商会の問題
第13話です。
商会から依頼された在庫整理。
しかし、現場を見た直人は、単なる在庫の問題ではないことに気づきます。
人が辞める。
残った人に仕事が集中する。
そして、さらに人が辞めていく――。
直人は、経営者としての経験を活かし、問題の本質を探っていきます。
果たして、商会が抱える本当の問題とは――。
どうぞお楽しみください。
商会の倉庫を見渡しながら、俺は考えていた。
箱が多い。
商品も多い。
だが、それだけが問題ではない。
「グレイさん」
「はい」
「三人が辞めたのは、いつ頃ですか?」
「半年前からです」
「三人とも同じ時期?」
「正確には、半年の間に一人ずつです」
「理由は?」
グレイさんが少し黙った。
「……仕事がきつかったから、と聞いています」
「具体的には?」
「長時間働かせていたわけではありません」
「では、他に何か?」
「分かりません」
その答えを聞いて、俺は倉庫を見る。
会社を経営していた頃にも、似たようなことがあった。
社員が辞めた。
経営者に理由を聞けば、
「本人の都合です」
そう答える。
でも、本人に聞いてみると違う。
上司との関係。
仕事量。
評価。
将来への不安。
辞める理由は、一つとは限らない。
「レオン」
「はい」
「倉庫を見ていて、気になるところはありますか?」
レオンは黙って周囲を見渡した。
しばらくして、一つの箱を指差した。
「これです」
「何?」
「置き場所が違います」
グレイさんが驚く。
「それは薬草です」
「はい」
「薬草だから、ここでいいのでは?」
「違います」
レオンは別の棚を見る。
「あそこに同じ種類があります」
「……本当だ」
「でも、こちらは古いです」
グレイさんが箱を開ける。
「確かに……」
中の薬草は少し色が変わっていた。
「期限が近い商品が、奥に置かれています」
俺は頷いた。
「つまり、先に売るべき商品が後ろにある」
「はい」
「そして新しく入ってきた商品が前に置かれている」
「そうです」
グレイさんが頭を抱えた。
「……これでは、売れるものまで廃棄することになります」
「その可能性がありますね」
俺は倉庫を歩いた。
問題は在庫の量ではない。
管理方法そのものだ。
「グレイさん」
「はい」
「前にいた三人は、ここで何をしていたんですか?」
「商品の整理と出荷です」
「三人が辞めてから、誰が?」
「私と、残った二人です」
「なるほど」
人が減った。
仕事量は変わらない。
だから残った人たちに仕事が集中する。
整理する時間がなくなる。
在庫が乱れる。
さらに仕事が増える。
そして――。
また人が辞める。
「悪循環ですね」
「……はい」
グレイさんは俯いた。
「私も、どうすればいいのか分からなくなっていました」
俺は少し考えた。
「まず、在庫を整理しましょう」
「はい」
「でも、それだけでは終わりません」
「……採用ですか?」
「そうです」
グレイさんが俺を見る。
「ただし、誰でもいいわけではありません」
「どういうことです?」
「この仕事に向いている人を探します」
レオンを見る。
「細かい変化に気づける人」
セリアを見る。
「魔道具や管理の仕組みに詳しい人」
そして自分を指す。
「その人たちが働きやすい環境を作る人」
グレイさんが目を見開いた。
「それが……人財屋?」
「はい」
俺は笑った。
「人を紹介するだけじゃありません」
それぞれの得意なことを見つけて、活躍できる場所につなげる。
それが俺の考える人財屋だ。
「でも、そんな人が簡単に見つかりますか?」
「探します」
「どこで?」
「まずは王都です」
俺は倉庫を見渡した。
ここには、まだ問題が残っている。
でも、解決できない問題ではない。
「グレイさん」
「はい」
「この商会、本当に人手が足りないんですよね?」
「はい」
「だったら――」
俺は依頼書を手に取った。
「人を探しましょう」
その瞬間。
俺の頭に、ふと日本での仕事が蘇った。
人を探す。
面接する。
適性を見る。
企業と人をつなぐ。
俺が長年やってきた仕事だ。
まさか異世界でも、同じことをするとは思わなかった。
「直人さん」
セリアが声をかける。
「はい?」
「なんだか、楽しそうですね」
「……そう見えます?」
「はい」
俺は笑った。
「たぶん、好きなんでしょうね」
「何がですか?」
「人の才能を見つけることが」
その言葉に、レオンが静かに頷いた。
「俺も……少し分かる気がします」
「本当ですか?」
「はい」
レオンが倉庫を見渡す。
「ここにも、まだ気づいていないことがありそうです」
「……そうですね」
そのときだった。
倉庫の奥から、何かが落ちる音がした。
ガシャーン。
「何だ?」
三人で振り向く。
そこには――。
一人の若い女性が立っていた。
手には大量の書類。
そして、床には散らばった帳簿。
「あ……」
女性が青ざめる。
「す、すみません!」
グレイさんの表情が変わった。
「君……また一人でやっていたのか?」
「……はい」
「どうして言わなかった?」
「私がやらないと、終わらないので……」
俺は彼女を見る。
その瞬間。
頭の中に、《人財鑑定》の文字が浮かんだ。
――そして。
俺は思わず目を見開いた。
【事務処理能力:S】
さらに、その下には――。
【管理能力:SS】
俺は彼女を見つめた。
「……見つけた」
「え?」
セリアが不思議そうに俺を見る。
俺は笑った。
「最初の人財候補です」
商会の問題を解決するための人財。
その人は、すでにこの場所にいた。
第13話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、直人が「人を紹介する」だけではなく、組織そのものの問題に目を向け始めました。
人が足りないから採用する。
それだけでは、同じ問題を繰り返してしまうことがあります。
人が力を発揮できる場所を作ることも、人財屋の大切な仕事。
直人のこれまでの経験が、少しずつ異世界で活かされ始めています。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




