第11話(最終話) 「世界でいちばん、逃げられない場所」
その日。
王都の大聖堂は、朝から光に満ちていた。
白い花。
金の装飾。
柔らかな音楽。
すべてが、今日のために用意されたもの。
「……現実?」
私は、鏡の前で呟いた。
純白のドレス。
繊細な刺繍。
長いヴェール。
(私が……結婚……?)
かつては。
断罪されて、追放される予定だった悪役令嬢。
それが今。
国一番の公爵と結婚する。
人生、何があるかわからない。
◆ 花嫁控室
「リリアーナ様、とてもお綺麗です!」
「本当に……お人形みたい」
侍女たちがはしゃぐ。
私は、苦笑した。
「……緊張する……」
手が震える。
逃げたくなる。
――昔なら。
きっと、逃げていた。
でも今は。
(逃げない)
隣に行くって、決めたから。
◆ 花婿の異変
一方。
別室のセシルは――
「……大丈夫ですか?」
側近が心配するほど、落ち着きがなかった。
✔ ネクタイ直し10回目
✔ 鏡確認20回目
✔ 深呼吸無限
「……逃げないよな?」
真顔で言う。
「逃げませんよ……」
即答だった。
(まだ疑ってる)
◆ 誓いの瞬間
鐘が鳴る。
扉が、開く。
私は、バージンロードを歩く。
一歩ずつ。
前を見ると。
そこに、彼がいた。
まっすぐな目で。
私だけを見て。
……泣きそう。
隣に並ぶ。
手を取られる。
温かい。
安心する。
「――誓いますか?」
司祭の声。
「はい」
彼が先に答える。
即答。
「一生、彼女を愛し、守り、離さず――」
「離さず?」
私、小声で突っ込む。
彼は、微笑む。
「重要」
真剣。
私は、吹き出しそうになりながら。
「……はい。誓います」
◆ キスと拍手
「では――」
ヴェールが上がる。
近づく。
そっと、口づけ。
優しく。
でも、確かに。
拍手。
祝福。
歓声。
世界が、輝いた。
◆ 披露宴・溺愛公開処刑
披露宴。
セシルは、終始私の隣。
一歩も離れない。
「少し話してくるね」
「僕も行く」
「え?」
「一緒」
常にセット。
貴族たち、苦笑。
「……噂以上ですね」
「通常運転です」
私は答えた。
慣れた。
◆ 新婚初夜(健全)
夜。
新居の寝室。
私は、ベッドに座っていた。
緊張。
すると。
セシルが、正面に跪いた。
「……リリアーナ」
「な、なに……?」
「もう一度、言う」
真剣。
「逃げないでくれて、ありがとう」
……ずるい。
泣く。
「私こそ……追いかけてくれて……ありがとう……」
抱きしめ合う。
静かに。
大切に。
灯りが、落ちる。
◆ 後日談:数年後
数年後。
アルディス公爵邸。
庭。
「お母さまー!」
小さな声。
走ってくる、銀髪の男の子。
……そっくり。
「転んだ?」
「だいじょうぶ!」
嘘つき。
膝、擦りむいてる。
そこに。
「……誰が転ばせた?」
低音。
セシル登場。
「じ、じぶん……」
即白状。
(圧、怖い笑)
◆ 変わらない人
夜。
私は、夫の隣でお茶を飲む。
「ねえ」
「なに?」
「昔、私が逃げてた頃……」
「うん」
「どう思ってた?」
彼は、少し考えて。
「……絶対、捕まえるって」
即答。
ブレない。
「怖くなかった?」
「怖かった」
正直。
「でも……」
私を見る。
「君がいない世界のほうが、もっと怖かった」
……重い。
でも。
愛。
◆ 最後の日記
私は、昔の日記帳を開く。
『逃亡:失敗』
『捕獲:完了』
『現在:妻』
『未来:幸せ』
ペンを置く。
微笑む。
逃げ続けた悪役令嬢は。
世界でいちばん安全で、
いちばん逃げられない場所――
この人の腕の中に、たどり着いたのだった。
✨ 完 ✨
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよろしければ「ブックマーク」「評価☆」をいただけると励みになります。
よろしくお願いします!




