エルフの里は
巨木の足元は薄暗く、本来ならば日が届かずジメジメとしているが……。
「なんだか温かいですね」
「それがこの巨木の素晴しいとこだな」
エネルギーを発散しているからか巨木の周囲は暖かく、季節を問わず温暖な気候をしていると言う。
「エルフ達はこの巨木の上の方に居住区を構えているんだ」
「樹の上にですか?」
「あぁ、気候は穏やかだが地面の近くは獣が多い。肉食動物は普段はそれほどいないが繁殖や子育ての為にやってくる動物は大型の動物も混ざるぞ、ぼんやり歩いてると子持ちの獣を刺激しかねないから気をつけてな」
エトナーが指さす先には子連れの狼の群れがこちらを窺っているのが見える。
おそらくルナがいるので攻撃してこないのだろうが、間違えて彼らの子育てスペースに入り込んだ場合は襲ってくるに違いない。
「樹上に上がる場所があるはずだが……最悪ルナちゃんの力を借りることになるだろう」
「今度は蜘蛛の力かな?」
そんな風に話しているとクインクがとてとてとやって来た。
「ごしゅじーん、この子可愛いですよぉ」
そう言いながら小さな動物を抱えている。
小さいとは言いつつもクインクに近い大きさである。
「おまっ、どこでそのちびすけ連れてきた?」
「そこを歩いてました!」
ブブブ、と鼻を鳴らしながらクインクに懐いている様子。
その微笑ましい姿とは裏腹にエトナーはクインクに駆け寄るとその小さな動物を取り上げた。
「あーん!」
「バカ、コイツは熊の子供だ!母親に睨まれるぞ!」
そっと降ろして尻を軽く叩くと小熊はよちよちと歩いていく。
しかし困った事に子熊は振り返るとクインクを見て、また戻ってきた。
「あーもう」
「懐いちゃったみたいですね」
「他人事みたいに言うなよ……」
そう言うと遠巻きに一行を見ていた狼の群れが一斉に走り出した。
エトナーは漂う獣の臭いを嗅ぎつけて呟いた。
「おいでなすった、ちょいと骨が折れるぜ」
のそりと姿を見せたのは巨木のせいでサイズ感が狂うが人よりもはるかに大きな熊だった。
空腹というよりは敵意を滲ませている。
その理由は言うまでもないだろう。クインクにくっついている我が子を取り返しに来たのだ。
「ルナちゃん、カティナちゃんを連れて上に上がれ」
「わかりました、クインクちゃん!ほら!」
「ふぁいっ……むぅっ?」
ルナが手を伸ばした瞬間に子熊はクインクにじゃれつくように、股の間を潜った。
そのせいで倒れたクインクは子熊の背に乗る恰好になり……
「あーれー……」
「クインクちゃーーーーーん!」
何故か子熊が猛然と走り出したために距離が離れてしまった。
「待ってー!!」
「おいバカ!勝手に移動するなよ!」
二人がクインクを追いかけて走り出したのを見てエトナーは叫んだが時すでに遅し、母熊は子供を追っているように見える二人に唸り声を上げて走り出した。
「かーっ!ホント、もう!」
エトナーの事などまるで眼中に無いかのように走り出した母熊を追ってエトナーも走り出した。
先頭を走る子熊、それを追うカティナとルナ、さらにそれを追う母熊とエトナーという列が出来上がった。
「ごしゅじーん……!」
ひえー!という声が混ざる。飛んで逃げる事ができるはずだが前後逆に乗っているためクインクは訳が分からない状態のようだ。
子熊とはいえ四足歩行の獣が走っているので上下の動きも激しい。
しかも足が速く、二人が走っても足場の悪さも手伝って追いつくのが難しい。
「ルナちゃん!悪魔に変身して追いかけられない?」
「蜘蛛なら追いつけるけど……目隠しできるかな!?」
蜘蛛に変身する時はルナのルーチンとして両手で目を隠す。
しかし足場の悪いところで走りながらとなるとそれも難しい。
立ち止まりたいが背後から母熊の声がするのでルナは立ち止まれずにいるのだ。
「蝙蝠……は、狭すぎるからぁぁぁ」
「走るしかないのね……」
上を見上げると巨木の中に通常サイズの樹木なども混じっている。
さらに子熊はその小ささを活かして狭いところにも入り込んでいるので蝙蝠になった瞬間に見失ってしまうかもしれない。
「百足も……難しいぃぃぃ!」
むーん!とヤケ気味に叫んでルナは加速する。
「だけど!無茶でも!やるしかない!」
大きく跳躍して両手で目を隠す。
そしてその瞬間に蜘蛛の目が開き、背中から蜘蛛の足が飛び出した。
「できたーーー!」
「おおぅ!」
高速でかさかさと足を動かすとカティナを人間の体でキャッチすると背中から生えた蜘蛛の足を使って子熊を追いかけていく。
「待てー!」
「ブフー!ブフー!」
子熊は鼻息を荒くしながら大森林を駆け抜けていく。
しかし地形を無視して動けるルナの方が有利になり、徐々に近づいていくとクインクと子熊を捉えた。
「ええーい!」
糸を放ち、クインクにくっつけると見事に一本釣りで取り返した。
糸を手繰ってクインクを抱き留めると悲し気に鳴く子熊を見下ろす形で木にはり付いた。
「オオーン……」
「ごめんね」
鼻をひくつかせながら鳴く子熊。少しして母熊が到着すると子熊の元に一目散にやってきた。
その後ろではエトナ―が走ってきている。




