いざ、エルフの里へ
目を覚ました一行は携帯した保存食を食べた後に日没まで自由時間とすることにした。
「古びちゃいるがれっきとした城だ、面白いものがあるかもよ」
エトナーの言葉にルナ達は辺りが明るくなってきたことも手伝って好奇心に従う事に。
「なんか古い燭台とか、割れてるけど花瓶とか……」
「ティナちゃんがいたら良かったのにね」
「補習さえなければなぁ……」
古城に残された食器や燭台などの生活用品はエトナーにしてみれば大した物ではなくとも、他人からみれば数十年、下手をすると百年前後のアンティーク品である。
ティナが居れば片端から箱に詰めて持って帰ろうとするだろう。
「こんな燭台なんかお芝居でしか見たことないかも」
枝付きの燭台を持ってまるでお芝居のように歩くカティナ。
それを見てルナも蜘蛛型悪魔に変身し、クインクとカティナを抱きかかえて廊下を進む。
「おお、麗しき乙女よ、わが愛に応えたまえ~」
「あぁ、偉大なる御方、慈悲をください~」
「くださーい」
クインクもチョーカーをくわえて上級悪魔の姿になると二人に比べてぎこちない動きでお芝居に付き合う。
「ひっ!じ、じじじじ上級悪魔が人をっ!」
ちなみにこの三人のお芝居は窓の外から見えており、たまたま通りがかった旅人がチビる勢いでビビったのはまた別のお話。
「うーん、私達には何がなんだかわかんないね」
結局、ルナとカティナ、クインクはよくわからないまま宝探しと銘打った探索もいま一つの成果に終わった。
そんな中で朽ちずに残った石のベンチに座って休憩中。
「とりあえずこれとこれ、エトナーさんの許可が出たらもらっていこう」
「そうだね、お土産になるかも」
ルナは杯、カティナは燭台、クインクは小さなレリーフ板を拾った。
そしていい加減なエトナーはそこらへん特に気に留めた様子もなくOKした。
「今夜で国境を越えて森まで行けるはずだ。辛くなったら言ってくれよ!」
「わかりました!」
そんなこんなで日没を迎えた古城。一行は荷車に乗り込み、ルナが取っ手を掴んで再び飛び上がった。
「二度目でも全く慣れない……」
「しっかり見とけよ、鳥でも滅多にお目にかかれないぜ」
元々人間離れした怪力を持っていたルナは、悪魔となったことでさらにその膂力を増し、今や悪魔の中でも怪力の部類に入る。
その膂力が雲の近くまで荷車を掴んで上昇することを可能としている。
なにせ人間の状態でも強化無しで両手剣を操る膂力である。
実際にルナはFクラスのメンバーを誰でも持ち上げられるほどで、持ち上げられた時のテイロスの反応は面白いものだった。
「おー」
クインクが顔を上げると空の景色に目を輝かせる。真上にはルナが居て見えないが横から覗く景色からは星々が輝いていて、クインクにはまるで光る砂が空一面にちりばめられたように見えていた。
「兄ちゃん……私、みたことないものをみてるよ……」
街で過ごしている時に見上げる空とは違った雰囲気と遮るものの無い空の景色にクインクは思わず呟いた。
それを聞いたエトナ―は隣で、ただ微笑んでいた。
風が流れていく。
高速で飛行するルナはそのまま山間のウッドリーフすら飛び越えていく。
国境は既に越えた。後は目的地までノンストップだ。
「大きな森が見えます!」
「よし来た、そこが私達の目的地……カティナちゃんの故郷『エールフィン大森林』だ」
遠目からもわかる巨木の群れ。そこにカティナの故郷はある。
街道で繋がっていた経路も最後の村を過ぎるとあぜ道に変わり、それも細くなっていった。
「どこで降りたらいいですか?」
「森の入り口に降りよう!宿は彼らに御厄介になるか、そうでなきゃ野宿!」
ルナはエトナーの言葉を受けて旋回を始めた。少しずつ高度と速度を落としつつ、ゆっくりと大森林へと向かって行く。
「故郷にこんなに早く帰ってくることになるとは……」
「がはは、帰る場所があるんだ。いつだって帰っても悪いことはないさ」
複雑な心境のカティナの肩を叩いてエトナーは笑う。
我が子が家に帰る事に理由なんていらないのだ。
親が待っているのなら、なおさらである。
「降りてみるとなおのことデカいですね」
大森林は入口からしてすでに樹齢何年か見当もつかない大きさだ。
「どれくらい此処に立ってるんでしょうね」
「そうさな、1500年くらいじゃねえかな」
「分かるんです?」
「ああ、だって私が若い頃はまだこんな大きな森にゃなってなかったからな」
私の若い頃はまだ『エールフィンの森』だったな、とエトナーは言う。
さらっと言っているがエトナーはエルフたちだけでなくこの森の成長も見届けて来たということになる。
長老たちに一目置かれるはずである。
「さ、ちょいと冷えちまった。行こうぜ」
エトナーに続いて三人は大森林へと足を踏み入れた。
見上げる巨木の存在感は圧倒的で、しかもそれが森になっている。
「すごいですね……それに空気も……なんだか濃いって言うのかな?」
「ここらのは霊木でもあるからな。生き物を癒し、はぐくむ力を持っているんだ」
「ほへー」
巨大なだけでなく、生命力にもあふれるこの樹木は呼吸をするように生命力を含んだ空気を水蒸気とともに吐き出している。
魔力、体力の元となるまだ解明されていないエネルギーを含み、それを生命力の息吹と人々は言う。
魔法生物かそうでないかを問わずこの巨木はあらゆるものに元気をくれる存在なのだ。




