夜間飛行 その2
アービルの姿になって羽根を大きく広げ、それを羽ばたかせる。
巨大な羽根による羽ばたきが周囲に大きな風を起こした。
「おおっ」
羽ばたきと同時にアービルの身体が浮き上がった。
エトナーはその姿を見てふむ、と空を舞う姿に目を細める。
「いい感じじゃん」
悪魔の力は人間や生物のそれを遥かに凌駕する。
その力はモチーフになった動物や生物の能力を使用する際に最大限発揮される。
また、本能や動物としての知識を備える場合が多く、本人に知識がなくともその能力をいかんなく発揮できるのだ。
「魔法も使ってないな、これなら問題なさそうだ」
聖術との相性も悪くない。
中には魔力を噴出して浮かび上がる飛び方もあるらしい。
しかしアービルの蝙蝠形態がその飛び方だった場合、エトナーが聖術を展開した瞬間大惨事になるので一安心。
「おーい!どうだ?」
「悪くない感じです、これなら大丈夫かも」
地面に降り立ち、羽根を畳むとエトナ―はその言葉に頷いた。
「そりゃ重畳だ、試しに何かを掴んで飛んでみるか?」
「そうですね……何かちょうどいいものがあるといいんですけど」
そう言いながら周囲を見渡すとちょうどよく倒木がある。
ルナは倒木に近づくとその倒木に乗り、足の指を少し確かめるように動かすと少し力を込めてみる。
鋭く、強靭な爪と指を持ち合わせた足はがっしりと倒木を掴む。
「むんっ」
そのまま羽ばたいて飛び上がると倒木はそのまま空高く引き上げられていく。
倒木は朽ちているとはいえエトナーの身長を軽く超える長さが残っており、中身も詰まっているため重量もある。
それを易々と掴んで空を飛べるのならおそらくではあるが飛行にも差し支えないだろう。
「できました!」
「オッケー、バランスは高度を上げる前にチェックしてくれたら怪我はしないで済むからその時にしよう」
「はぁい」
んじゃ夜まで休憩な、とエトナーは礼拝堂の中へと戻る。
ルナは人間の姿に戻ると、伸びをしてエトナーの後ろをついて歩く。
中に戻ってみるとカティナがクインクの髪の毛で遊んでいた。
「ごしゅじーん!」
「面白い髪型になってんな」
三つ編みにしたようだがクインクは髪の毛が短いので、三つ編みが頭頂部でピンと立っていてまるでちょんまげのようになっている。
「カティナちゃんにしてもらったの?」
「はいぃ」
本人は頭が引っ張られる感覚が嫌なのか頭を振るとすぐに解いてしまった。
「もうちょっと長ければ可愛くなったんだけどねー」
「カティナちゃんは髪型を整えるの得意だね」
「エルフは基本的に髪の毛を切らないからな、必然的に髪の扱いに慣れるのさ」
里でも三つ編みやシニョンが多かったな、とエトナーは言う。
エルフの保守的な層は肌や髪に刃を入れるのをひどく嫌がる傾向にある。
親からもらった体だからということもあるが、これはエルフが呪術に長けた種族だからでもある。
子供や親族の為、または儀式の為に髪の毛を使う事もあるため不用意に髪を切らないのだ。
肌の傷を嫌がるのはタトゥーを入れるからだ。
こちらも理由は同様で、神様や精霊から加護を受ける際に肌にタトゥーを入れるのだが傷があると文字が歪んだり、傷物に加護を受けるとみっともないとされるのでエルフは肌に傷を作るような事もまた嫌がる。
「タトゥーも入れるんですか?」
「ああ、長老格のシャーマンなんかすげーぞ」
エトナーの記憶には地肌の割合がほとんどわからないほど全身をタトゥーに包まれたシャーマンに出会ったことがあると言う。
タトゥーの数は神や精霊と交信し、彼らから信頼を得た証。
それは権威や実質的な力に直結した。
「私も入れてるよ」
「えっ、そうなの?」
「うん、ほら」
カティナはそう言うと目元を示した。
ルナが目を凝らすと下瞼にまつげに混ざるように小さな逆三角形が。
「まつげかと思ってた」
「健康と賢く育つことを祈って彫るタトゥーなの、多くのものを見られるように、目を開けていられますようにって」
目を閉じていても目が開いているように目のタトゥーを彫るのが本来のものらしいが両親が気遣って下瞼の部分だけにしてくれたらしい。
本人は知らないことだがカティナは生まれた時から占いで外に出て行くだろうと言われており、その為に両親は外に出ても恥ずかしくないよう大きなタトゥーを入れなかったのだ。
「へー、そうなんだ」
「おしゃべりはそこまで、ルナちゃんは夜が本番なんだから休んどけ」
「はぁい」
エトナーから体を休ませるように言われ、ルナはリュックを枕にランチョンマットにごろりと横になった。
クインクはそれにぴったりとひっつくと即座に抱き枕にされた。
「かわわ……!」
「お前さんも寝とくか?」
「そうします!」
カティナもルナにひっつくとそのまま目を閉じた。
最初こそもぞもぞしていたカティナだったが、ルナと同様に早起きしたのが原因かすぐに寝息を立て始めた。
エトナーも軽く周囲を確認するとそのまま壁に寄りかかって目を閉じた。




