第8話 「もう、逃げません」
王都へ戻る馬車の中。
私は、ずっと黙っていた。
隣には、セシル。
いつも通り近い。
でも、今回は違う。
空気が、重い。
(……ちゃんと、話さなきゃ)
逃げてばかりじゃ、何も変わらない。
◆ 沈黙の理由
「……リリアーナ」
先に口を開いたのは、彼だった。
「怒ってる?」
「……怒ってない」
正直。
怒る元気もない。
「ただ……怖かった」
ぽつり。
「捨てられると思って……」
彼は、はっとした。
「……捨てる?」
「ローゼリアと……話してたから……」
「……ああ」
すぐに察したようだった。
「誤解だよ」
私の方を向く。
「全部、君のためだった」
◆ 真実の告白
セシルは、静かに語り始めた。
「辺境領の開発計画」
「覚えてる?」
「……うん」
「将来、君と静かに暮らす場所を作ってた」
……え?
「王都は危険が多い」
「陰謀も、政争も」
「だから、逃げ場を用意してた」
胸が、ぎゅっと締まる。
「ローゼリアとは、その調整をしてただけ」
「縁談なんて、最初から断ってる」
「書類も、全部破棄した」
(……そんな……)
私は、何も知らずに。
勝手に、傷ついて。
逃げて。
「……言ってよ……」
声が震える。
「言えば、逃げただろ」
苦笑。
「だから、言えなかった」
……ずるい。
◆ ヒロインの本音
「…こんなのありえないって思うかもしれないけど…私ね……」
深呼吸して、言う。
「ずっと怖かったの」
「原作では、あなたが私を断罪するから」
――初めて、秘密を打ち明けた。
「……未来を、知ってるの」
彼は、黙って聞いていた。
「だから、好かれるのも、嫌われるのも、全部怖くて……」
「逃げるしかなかった」
沈黙。
やがて。
彼は、そっと私の手を取った。
「……そんな未来」
「僕が壊す」
即答だった。
◆ 初めての正式告白
馬車が、止まる。
王都が見えた。
でも、彼は降りない。
私の前に、跪く。
「……えっ!?」
「リリアーナ」
真剣な目。
「君が逃げても、泣いても、疑っても」
「僕は全部愛してる」
低く、はっきり。
「君を一生、離さない」
……重い。
けど。
嬉しい。
涙が出る。
「……私も……」
声が詰まる。
「怖いけど……」
「愛は重いけど……」
「好きだよ」
彼は、目を見開き。
次の瞬間。
強く、抱きしめた。
「……ありがとう」
震えている。
珍しく。
◆ 約束
「もう、逃げない?」
囁く。
「……逃げません」
素直に答える。
「代わりに」
「ちゃんと話して」
「何でも」
彼は、微笑んだ。
「約束する」
「だから……」
額に、そっと口づけ。
「一緒に、生きよう」
私は、小さく笑った。
「……重いね」
「今さら?」
「……うん」
でも。
「好き」
◆ 新しい日記
その夜。
私は、日記に書いた。
『逃亡:終了』
『捕獲:完了』
『恋人:確定』
『幸せ:継続中』
こうして私は。
運命から逃げる悪役令嬢から、
愛されすぎる公爵様の恋人になったのだった――。




