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古城でおやすみ

くるくると円を描くようにして高度を落とし、そのままルナは荷車と共に古城の中庭へと着地した。


「到着ー」

「おつかれさん」


ルナが持ち手から足を離して中庭に降り立つとエトナーとカティナがのそのそと降りてくる。


「あ、あれっ!?クインクちゃんは?!」


ルナは荷車を覗き込むとクインクの姿が無いことに気づきあたふたし始めるも


「ルナちゃん」

「あ、あー!どうしよう!落ちちゃったのかな!?」

「ルナちゃん」

「探しに行かなきゃ……!」


エトナーがルナを押し留めて、彼女の足元を指し示すと


「そこにくっついてる」

「えっ」

短く呟いた後、さささと足元を探ると足にしがみついたままのクインクを発見。

風が吹き込んでこなくとも肌寒い上空で寒くなったクインクはルナの足にそのまましがみついたのだ。


「ホントだ、もう!心配させないで……」


ルナはクインクを抱き上げると人型に戻って頬を寄せる。


「なんで気付かなかったんでしょ?」

「そりゃあ、あれのせいだろ」


不思議そうなカティナにエトナ―はボイン、と揺れる彼女の胸に目線を送った。


「デカいと足元見えねえからな」

「……チッ」


カティナは自分の胸に手を当てつつ、エトナーとルナの胸と自分を見比べ。

舌打ちした。


「そう腐るなよ、まだ若いんだから」

「若さって関係あります?」

「大人になってからデカくなるヤツだっているさ」


ルナをちらちらと見ながらカティナはうらめしそうにしている。

エトナーの慰めもまったく意味がないようだ。


「とにかく、早めに到着しちまったから寝床に行こう。休憩しつつ、夜まで待つか歩くか決めよう」


エトナーはそう言うと古城の中へと入っていく。

シン、と静まり返った大きな建物はとても不気味でルナ達はあわててエトナーの後を追いかける。


「お城みたいな場所ですね」

「実際城だぜ、元々貴族の所有物だったんだが御家が断絶したから分けてもらった」

「そんなおすそ分けみたいな……」


石造りの建物故に外観こそまともに見えたが内装はどれも古びており、特に使われていない場所は酷いことになっている。


「所有は私だけど掃除なんぞしてないから使ってないとこはとにかく汚いんだよな」

「使ってても教会は汚いじゃないですか」

「そうだったな」


だらしないエトナーでなくとも城の管理など一人でできるものではない。

それに使用頻度が合わさって城は荒れるがままだ。

それでもゴーストや魔物が入り込んでいない所をみるとエトナーの力は絶大と言っていい。

本人は無自覚だがそこに悪魔であるルナが訪れたので彼らの忌避地としてのグレードは上がった。



「ここだ、私が使ってる部屋」

「倉庫の隣の部屋ですね」


少し歩くと地下室に向かう部屋の隣にエトナーが宿泊に使っている部屋がある。

地下は倉庫であり、やはりというべきかワインセラーと食糧庫になっている。

古城のくたびれ方から察するに数十年過ぎているので食料は全滅しているだろうがお酒はモノによっては生き残っているだろう。


「本来ならここで残ったワインやら酒を探すんだが、まあ今日はやめとくか」

「荷車で吐いたら流石に落としますからね」

「わーってるって」


ルナの言葉にエトナーはからからと笑う。


「さて、なんにもないが雨風はしのげる場所だ。昔を懐かしんでくれてもいいぞ」

「私達は初めて来た場所なんですけど」

「雰囲気だよ雰囲気!ノスタルジックな感じだろ?ほら!」


情緒もなにもあったものではない。内装は殆ど朽ちたのか運び出され、壁紙もない殺風景な状態だ。

壁に申し訳程度の古びた絵と無理矢理増設された暖炉がそれを悪化させている。


「この古い絵って?」

「ああ、それなー……寂しいから飾ったんだよ」


海と灯台を描いたものだろうか?精巧に描かれており、まるで窓からその景色を覗き込んでいるようだ。

しかしそれがかえってこの部屋の寂しさを助長させている。


「へぇー、誰が描いたんです?」

「私だけど」

「そうなんですかー……なんですと?」


カティナはそう言うと一瞬スルーしたがすぐに聞き返した。


「こんな絵を描けるなんて聞いてませんね、嘘ですね」

「なんでだよ」

「嘘はいけません」

「嘘じゃねえよ」


カティナの辛辣な態度にエトナーは笑いながら言う。


「何年生きてると思ってんだ?趣味や芸術に打ち込む時間なんぞ腐るほどあるんだぞ?」

「だからってこんな精巧な絵を描く忍耐力があるとは思えません」

「言ってくれるじゃねえの、まあ完成させるのに10年以上かかったけどよ」


そうこうしている内に、エトナーはルナが会話に参加していないことに気付いた。

不思議に思って部屋を見渡すとルナはいつの間にか暖炉に火を入れ、その前に陣取って丸くなっていた。


「うーん……」

「むぅーん」


古びたマットの上にランチョンマットを重ねて敷き、その上にごろりと横になっている。

クインクもそれにくっついて微睡んでいる。


「やっぱ休んで正解だったな、私たちもあったまっておこうぜ」


やはり思った以上の体力の消耗があったようだ。

カティナ達も荷車に乗っているだけではあったが長時間同じ体勢を強いられていたので体は強張っていたし、冷えが来ていた。


「おつかれさんだぜ」


エトナーはそう言うとルナの隣に腰を下ろした。

カティナも同じように隣に腰を下ろし、ルナを左右で挟む形になる。

そうしてぼんやりと暖炉の火を眺めながら皆は目を閉じた。


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