カティナのおじさん?
一行が家や周囲の建築物に興味をひかれていると……。
「おや、見慣れない風が」
そんな声がする。
ルナ達が声の方向に振り向くと髪を短くまとめた男性が立っている。
「エルフさんだ」
「エルフさん」
「伯父さん!」
「おー、リグナ!相変わらずだな」
各々が声を上げる中で、男性ことリグナは片手に樹液を溜めるバケツと刷毛、そして木の皮を剥がす為の刃物を持っている。
相変わらずというのは家業に精を出している事を言っているのだろう。
「げっ、エトナ—……カティナ!帰ってきてたんだな!」
露骨に話題と視線を逸らしながらリグナはカティナに笑顔を向けた。
しかしそれを見過ごすほど我らが聖人は優しくない。
即座にリグナを捕まえると物陰に連れて行った。
「か、かんべんっ!」
「私を呼び捨てにできる度胸をどこで拾ったんだ?立派になったじゃねえか」
エルフの中に限らずエトナーは聖人としての役職を持っている。
ルナや子供に対しては名前呼び、もしくは敬称付きの名前呼びを許しているが、少なくともこの里ではエトナ―は長老格と同等以上の権威がある。
親しくとも第三者が居る前で軽々に名前呼び、ましてや呼び捨てなど許すはずもない。
「長老が聞いたら悲しむぞぉ?礼儀もわきまえてないってな」
「そ、それだけは勘弁してくださいよ!エトナーさん!」
「てめえにさん付けで呼ばれるほど若くねえよ、オシメ替えてやったの忘れたのかこの野郎」
拳骨で頭を挟むとぐりぐりと動かす。
「いでで!ゆるじでくだざい!聖人様っ!」
「それでいいんだよ、お前そういうのちょっとしたとこで漏れるんだからな。間違っても年寄り連中の前で言うなよ?呼び捨てはもちろん、さん付けで呼んでどやされるのはお前なんだからな」
頭を押さえて唸るリグナにビシッと指さしながらエトナーは言う。
「えっと、なにかありました?」
「ちょいと教育をな。時間があくと必要になるタイプだからなアイツ」
こめかみを両手でさすりながらエトナ―の後ろを歩くリグナを不思議そうに見ながら一行は用件を伝えることに。
「なんか知らないけど……、伯父さん、私が書いてる手紙がお父さんたちに届いてないみたいなの」
「えっ、そうなのかい?うーん、そういや最近二人を見てない気がするけど……こっちも仕事が忙しかったから」
「お仕事というと?」
ルナが好奇心から尋ねるとリグナは刷毛とバケツ、刃物を示して笑顔を見せた。
「これさ、俺はこれでこの里の家や通路の保全を仕事にしてるんだ」
リグナは木工職人であり、この里で通路や家屋の保全を行う大工でもある。
樹脂を塗り、耐久性を上げた里の建築物も日々のメンテナンスが欠かせない。
通路を掛けている枝や幹もまた変化を続けているので剪定を怠ると通路が使えなくなったり、崩落する危険性がある。
その中でリグナは材料の採取から樹脂を加工して各家の壁や通路の手すり、または通路そのもののメンテナンスを請け負っているようだ。
「すごいですね!カティナちゃんもやったことあるの?」
「かぶれるからやったことない」
「あ、そう……」
「始めたばかりのころは手荒れや肌荒れがひどいから、女の子には不人気なんだよね……」
地元や家族に職人がいると凄さがわからないのだろうか。
それとも肌荒れはやっぱり嫌なのか、カティナは興味すらない様子だった。
そしてカティナだけでなく女子そのものに不人気なのかリグナもどこか遠い目をしている。
「そのおかげで俺はまだ独身さ……弟には妻とカティナちゃんがいるのに……」
「お、おつかれさまです……」
ルナは精一杯の言葉をかけたがリグナはへへっ、と乾いた笑いを零すだけだった。
「けど、お手紙が来たらあの二人は元気になるから……届いてないのは本当かもしれないね」
「そうなんですか、カティナちゃんのお家ってどこらへんです?」
「あっちだね、そこの通路を渡っていくといいよ。5、3、1の番号を辿るとつけるよ」
大まかな道を教えてもらったルナ達はリグナに手を振りつつ、カティナの実家へと向かう。
「うー、道変わってるなぁ……」
「そうなの?」
「前は伯父さんの家からもっと近かった気がするんだよね」
「土地そのものが生きてるようなもんだからな、『迷いの里』なんて誰が言ったんだったか」
通路には所々に広場のような中継地点が設けられていた。
休憩場所を兼ねたそこには番号が振られており、現在地を知るための目印にもなっている。
変化し続ける道に対応するための仕組みなのだろう。
番号を辿りながらルナ達はてくてくと歩いていく。
「1まで来ちゃった」
「そうなるともう見えてくるはずだけど」
皆が周囲を見渡すと伸びた枝が行く手を遮っているのが見える。
通路はその先に続いているのでその先がカティナの実家なのかもしれない。
「この先なのに……どうしよう」
カティナが不安そうにしている。ルナはそんなカティナを見るとクインクをおろして両手を突き出し……
「むーん!」
「ちょいまち!」
突撃して退けようとしたルナをエトナーが捕まえる。
「およよっ?」
「樹液を触るとかぶれるっていわなかったか?退けるときに枝が折れたりするとかぶれちまうぞ」
エトナーが杖を突き出して枝を揺らすとぱらぱらと粉のようなものが。
「染み出した少量の樹液が乾燥したもんだな、触るとかぶれる」
「どうしましょうか……」
「リグナに頼むしかねえな、もしくは迂回路を探すか……」
仕方なく一行は、リグナに通路を開いてもらうべく一旦道を引き返すことにした。




