さあ、やっとこさ
ルナがちょっと落ち着いたところで一行は席を立つことに。
「お勘定!」
「はいはい、バゲットが無くなったんで、ええとね」
エトナーが財布を取り出してそう言うものの、女性は衝撃から立ち直れていないのかルナをちらちらと見ながら料金を計算している。
「うーん……」
ゴソゴソとルナのリュックが動くと同時にクインクが顔を出した。
「あれ、ここはどこでしたか?」
「クインクちゃん、おはよう」
「おはようございますぅ」
リュックから顔を出したクインクはカティナに声を掛けられて目を擦りながら挨拶を返した。
ルナはリュックを下ろすとクインクを抱き上げてからリュックを背負い直した。
「ごしゅじーん」
「はいはい」
まるで親子のようなやり取りを見てカティナ何故かルナを拝んでいる。
「なにやってんだよ」
「尊いからつい」
「えぇ……?」
支払いを終えて戻ってきたエトナーはカティナの言動に軽く引きつつ、クインク用にバゲットサンドを買ってきてくれた。
「わぁい」
「ありがとうございます」
「いいってことさ、それより食料の買い付けだ」
行くぞ、とエトナーに促されて同じ建物の中にある販売所に移動する。
そこではちょっとした工房のようになっており、現在進行形で保存食が生産されている。
「ごめんよ、四人分を四日分包んでくれ」
「はいよ」
工房では男性が縄を編んでいる途中だった。
この縄は鍋で煮ると食べられる素材でできており、塩味の強い調味料が染み込ませてある。
これで食料などをまとめて置くと消費するに従って包みが小さくなり、余った縄も食べてしまえるというわけだ。
男性は麻袋にドライフルーツや黒パン、干し肉を小分けにして包んでいく。
そして最後に先ほどの縄で四人分の袋の口を縛った。
「今回はどこまで?」
「ちょいとツレの故郷まで、親が会いたがってるそうだ」
「それは良い、親御さんには手紙より顔見せが一番だから」
「言えてるな」
エトナーは受け取った袋を全員に渡しつつ世間話の延長線で話題を振った。
「ところで手紙が滞ってるって噂知ってるか?」
「……初耳ですね、国境は何もなかったはずだけど」
「国境で足止めを食ってるのかねぇ、無事に越えられるといいが」
「するってえと、皆さん国境まで?それだと四日分じゃ心もとないですよ」
「教会を経由していくから大丈夫さ、でさ、専属の配達員がどうも遅れてるっぽくてな」
そう言うと男性は不思議そうに言った。
「専属ってことは辺境を踏破できる人ってことでしょう、そんな人が……」
「だからこうして自分達の足で行くことになったのさ」
用心しなよ、とエトナ―が言うと男性は黙って手を挙げて答えると工房ではなく、先ほどの番頭の所へ向かって行った。
エトナーは商会にそれとなく情報が伝わった事を見届けると皆に言った。
「さて、近くに人が滅多に来ない古い礼拝堂がある。隠れて休むにゃいいとこだ。向かおう」
一行は中継基地の人たちに挨拶をしつつ、国境へ向かう道を進んでいく。
少しばかり歩いたところでエトナーは獣道かと思うほど人通りの少ない小道を見つけ、そちらへと進み始める。
「こっちだ、ついてきてくれ」
「「「はぁい」」」
小道はまるで人を拒むかのように鬱蒼とした木々に挟まれており、まだ日は高いが薄暗くじめっとした雰囲気を纏っている。
「なんだかクロエちゃんが近くにいるみたい」
「えー、彼女だともうちょっと湿っぽくなるかなぁ」
そんな冗談を言いつつ歩いていると苔や蔦に覆われた古い建物が見えてきた。
エトナーが進んでいくのを見るとあそこが礼拝堂のようだ。
近寄ってみると周囲には木漏れ日で明るくなっており、建物の周囲だけ草木の生え方が大人しい。
まるで建物に遠慮しているかのようである。
「ここだ、準備して夜まで休むぞー」
ドアを開けて中に入ると古びた外観とは裏腹に整頓されている。
中には空き瓶などが転がっており、なんだか生活感も。
「もしかしてここってエトナーさんの秘密基地的なやつです?」
「まー、色々とちゃんとした目的もあるが……言っちまえば似たようなもんだ」
エトナーはそう言うとカティナに指示して埃を吹き飛ばしてもらい、敷いてある麻袋を開いて作ったであろうシーツにどっかりと座りこんだ。
「さて、簡単な作戦会議だ」
「作戦会議?」
床にそのまま座ろうとするカティナを押し留めてランチョンマットを取り出したルナはそこにカティナを座らせ、自身もクインクを膝に乗せて座った。
「ああ、夜はルナちゃんに飛んでってもらう。風がすごいだろうが私が結界を張るから問題ないだろう」
「結界でそんな便利な事ができるんですか?」
「私のは特別製だからな」
からからと笑うエトナーにルナはやっぱり、と内心で溜息をついた。
移動する最中に加護や身体強化のように纏うならともかく、壁を作ってそれを展開したまま移動し、なおかつ長時間維持するというのはぶっちゃけ人間業ではない。
いうまでもなく聖人の離れ業だ。




