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夜間飛行

エトナーはさらに礼拝堂の中にある小型の荷車を指さした。


「あれに私らが乗って、ルナちゃんが荷車を掴んで飛ぶんだよ」


荷車は細長く、荷台の中央部分にちょうど何かを掴むためのように持ち手がついている。


「これは……?」

「昔にこれで数日で山を越えなきゃならん時なんかに使ってたんだ」


持ち手の部分を避けても人が二、三人乗れるくらいのスペースがある。

どうやらこれで過去にもエトナーは空を飛んだことがあるようだ。


「荷台しかありませんけど前はどうしたんです?」

「でっかい鳥がいてな、それを飼い慣らして騎獣として使ってたんだよ」


ぶっきらぼうに言うエトナーの瞳に遠い日の思い出がよみがえる。

卵から、雛から、そして成長したその鳥が怪鳥と呼ばれるほどに巨大化して……。

やがてその足につかまって空を飛んだ日の事を。


「私がかつて要人やか弱き民を救うために使った荷車、その最新モデルだ」

「最新モデルってことは改良が続いてるんですね」

「ああ、元は山やら川やらを荷車を引いたまま進んでいけたらなって思って、日曜大工で作ったのがきっかけだ」


膨大な時間を生きていると多芸になるらしい。エトナーはなんと荷車まで自作しているようだ。


「バージョンは細かく変更があるが、今はルナちゃん対応モデルだから八番目のバージョンだな」

「八回も改良を……じゃあ最初につくったのは?」

「ええと、そうさな……たしか最初は強度が足りなかったから掴んで羽ばたいた時点でバラバラに」



『うぎゃあーーー!』


怪鳥の羽ばたきと共に木材と一緒くたになって地面に叩きつけられるエトナーの図。


「次のバージョンでは上手くいったんだが」

「?」

「フライト中に持ち手が途中でもげた」


次のモデルでは持ち手が釘で止めただけのものだったため、羽ばたきで上下する荷車とエトナーの体重が合わさり釘が抜けてしまったのだ。


『ああああぁぁぁぁぁぁ!』


荷車本体とともに高高度から地面に激突したエトナ―の図。


「ひ、ひどい」

「んで、次は構造には問題なかったんだが」

「ということはバージョンスリーでほぼほぼ完成してたと?」

「ああ、だがちょっと不注意と言うか、不慮の事故というか」


エトナーが高高度を荷車にのって飛行中、寒さ凌ぎに酒を飲もうとし、それが風にあおられて荷車を掴む怪鳥の足にかかった。

アルコールが高い高度と吹きすさぶ風の相乗効果で非常に冷たくなった結果……


「びっくりした鳥公が持ち手から足を離しやがってよ」

「えぇ……」


液体がかかったことで驚いた怪鳥が持ち手を離して飛びのいたが為にエトナーは


『ぎぇええええええ!!!?』


ふたたび高高度から荷車とともに地面に激突したエトナ―の図。


「木っ端みじんだったらしいぞ」

「そんな他人事みたいに……」

「それからも戦火で丸焼きになったり、着地の衝撃でバラバラになったりして今に至るってわけよ」


そんな話を聞いてカティナは思わず荷車の構造を調べ始めた。

構造は頑丈そのもので、持ち手は荷車を補強する金属フレームと一体化している。

また荷車の荷台スペースは板の上に革が張りつけていて風を通さない。

ここに結界の防御が加われば冷えることはないだろう。


「ルナちゃんのパワーならこれと私らを掴んで飛んでも問題ないだろう。休憩を挟んでくれてもいいが着地の際には地面に気をつけてな」


不安なら練習してもいいぞ、とエトナーに言われてルナは少し考えてから頷いた。


「ちょっと空を飛ぶ練習から……」

「そこからか、練習してないのか?」

「あんまり変身する機会がなくて……」


ルナが変身する中でもっとも使用しているのは使い勝手のいい蜘蛛の形態、蝙蝠型もなるにはなるが飛行はそこまでしないのである。

悪魔であることを秘匿している以上、おおっぴらに変身できないのだ。


「しゃーないな、隠形の結界を張るからその範囲でな」

「はぁい」


礼拝堂の外に出るとエトナ―は杖を地面に突き立てる。

そして息を吸い込んで背筋を伸ばすと聖力を集中させた。


「陽光にて白く眩み、人、魔、精霊すらも見ること能わず」


手をパン!と叩いた瞬間に礼拝堂を中心に光の壁が立ち上がるのが見えた。


「今の範囲見えたか?」

「はい、見えました!」

「そこが目隠しの範囲だ、まあ頑張れ」


そう言うと切り株に腰掛けてエトナ―はルナを見つめている。

ルナはあまりにあっさりと高度な事をやってのけるエトナーに驚くやら呆れるやら。

気を取り直してルナは体を抱くように腕を回すと腕を伸ばす過程で体を変化させていく。


「Guooo……」


決まった変身をするためには特定のポーズ、特徴をイメージするような動作が必要だ。

蜘蛛の場合は目を手で覆い、百足の場合はしゃがむか座って足を叩く。

蝙蝠の場合は体を抱いて、翼を広げるように腕を伸ばすのが変身の鍵になる。


「おお、相変わらずセクシーだな」


翼を広げた姿は巨大な蝙蝠をイメージするもの。しかしその胴体は人間のそれに近く、足は猛禽類のそれをイメージさせる。

エトナーの前で変身した時は変身もまだ不完全で蜘蛛と蝙蝠が混ざったような見た目だった。

しかし今のルナの姿は完全に蝙蝠型の悪魔の姿だ。

深度が深まり、体が馴染んだ証拠だろう。


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