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[アヴァン-スノッビィ・ヴィジョン/AD****第3号]

衝撃スクープ!!! 「ノエルの悲劇」現場映像独占入手!!!

その時、サン・ターシュ教会に何が起きたのか!?

*心臓に疾患のある方はご遠慮ください*

(マリア・サン・ターシュ生前の画像)

(サン・ターシュ邸、炎上の動画像)

(マリア・サン・ターシュと判明した焼死体が現場で発見された時の画像)

(同じくマーティン、ジョセフィン夫妻の遺体の一部の画像)


関係者の証言により構成。その時何が起きたのか――大胆予測再現VTR





 これからどうするべきなのか、というようなことが全く分からず、ただ、IDカードを持っていなくても何とかなる場所に行くことしか思い付かなくて、ひとまずエスパ州側に向かい、エスパに残る「いかがわしい街」に入った。

 その時に、こういう街で、IDカードを使わずに生きていける、イコール、金が貰えることは何かと考えたら、結局、自分には自分の体しか残っていないことが分かって、男娼というものになった。

 家は無く、その日暮らしをしながら、しばらくエスパの歓楽街で生きている時、とてもうらびれた場所に、

「アヴァン-スノッビィ通信がタダで読める店。―各ブース全てに無料で配信しております―」

という看板を出している、飲み屋だか飯屋だかを見つけた。

 ハイスクールに在学中、少々、グレていた男娼は、昔を思い出してその店に入ってみた。

 アヴァン-スノッビィ通信は、成人規制のあるゴシップ誌で、グレて大人に反発したがるような子供にとっては、憧れ――と云っては妙だが、やけに魅力的に映っていた。

 IDカードを必要としない店だったので、男娼にとってラッキーだったが、よく考えてみれば、アヴァン-スノッビィを無料で客の全てに配信しているのにちゃんとした年齢チェックもしないというのは―入り口でスピーカが、「受付機器に年齢を入力してください」と云い、偽りの年齢を入力すると、すんなり店内に入れた―、もしお上にバレたら大変なことになるのじゃないか。――そんなことは、「こんな店、二度と来るか」と思った、その後に思い付いたことだったけども。

 後々知ることになる、とても古めかしいのに上品な酒場と比べたら、「清潔」で「乾いている」けれども、下品、な酒場だった。

 ブース、と看板に書いていたが、完全な個室にはなっていない。店内の照明は暗く、人の顔は判別出来ない。そんな場所の床に、「こちらの席へどうぞ」という、矢印が現れ、それに従って席へ向かう間に、先客があるブースの脇を通り過ぎた。

 ブツブツ独り言を呟きながら酒を飲んでいる客が居たり、――男だか女だか分からないのが、男の胸にしなだれかかって、鼻声を出していたり。全て通路に背中を向ける形になるブース席だ、そんな背中の後ろを、案内されて歩いていくことになる。

 椅子に座り、テーブルの上のパネルを見ると、メニューのリストが出ていた。その中から、「ビール」と「トマト・パスタ」の文字を指で触り、OKの文字を触った。

 メニューのリストをよく見てみると、……「ばい菌」なんかは居なさそうな店内なのに、後に知る黒猫酒場とは段違いにいかがわしい店であることがつくづく分かった。

 すみっこに小さく、背景の色と似たような文字で見えにくくしているが、「期間限定特価:マース産麻・芥子」「ダウナー・アッパー共、ケミカル常時在庫アリ」という文字が見えた。

 そう云えば、このご時世に、こんな店とは云え店内で、人体の実物同士をべたべたくっつけて助平なことでもしているのだろうカップルが居た。案外、どっちかが同業者だったりするのかもしれない。

 VRセックス屋ですらも、生身を売っている男娼や娼婦を白い目で見るような世界だ、この店は、歓楽街の中でも、かなりの底辺にあるのかも知れない。――が、底辺と云いつつ、まるで逆さピラミッドのようなもので、却ってそんな店は他に無い分、営業を続けていけるだけの黒が出る程度には客が居る、ということなのだろう。

 ……この店は、ホテル代金という実費を渋るような客に、手軽にサービスしてチップを貰う場所としては適しているのかもしれないな、そんなことを男娼はぼんやり思いついた後、もともとこの店に入るつもりになった、「アヴァン-スノッビィ通信」の「最新号 (ヴィジョン)」という文字を触った。

 無料で配信とは云え、一応、客の側に選択の余地は与えている。見たい人はこの文字を押せばいい、見たくない人は押さなければいい、どうせどっちにしたってタダだ、そういうことだ。

 ――と、再びよく考えてみれば、そう安くはない「アヴァン-スノッビィ通信」を営業目的で法人として購入出来るということは、やっぱり、この店は結構稼いでいるのだろう…。

 チューブを通ってきたビールとパスタを脇に置いて、ちびちび口に運びながら、何だか、自分の魂がどこにあるのか分からない感じで、パネルから目の前のテーブルに映し出された、3Dの映像を見た。

 テーブルの上に、箱庭が現れたような。自分が、「神になったような」。そんな視点で、テーブルの上に現れた映像を男娼は見ている。

 同じ頃に、同じ文字を触った客が居たのか、

「…ひょう…、こんなになっちまえば、美人もブサイクもおんなじだな」

という声が、微かに聞こえた。

 男娼も、本当にそうだな、と思った。美人かブサイクか、……これが誰なのか、全く分からない、まだ白い煙を仄かに立ち上らせている、真っ黒に焦げた焼死体。

「うえっ、気持ち悪い……。ああ、もうちょっとはっきり、先に云っててくれりゃいいのにさ。これで金取られたんじゃ、詐欺だって云うよ」

 そんな声も聞こえた。

「これ、現場の映像だろ…。消防か司法に、このネタ売ったヤツが居るのかな」

 クスクス笑いながらそんなことを云う声も微かに聞こえた。

 あ、そうか、そんなことでもなきゃ、こんなゴシップ誌がこういう映像載せられないよな、と思い付いた。そうでなければ、アヴァン-スノッビィ通信の記者に、余程、自分の身を顧みないほどの野次馬魂に充ち満ちた者が居るのか…―「真実を伝える使命感」に燃えた記者であれば、こういうゴシップ誌で自分の体を張るのは不本意であろうし―。

 次に現れた映像は、予測再現動画だったから、一層、現実感は無く、胸が悪くなるような映像だったのに、金を払うのだから食わなければ損だ、とパスタはちゃんと減っていく。

 消防に連絡が届く、一時間ほど前の出来事を、再(、)現(、)した映像だ。

 優等生の姉と、政府からの任務を受けた優秀な両親、グレて家族の中で孤立した長男は、その日も、些細なことで諍いを始めた。

 放っておけ、と寝室に戻る父親・マーティンさんと、涙混じりに「あなた、待って、シェレの云うことも聞いてあげて」と父親を追いかける母親・ジョセフィンさん、「シェレ、あなたどういうつもりなの? あなただって、お父さんが嫌いなのじゃないでしょう?」興奮して暴れる弟を宥めようとする姉・マリアさん。

 ……「うるさい!」と怒鳴って、激昂し、(どこから?)銃を取り出して、姉の頭を吹っ飛ばしてしまった、弟・シェレさん。未成年なので、再現VTRで演じているホログラフィには顔が無かった。

 血まみれになって横たわる姉を見下ろし、いっそ、こんな家無くなってしまえばいい、と(どこに?)隠し持っていた爆弾を、弟シェレさんがばらまく。

 家を飛び出し、爆発音を聞きながら、暗い夜道へ去っていく、IDを失った男――。

 男娼は、パスタを食べ終わり、パネルの「STOP」という文字を触って、テーブルの上の小さなスペースで繰り広げられる三文ドラマを、途中で消した。

 「食器をチューブに戻して頂けたら、自動的に精算画面に移ります」という文字があったので、その通りにした。

 すると、金額が現れ、「小切手も使えます」という注釈もあった。

 小切手を、パネルの下の方にある挿入口に通し、精算を済ませると、床がまた、「出口はこちら」と矢印を浮かべた。

 店を出て、男娼は、「二度と来るか」と呟いた。

 随分下らないゴシップ誌に憧れていたのだな、と自分が情けなくなった。

「俺は、マリーを殺してなんかいない」


 男娼は、まともな報道をまともには目にしておらず、どこかで、「ノエルの悲劇は結局、解決したのかな、それとも未解決なのかな」なんて曖昧なことを耳にしただけだった。

 アヴァン-スノッビィ通信が、司法当局からのクレームと、その後の訴えと裁判のために、AD****第5号を以て休刊、未だに発行再開はされていないことも知らない。

 自分の立場も判らないまま、ただ、「身を隠すのが正解なのだろう」と思い続け、男娼を続け、トリコ州に移動し、パリスに残ったいかがわしい街に入った。

 エスパ側と比べてみると、「ノエルの悲劇」事件は、余り人の記憶には残っていなくて、これは、生きやすい街かもしれない、と感じた。

 しかし、客が取れないときの雨は、エスパに居るときよりも痛い、そんなことを思いながら、全財産の入ったバッグを、自分よりも大事に、絶対に濡らさないように、抱え続けていた。



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