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なんでだー!

一方で拉致されたカティナは屋敷にある客間に放り込まれていた。


「うー、何がなにやら……」


目が回りそうな勢いだっただけにしばらく身動きがとれなかったが、やがて落ち着いてくると先程自分を運んだエルフ達が自分の屋敷に居た人達では無いことに気付いた。


「あの人達なんで私の家に……」

「それはね」

「ひゅいっ!?」


押し入れからぬるっと人影が伸びてきたのでカティナは思わず声を上げた。


「あなたは?」

「ちょっと待って……」


その人物は押し入れからずり落ちるように出てくるとカティナと向かい合うように座った。

耳の形からエルフであることは間違いない。

そして種族的な感覚から彼が自分と同じハイエルフであると感じ取った。

ただ、仮面を被っているので顔が分からない。籠った声と体格からなんとなく男性ではないかと考えられるくらい。

それもゆったりとした服を着ているので定かではないが。


「ふー、普段動かないから疲れる」

「押し入れから出ただけでは?」

「屋根裏を伝って逃げてたんだ」


なんで逃げてるの?と言うカティナに男性はごそごそと袖からあるものを取りだした。


「これのせいだ」

「これって……」


それは腕にはめる一対のブレスレット。結婚というエルフだけでなく誰にとっても人生で一世一代の大イベント、

夫婦の契を交わす為に贈られるものだ。


「私をアインザッツ家の令嬢と結婚させたいらしい」

「アインザッツの令嬢って私なんですが」

「……えっ」


飛んで火に入る夏の虫。と男性はぼそぼそと呟いた。


「それにしてもどうして私と……」

「自分たちの一族に属するハイエルフの数を増やしたいらしい」


はふー、と溜息が仮面の隙間から漏れる。

その言葉と男性が着ている服の模様を見てカティナは彼がどこの出自なのかを知った。


「種族至上主義の……!」

「そうだよ、だけど私は自分の家がこれ以上権威を持つのは避けたいんだ」


種族至上主義の面々は家に伝わる模様の服を着ていることが多い。

それ自体はありふれたものだが


「どうしてですか?」

「私は種族どうとか、そういうの嫌いなんだ。のんびりできないからね」


だるーん、と壁によりかかってだらけている姿を見るとなんだかサピスキアの姿がよぎった。

始祖の姿がアレなだけに高貴とされるエルフはみんなあんな感じなのだろうか。

カティナは我が身もそうであるにもかかわらずハイエルフや始祖のエルフというものが変わった存在だと思った。

泰然自若といえば聞こえがいいが、やる気も行動もなにもかも人と流れる時間が違う感じがする。


「でも、そんな無理矢理結婚なんて」

「できるように下準備中といったところなんだ。ご両親の不安を煽って、次に送り出したらもう帰ってこないぞって」


男性の言葉を聞いてカティナはムッとした顔になった。

自身の心配を覆い隠して自分を送り出してくれた両親のやさしさを踏みにじる行為だ。

もとより心配性と親バカのきらいのあった両親だ。

手紙が届いていない事に重ねて言い続ければ心配が勝ってくるに決まっている。

そして里から出さない為に里の有力者と結婚させて家に入れて里に留める。

そうして彼らはカティナの両親を助けるふりをして自身の利益を得ようとしているのだ。


「手紙が届いてないのも、もしかしたら……」

「配達員が捕まったのを見たよ、呪いを掛けられている」

「そんな……!」

「手荒な事はしていないが、彼の頭の中は休暇中になってるらしい。ずっとウチの空き部屋でゴロゴロしてる」


男性も何度か説得や解呪を試みたらしいが、毎晩のように呪いを掛け直されるため、どうにもできずにいるという。

無気力にする呪いなど併用されているのかぼーっとしている事が多いとのこと。


「殺したのがバレるとさすがに不味いからやらないとは思うが、どちらにせよ良くない状況なんだ」


悪いけど、引き返して里を出て欲しい、と男性は言う。


「聖人様と友達が来てるから大丈夫だとは思うけど……とにかくこのままじゃ良くないね」

「外部の人がいるなら心強い、それなら早速脱出しよう」


そう言うと男性はまたごそごそと押し入れに入っていく。

カティナが中を覗くと押し入れの天井部分に開口部が開いており、そこから屋根裏に伝っていけるようだ。


「落ちないでね」

「わかってる」


二人は屋根裏から天井の梁を伝って客間を抜け出した。

すると屋敷が騒がしい事に気付く。


「抜け出したのがバレたのかな?」

「いや、そうじゃないみたい」


二人が息をひそめていると廊下を慌ただしく使用人らしきエルフたちが走り回っている。


『人族が押し入ってきた!』

『聖人だ、騒ぎが伝わると不味い!』


人数を集めてどうにかしようとしているようだが思想はともかく能力は他のエルフたちと変わらない。

少しするとエトナーがどたどたと廊下を進んでいるのが見えた。


『カティナちゃんの両親はどこだ!さっさと会わせろ!』

『お屋敷で騒がれますとこま……』

『うるせぇ!退け!』


エルフの一人がエトナーに投げ飛ばされて壁に頭から突っ込んだ。

柱は丈夫なものの、温暖な気候で通気性を重視してつくられる壁は薄い。

体重を乗せてぶつかると簡単に穴が開いてしまうのだ。


『あぶぶぶ!』

『アインザッツの当主はどこだ!』


投げ飛ばされたエルフは壁に頭を突っ込んで手足をばたつかせている。

エトナ―は声を張り上げて屋敷を進んでいく。


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