配達員はどこへ?
配達員が里で消息を絶ったと聞いた一行は枝の剪定が終わるのを待つ間に詳しい状況を聞くことに。
「ずいぶん時間が経ったと思うんですが……その人はいつから?」
「うーん、二通目の手紙を引き渡した所からだね」
「じゃあ私が寮で生活し始めたところくらいから渡せてないってことじゃないですか!」
カティナは幸いというべきか、手紙を書くことに事欠かなかった。
ルナの体験やティナたちの騒がしい日常、そして校外学習や妖精食いの襲来など。
自分の無事を伝えるためだけでも何通も手紙を書いたはずだった。
「それは心配するね……」
「道が道なだけにこちらも確認するのに時間がかかってね、すまない」
配達員の男性は仕事が滞り出したことを不審に思ったがエールフィン大森林は特殊な土地である。
ルナ達にとってはなんてことはないが、種族の違いや地形の厳しさは人を遠ざけるもの。
それを踏み越えて進んでいくことは誰にでもできることではない。
だからこそ多少の遅延があっても悪天候やトラブルの可能性を鑑みて催促はできないのだ。
「悪路や危険程度なら私も多少の心得があるから仕事を片付けて調査に来たんだけど……」
エールフィン大森林は男性の想像を超える秘境だったようだ。
地面には獣が溢れ、巨木は見上げてもキリがないほど高く、その樹液はふれるとかぶれてしまう。
猛獣の捕食者ならばともかく人間には厳しすぎる環境だ。
それでも配達員はエルフの里に侵入はできているのでその腕前がうかがえるというもの。
「枝に阻まれて強行突破しようとしたらこのざまさ」
「突っ込まなくてよかったなぁ」
「うぐぅ……」
エトナーがニヤニヤしながらルナの肩に腕を回した。
自分が危うく第二の配達員になるところだったのだ。
「手紙はどうなったんでしょうか?」
「ああ、それなら私が預かっているよ」
配達員は手紙を鞄に入れて持ち歩いていた。
麻紐でひとまとめにされた手紙が束になっている。
「この枝さえ払ってもらえれば仕事がやり遂げられます」
「それはよかった」
リグナの仕事ぶりは大したもので、太く伸びた枝から短い枝を全て取り払い、太い枝が通路を壊したり、下に落ちたりしないようロープを結んで太い枝が滑落しないようにしている。
「遅延を詫びて、手紙を渡したらひとまずは安心といったところなんですがね」
「問題は居なくなった人だよね」
仕事を投げ出していなくなったエールフィン大森林担当の配達員はどこへ行ったのだろうか?
エトナーはうーん、と考える一行に対して縁起でもないことを言い出した。
「足を滑らして落ちたんじゃねえの?」
「エトナーさん!」
「いでで!だって落ちたか、登る前に獣に食われたとかじゃないと仕事投げ出す理由にならないだろ?」
怒ったルナに頬を引っ張られながらエトナ―は言う。
僻地や極地に配達する配達員は相当な高給取りである。
しかしながらその報酬は大抵、成果報酬であることも多く、返事を受け取って持って帰って来るまでが仕事の場合も多い。
「ということは今回は……」
「事情がなければ無給だね、場合によってはクビだ」
配達員はばっさりと言い捨てた。当然ながら彼らにも信用というものがある。
事故に遭ったならともかく、途中で仕事を投げ出したなどと知れたら信用問題になる。
それは例えいかに困難であろうと、仕事の大小、責任の重軽を問わず守らねばならぬこと。
「枝を落とせたよ!先に通ってくれ!」
メキメキと音を立てた後にドスンと衝撃が響いた。
一行が目をやると枝が切り落とされ、壁のようになっていた枝が通路に落ち、道が開いていた。
枝を跨ぐ必要はあるが重量がある為、踏んづけても動かないだろう。
「ありがとうございます」
「いいって、それより弟たちを安心させてやってくれ」
細かい枝を束ねつつ、リグナは手を振った。
一行は枝を越えて再び道を進む。
「あとはここを真っ直ぐ行くだけですよね?」
「そのはずだよ」
そうしていると今度は立派な建物が見えてきた。
リグナの建物とは比べ物にならないくらいの立派な建物だ。
「え、ここです……?」
「ああ、カティナの一族はかなり身分が良いからな。この手のは族長とかも使う建物だぜ」
ハイエルフというのはエルフの中でもやはりというべきか、特に価値のある血筋なのだという。
占いで性格がわかっていたとはいえよく外出許可がでたものだ。
「カティナちゃんはお嬢様だったんだねぇ」
「魔王のお孫さんには及ばないけどね」
「むー!」
ルナが揶揄うように言ったがすぐにカティナに言い返されて口ごもった。
手紙を書く仲間ということでルナもカティナと同様に手紙の内容などを話し合ったりしていたのだが、その際に先走ったバエルが使い魔を回収に寄越したためにバエルに孫扱いされているのがバレている。
「何の話をしているんです?」
「お前さんが知らなくていい事だ、知ると寿命が縮むぜ」
「そうでしたか、ならば私はなにも聞こえておりませんよ」
配達員は知らんふりが得意である。なにせ手紙などの機密を運ぶこともある。
沈黙と無関心がどれほど彼らを護る盾になるかを心得ているのだ。




