の魔道具を作っていく。
「これを使えば、箱に触れたときに中身を確認できます」
「便利ですね」
リナは帳簿を整理する。
「この商品は、ここ三か月で売上が増えています」
「本当?」
グレイさんが驚く。
「はい。こちらの商品は逆に減っています」
俺はリナを見る。
彼女の表情が変わっていた。
今までの不安そうな顔ではない。
自分の仕事を、自分の能力で進めている顔だ。
夕方。
倉庫の整理が一段落した。
「……見違えました」
グレイさんが呟く。
「まだ途中ですよ」
俺は笑った。
「でも、これなら人を増やせば、かなり変わります」
「人を探してもらえますか?」
「もちろんです」
正式な依頼として、人財探しを引き受ける。
これが、俺たちにとって初めての人財紹介の仕事だった。
そして帰り道。
「直人さん」
セリアが隣を歩きながら言った。
「何ですか?」
「今日、少し会社っぽかったですね」
「会社?」
「はい」
レオンも頷く。
「役割分担ができていました」
俺は少し考えた。
会社。
懐かしい言葉だった。
でも――。
「そうですね」
俺は笑った。
「いつか、本当に会社にしましょうか」
「会社……」
セリアが呟く。
レオンも前を向く。
「面白そうですね」
まだ三人。
まだ小さな人財屋。
けれど、その日。
俺たちは初めて、「組織を作る」という未来を意識した。
第14話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、リナという新しい人物が登場しました。
自分では特別だと思っていなくても、誰かにとっては必要不可欠な才能があります。
その才能を見つけ、活躍できる場所につなげる。
それが直人の目指す「人財屋」です。
そして、三人の人財屋自身にも少しずつ変化が起きています。
ここから、直人たちの仕事と人間関係がさらに広がっていきます。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




