エルフの里!
母熊はルナが只者ではないこと、そして敵意が無いことを察すると子熊を咥えて立ち去っていった。
「ふー」
「くまちゃーん……」
ルナが一息つく中で、クインクはちょっと残念そう。
熊が見えなくなったのを見てルナはするすると木から降りてくる。
「まったく、勝手に拾うなよ」
「ごめんなさ……うわーー」
「好かれるのは主人譲りか?まったくもう」
追いついてきたエトナーはルナ達が降りてくるのを見て傍に寄るとクインクの頭を乱暴に撫で回した。
クインクが目を回しているのを他所にエトナーは周囲を見渡している。
「しかし、ここらへんはどこだ?考えナシに走ってきたからちょいとわからんな」
「エトナーさんでもわからないんですか?」
「森は生き物だからな」
森は変化する。生えていた木が倒れたり、獣が住み着いたり、新しい植物が生えたり。
それらが絶えず起こる事で生命のサイクルは進み、同じように見える景色は少しずつ変わっていく。
観察力に優れる画家などは同じ風景を何度も描くという。
彼らには毎日、毎月、もしくは毎年に変わっていく自然の営みを見抜く目があるのだろう。
「カティナちゃんはわかるかい?」
「ええと、そうですね……もう少し上に登ればわかるかもしれません」
カティナは少し考えたが木の幹に手を触れ、目を閉じた後に言った。
「流石にわからんか」
「エトナーさんの言う通り結構変化してます。ただ、ここらへんは伯父さんの家だったような気がするんですけど」
「どっちにしろ上に行かんとわからんな」
全員の視線がルナに向くとルナは首を傾げる。
「現在地を知りたいんで、さっと変身して樹上に私達を運んでくれるか?」
「?……!、わかりました!」
キョトンとしていたルナもエトナーの言いたい事が理解できたのか両手を目に当てて変身する。
「それでは私に捕まってください」
「「「わかった」」」
「むぎゅ」
全員に一斉に抱き着かれてルナは前が見えなくなった。
「もうちょっと考えて掴まってください」
「とはいってもなぁ」
「くっつくなら真正面じゃないと背中の足に当たるし」
「ごしゅじーん」
仕方ないので背中から伸びる蜘蛛の足の一本をピンと伸ばしてカティナとエトナーはそこに乗ることに。
「それにしても高いですね」
「そこいらの城壁なんか目じゃない高さだぜ」
カサカサと木を登っていくルナ。
その途上で樹上を生活拠点にする動物たちがルナを見ては驚いて逃げていく。
蜘蛛は肉食である。ルナの大きさであれば彼らは餌にしかならないので当然の反応だが……。
「私を見てみんな逃げていく、辛い……」
「気にすんな、大きいだけで皆怖がるもんさ」
ルナがぐすん、と悲し気にしているのを見てエトナーは声をかける。
クインクはぱたぱたとルナの近くを飛んでいたがルナがそう言うとそのままルナに抱き着いた。
「見えてき……おおっ!? ました!」
カティナが上を見上げて言う。反り返ったので落ちそうになり、エトナーに支えられながら言う。
エトナーも上を見上げると手すりのついた足場が見える。分かりやすい人工物である。
「おじさんの家って言ってたな」
「そうですね」
ルナがよじ登ると巨木の上に家が建っている。そしてその木々をつなぐように通路が張り巡らせてあり、それがエルフの住居であると実物を知らないルナ達にもすぐに理解できた。
「おお、これがカティナちゃんのおじさんの家?」
「そう、伯父さんは大工仕事が得意だったから家がかなりしっかり作られてるんだよね」
「木なのにつるつるしてます!」
どうやらカティナの伯父は木工職人らしい。手すりにも細かい処理が施されているのか手触りがつるつるとしていて、クインクが驚いている。
「樹液から取れる塗料で湿気とかに強くしてるんだ、一度塗っちゃえば傷がつかない限り長持ちするよ」
「へー」
漆に似た塗料だろうか、漆は日光で劣化するが樹上での適度な湿度や限定的な光量の為か長持ちするようだ。
「此処の塗料が驚くほど長持ちするのはここの環境故だな、他だと日光に当たると劣化すんぞ」
「そうなんですか」
「巨木の一部では樹液が取れる。その樹液を濾して建物や食器に塗ると水や油を弾いてくれるんだ」
虫やカビにもつえーぞ、とエトナーが言う。
しかし樹液がもたらす強度や特性は適度な湿度と日光に長時間さらさない事が絶対条件である。
本来ならば日光で劣化するこの樹液が劣化しないのは巨木から溢れるエネルギーに樹液が反応しているからなのかもしれない。
「あと木製だからどうしても傷がな」
「塗装だからはげると意味がなくなっちゃうんですね」
「そうなる」
ルナ達が住む街などでも木製の器が使われている。
しかしこちらの木製の器は木の実などから取れる油などを塗るのが主流で、定期的にメンテナンスすることが必要だ。
それ故にお皿などにはガラスや舶来物の陶器などが使われている。
ワイルビーとの交易路がつながったことで陶磁器などが少しずつ入ってきており、高級品ではあるものの日用品として広まるのも時間の問題だろう。




