抜け出せ!
エトナーがずんずんと先に進んでいくのを梁の上で見ていた二人はどうしたものかと考えていたが
「声をかけるべきか……」
「待って」
そこにカティナが待ったをかけた。
「どうした?」
「友達の姿が見えないの」
一緒に来ていたはずのルナとクインクの姿が見えないことに気付いたのだ。
咄嗟にカティナはエトナーが囮を買って出たのではと思い、ルナが何処にいるかを探した。
「聖人様しか居なかったから、もしかしたら二手に分かれて探してくれてるのかも」
「大丈夫なのかい?」
「うん、私の友達はとっても強いんだよ」
そうして様子をうかがっているとエトナ―を皆が追いかけて行った後にルナがクインクを背負ったままこそこそと歩いているのが見えた。
「あ、いた。ルナちゃん」
「あの子が?」
男性の問いかけに頷くとカティナは風の魔法でルナに合図を送った。
すると髪を纏めていたからかルナに当たらず、背にいるクインクの頭に風が当たった。
「むぅ?」
髪がなびいたことに気付いたクインクが上を見上げるとカティナが見えたがその隣に変な仮面が見えたので唖然としている。
「ご、ごしゅじん、変な人とカティナさんがいます!」
「えっ?」
クインクが天井を指さすので視線を上に向けるとカティナが手を振っているのが見える。
しかしその隣では仮面が薄暗い梁の上で顔を覗かせているのでルナも不思議そうにしている。
「たしかにへんなひとだ……」
ルナも呆気に取られていたがカティナが梁から降りてきた。
まるで猫のように音をほとんど立てずに着地するのは魔法の修練に加えてアダムが施した体力鍛錬の賜物。
元より森の生活に適応していた身体能力は風の魔法の特性と合わせて前よりも高まっている。
「降りて来てくださーい」
「私は遠慮しておく」
男性はすこし考えたがすぐに首を横に振った。
なんだかかっこつけて言っているがおそらく降りられないのだろう。
「えっ、どうして?」
「足が震えるから」
「風の魔法で着地の衝撃が緩められますよ?」
「そんな魔法の使い方をしたことがないのだ」
三人の顔が呆れを映した。男性はバツが悪そうにしていたがクインクが飛んで行って彼を降ろすことに。
「うーんしょ、うーんしょ」
「君は力持ちだね」
クインクは男性の重量がルナとさして変わらない事にちょっと驚いた。
ゆったりした服を着ているがその下はおそらくかなり痩せているのではなかろうか。
「ちゃんとたべていますか?」
「心配させて申し訳ないが、私はこれでも健康なのだ」
クインクに虚弱体質だと思われても仕方ないが、男性は健康と言い張るので追及しないことに。
「さて、聖人様がいるなら解決は早いだろう。私達は配達員を助けてここを脱出しよう」
「脱出?」
事情を知らないルナが不思議そうにしているのでカティナ達は一連の出来事を伝えた。
種族至上主義の一家がカティナの両親を騙してカティナを無理矢理結婚する方向にもっていこうとしていること。
配達員は呪いをかけられて前後不覚になっており、今も彼らの家にいることだ。
「ひどい!」
「ひどいです」
案の定というべきか二人も憤慨した様子だ。
ルナもクインクも両親の愛情というものを非常に大切に思っている。
クインクには両親の記憶がないが、それでもルナとその両親であるエルドとアリシアに愛されている自覚からその尊さやありがたみを深く理解している。
「とりあえず配達員の人を助けるにはどうしたら?」
「呪いを解くこと自体は難しくない、解呪するのもいいし、なんなら強い刺激で現実に戻す事もできる」
過去に男性が助けようとしたこともあったが、その時に失敗したのは配達員が半ば軟禁されていたからである。
対人戦闘に多少の心得があれば、まともな家に逃げ込むこともできただろう。
しかし、彼はあくまで配達員であり、戦闘の専門家ではなかった。
森を生き抜くための技術はあっても、戦闘技術や呪いに対する知識は持ち合わせていない。
ましてや、無気力にする呪いまで掛けられていては、逃げようという意思すらまともに働かなかったのだろう。
そこに、常に変化する樹上の通路というエールフィン大森林特有の環境も加わる。
たとえ正気を取り戻せたとしても、追っ手から逃げ切るのは容易ではなかったはずだ。
「二人が居てくれたら私の家の使用人は敵じゃないだろう、さっそくその人を助けに行こう」
四人は一旦カティナの実家を離れて男性の家へと向かうことにした。
エトナーならばほっといても大丈夫だろうという暗黙の了解があった。
「あれ?聖人様はどうしたんです?」
四人が玄関に戻ってくると配達員の男性が物陰に隠れて待っていた。
彼もまた戦闘技術が高いわけではないので待っていてもらったのだ。
「エトナーさんはカティナちゃんのご両親に会いに行きました。それより、同僚の方が捕まっている場所がわかりましたので助けに行きましょう!」
「捕まった?!」
驚いた様子の配達員の男性を宥めつつ、一行は情報を共有することに。
「なるほど、そんなことがあったんですね」
配達員の男性はうーむ、と考えるそぶりを見せてから、そう言えば……と居ずまいを正した。
「そこまでしてもらうのに名乗るのを忘れていました、私はマイルと申します。同僚の名前はピスモと言うのです」
「マイルさん、私はルナと言います。ピスモさんを助けるためにもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ!」
マイルが名乗ったのを見て男性も少し考えるそぶりを見せた。




