あなたはだぁれ?
マイルが加わって決意も新たになったところでエルフの男性も意を決したように背筋を伸ばした。
「ちょっと待って欲しい」
「?」
「それなら私も渦中の人物として名乗っておくべきだと思う」
お互いに顔を見合わせ、そしてそれもそうだと頷いた。
「私の名前はアーデルハイト、アーデルハイト・ノブルリーと言う」
「ハイジちゃん」
「そうとも言う」
カティナが言うとアーデルハイトは特に気にした様子も無く同意した。
そこになんとなくルナは違和感を覚えていたが……
「どうして仮面を付けてるんですか?」
そちらの方が気になるのでそちらを尋ねることに。
「それは、ええと」
口ごもった後に、アーデルハイトはちらちらと配達員を見やる。
「ここでは話せない、人目につかなくて、屋内とかじゃないと……」
「???」
不思議な物言いである。
「た、ただ、ノブルリー家の暴走を止めたいのが私の今の目標でもある」
「そのためにまずはピスモさんを助けないとですね」
ピスモを助け出し、手紙がこまめに送られていた事を告げて両親の不安を和らげると同時にノブルリー家の陰謀を暴く事が目標である。
いくら離れていたとしてもカティナはちゃんと故郷を忘れずにいるのだ。
それをねじ曲げて彼女の両親の不安を煽るような真似は許されない事である。
「こっちだ、ついてきてくれ」
アーデルハイトの案内で道を進んでいくと、そこには古びた家があった。
カティナの実家と比べると少しだけくすんでいるというか、手入れが行き届いていない印象を受ける。
カティナの実家がお金持ちの屋敷とするなら、こちらは大きな古民家と言った感じ。
軒先に野菜などが吊るしてあったりして生活感がすごいのだ。
「ここなんですか?」
「ああ、そうだよ。自分の中にあるっていうだけの血ばかりを気にする、偏屈な人たちの家さ」
アーデルハイトはどこか冷めた様子でそう吐き捨てた。
「それで……ピスモさんはどこに?」
「一応客間にいるが、今はどうなっているかな」
アーデルハイトの言葉が正しいなら軟禁されている上に無気力にされているらしい。
そうなると当然健康などにも悪影響が出るだろう。
すぐにでも助け出さないといけない。
「誰かいるみたい」
「……大丈夫、彼女は長年、食事の世話をしてくれてる人だ」
家の前で老婆らしきエルフが軒先に干してある野菜をいくつか取っている。
そして腰が悪いのか時折腰をさすりながら家の中へ。
「カティナちゃんと結婚させたいのは経済的な事情もありそうだね」
「かもね」
ティナがいれば生活感や建物の老朽化具合ですぐに、さらに深くまで見抜けただろう。
ルナたちにはカティナの実家に比べればどこか裕福じゃないなーくらいにしか思っていない。
それでもカティナの実家とつながりを持ちたい理由に関しては察せられる。
「血筋ばかり気にしているような家はこうなるのさ」
連れられて入った家は外から見た通りに古びており、ルナはなんとなくカティナの家よりも住み心地がよさそうな気がした。
それほど生活感があり、豪華ではないにしろ風情はある。
元々の建物の完成度の高さがうかがえるが、残念ながらメンテナンスまで手は回っていないようだ。
「クライスばあや、帰ったよ」
アーデルハイトが声を上げると籠を持って廊下を歩いていた老婆のエルフこと、クライスが振り返った。
「あらあら、お帰りでしたか」
柔和な笑みを浮かべるクライスはアーデルハイトが客を連れている事に気付いて籠を床に置いて会釈をした。
「これはこれは、お客様がいらっしゃったとは気づきませんで」
クライスはルナ達を見てもその柔和な笑顔を崩さずに言った。
「ばあや、例の外から来た人は?」
「ええ、客間にいらっしゃいますが」
「彼にはそろそろ帰ってもらおうと思ってね。引き取り手を呼んできた」
そう言うとクライスは少し困った様子でアーデルハイトに歩み寄った。
「よろしいので?旦那様たちが……」
「いいんだ、こんなことはやるべきじゃない。どのみち聖人様が来ているんだ、上手く行きっこないさ」
「さようですね、私もあまりに乱暴なことだとは思っておりましたが」
そう言うと今度は案内役にクライスが加わり、一行は時折きしむ廊下を歩いていく。
「こちらでございます」
「ありがとう、ばあやは何も見ていなかった事にしといてくれ」
「承知しました」
クライスは頭を下げるとルナ達の横を歩いて行ったが、途中でルナの背中にいるクインクを見つけて立ち止まった。
「あら、可愛い子ね、今おいくつなの?」
「じゅ、十歳です」
「あらぁ、可愛いわね。お母さんに似たのかしら?」
どうやらクインクをルナの子供だと思っているようだ。
彼女の歳になると血縁に関係なく子供がかわいいのだろう。
「お、おかあさん……」
「はぁい、なあに?」
クインクは短くそう言うと顔を赤くしてルナの背に顔を埋めた。
ルナが笑顔で応えるとクインクは恥ずかしそうに顔を埋めたまま唸るばかり。
「恥ずかしがり屋なのね、うふふ……皆少し前までこんな感じだったのにねぇ」
「うふふ、今が可愛い盛りです」
「そうねえ、そうしてくれるのもあとどれくらいかしら」
「そうですねぇ」
ルナとクライスが笑顔で言う。
(えっ、この子、実はお母さんなの?)
配達員はそのやりとりを見て普通に誤解した。




