確保ー!
一行が屋敷の前にやって来た。
造りそのものはシンプルながら入口や壁、屋根のあちこちに複雑な模様が彫られている。
「凄く細かい装飾がされていますね」
「あれ全部魔除けだ、エルフにゃ呪術師も多いからな」
ただの模様に見える壁の装飾はなんと魔除けの効果があるものだと言う。
呪いを扱う者は、その防ぎ方にも精通しているということなのだろう。
「お父さん、お母さんただいまー!」
ルナはちょっと遠慮したが、カティナは自分の実家なので気兼ねすることもなく、玄関へ踏み込んで声を上げた。
「あれっ……出かけてるのかな?」
皆が返事が返ってこないことを不審に思い、ルナ達もカティナの後に続いたが
「ん?おおっ?!」
「なになになに?!」
「あ、配達遅れてすみませんあのお話……ぶえっ!?」
突然屋敷の奥からドタドタと複数人の足音が響いた。
皆が何事かと思っていると十人ばかりのエルフが押し寄せて来たかと思うとひょいとカティナを持ち上げてしまった。
「えっ?えっ?あーーーーれーーーー!」
そのままそそくさと引っ込んでいくエルフたち。
一行は驚いた顔で遠ざかっていくカティナを、ただ呆然と見送るしかなかった。
ルナ達はその間にいつの間にか外に出されていたし、配達員は手紙を取られた上にビンタまでされた。
「?」
「はがっ!あがが!」
ルナがあまりの出来事にキョトンとしている。
配達員はせっかく元に戻ってきた顔をまた赤く腫らしながら悶えている。
「くっそー!雨戸まで閉めやがって!」
開けろー!とエトナーが雨戸を叩いていると雨戸が少しだけ開いた。
「どうも、聖人様」
「お前な、せっかく送ってきた客人を追い出すなんてどういう了見だコラ!」
「それは、その」
そういいつつ雨戸の隙間から覗く顔はちょいちょいと手招きをした。
エトナーが怪訝そうな顔をしつつ顔を寄せると
「ふがっ」
「ふひっ」
エトナーの鼻を摘まんでそのまま雨戸を閉めた。
一瞬キョトンとしたエトナ―だったがすぐにバカにされたこと、そして雨戸の先にいた人物に心当たりがあったのかムッとした顔になる。
「この……ぐぉぉぉ」
そんな怒り顔のエトナーだがすぐに鼻を押さえて唸った。
「エトナーさん!どうしたんですか!?まさか呪いとか?」
「聖人様に効く呪いですか!?」
配達員は真っ赤にはらした頬をさすりながらも驚いた表情を浮かべる。
ルナも心配していたが……
「くそがぁぁぁ!トウガラシかなんか触ってやがったなぁぁぁぁ!」
「ひ、ひどい」
「陰湿すぎる……」
地団駄を踏みながらエトナ―は鼻を押さえて唸っている。
呪いでもなんでもないので対策が無ければエトナーにも良く効くのだ。
「なんでこんなことを……」
「種族至上主義のバカヤローどもだ!なんでカティナちゃんの家に……いたた」
エトナーの鼻も赤くなってしまっている。
そうでなくても怒り顔で赤くなっているのでその迫力はなかなかのもの。
「種族至上主義ってなんですか?」
「簡単に言うと自分達の種族が一番と信じて疑わない高慢ちきな奴らだ」
精霊と語らい、歴史に通じ、自分達を見守ってきたという実績を見てエトナーを評価している長老たちと違い、種族至上主義者たちは一応人族のエトナーに対しても自分達が優位であるという考えを持っているのだ。
それ故に長命な者であっても他種族であれば敬意が薄く、先ほどのような粗雑な扱いも平気で行う。
「中身スカスカの癖になんでそんなに自信満々なのか不思議なもんだよ」
この種族に産まれたからエライ。
平たく言ってしまえばそう言ってふんぞり返っているのだ。
もちろん種族によっては得手不得手があって、その得手が抜きんでている種族はその分野で頂点に立つことも珍しくない。
もちろんそれは日光教の教義に真っ向から反発する内容であるが、そう言った種族は僻地に引きこもっているため表沙汰になりにくく、はっきり言ってめんどくさいのでほったらかしにされている。
「しかしそうなると色々とつじつまが合ってきた気がするぜ」
「そうなんです?」
「此処の担当が居なくなったのと、カティナちゃんが連れてかれたのが無関係とは思えん」
エトナーは鼻を擦ると屋敷を睨みつけた。
「ところで……クインクちゃんは?」
思い出したようにエトナーが言うとルナは自分の周囲を見渡す。
するとクインクの姿が見えないことに気付き、顔色が悪くなる。
「い、いないです!ど、どこに!??」
あたふたするルナの声に呼応するように雨戸がトントコ叩かれる。
『ごしゅじーん!』
「クインクちゃん!」
「なんで閉じ込められてんだよ」
『ひぃーん!あけてくださーい!』
三人が追い出されている中、クインクはその勢いに弾き飛ばされて壁に貼り付いていた為に放置されていたのだ。
「こうなったら突入するしかありませんね!」
「だそうなんで壁際に行っとけ」
『はぁい』
配達員が不思議そうにする中、ルナは助走をつけると雨戸に体当たりした。
「力業ですね」
「無礼に対する礼ナシだ!行くぞ!」
呆れる配達員を他所にエトナーが玄関に再び踏み込んだ。
中では飛び込んだルナがクインクを抱き上げているのが見える。
「ふえーん」
「よしよし、怖かったね」
ひしっとルナにくっついたクインクは落ち着くと、そのままルナにおんぶされる形に。
抱っこされたいがそれだと邪魔になると思ったのだろう。
ルナも髪を纏めてクインクの邪魔にならないようにし始めた。




