スピンオフ「逃がすつもりは、最初からなかった」
―セシル視点―
◆ 出会った瞬間
最初に彼女を見た時。
世界が、止まった。
人混みの中。
転びそうになって。
慌てて立ち上がって。
恥ずかしそうに笑った。
――それだけ。
それだけだったのに。
(……この人だ)
理由はない。
直感。
いや。
本能だった。
失ったら、死ぬ。
そう、理解した。
◆ 触れられたくなかった
彼女は、無自覚だった。
誰にでも優しくて。
笑顔を振りまいて。
……無防備すぎる。
周囲の男が見るたび。
胸が焼けた。
(見るな)
(近づくな)
(触るな)
全部、僕の。
◆ 逃げた日
彼女が消えた日。
世界が、壊れた。
屋敷。
部屋。
街。
国境。
全部、探した。
三日、眠らなかった。
五日、食べなかった。
七日目。
ようやく、見つけた。
(……生きてた)
それだけで。
泣きそうだった。
同時に。
(もう二度と、逃がさない)
決めた。
◆ 監視という名の愛
人は言う。
「やりすぎだ」
「異常だ」
知ってる。
でも。
知らない人間に。
彼女の価値は、わからない。
✔ 宿の主人
✔ 学院の教師
✔ 商人
✔ 郵便配達
全員、僕の管理下。
彼女の周囲は。
僕の城だ。
◆ 他人は敵
笑いかけられると。
殺意が湧く。
……しないけど。
する必要がない。
排除すればいい。
遠ざける。
異動させる。
配置換え。
合法的に。
完璧。
◆ 嫉妬の夜
ある夜。
彼女が夢で。
知らない男の名前を呼んだ。
……許せなかった。
起こさなかった。
代わりに。
朝まで抱いていた。
逃げられないように。
◆ 結婚=檻
プロポーズは。
愛の告白じゃない。
確保宣言。
「一生、一緒にいて」=「一生、僕のものになって」
同義だ。
彼女は、笑って頷いた。
……可愛い。
無防備すぎる。
◆ 罪悪感
もちろん。
分かっている。
重い。
歪んでる。
普通じゃない。
だから。
傷つけない。
閉じ込めない。
殴らない。
怒鳴らない。
代わりに。
世界を、僕仕様にする。
彼女が困らないように。
逃げる必要がないように。
◆ 幸せの定義
僕の幸せは、単純だ。
彼女が。
笑う。
眠る。
生きている。
それだけ。
そのためなら。
何でもする。
本当に。
何でも。
◆ 本音
誰にも言わない。
彼女にも。
絶対に。
でも。
本当は。
怖い。
いつか。
僕を捨てるんじゃないか。
飽きるんじゃないか。
自由が欲しくなるんじゃないか。
だから。
離さない。
優しく。
完璧に。
逃げ道ゼロで。
◆ 最後に
今も。
隣で、寝ている。
無防備に。
僕を信じて。
……愛しい。
額に、そっとキスする。
「大丈夫」
囁く。
「君は、僕のものだ」
「一生」
彼女は、何も知らずに眠る。
それでいい。
知らなくていい。
この愛が。
檻でできていることなんて




