燃料補給
ぐったりしたルナを運びながら進んでいくとテントが張られている野営基地見えてきた。
複数の大型のテントが立ち並び、それを囲むように柵が設けられている。
「そういえばクインクちゃんが居ないね」
「あのちびっ子か、連れてきてるのか?」
「ルナちゃんが置いてくるはずないんだけど……」
カティナがそう言いながらふとルナの背負っているリュックを見て、カティナはあぁと納得の声を漏らした。
「どうした?」
「いえ、ルナちゃんのリュックからしっぽが」
リュックの口から見慣れたしっぽが飛び出している。
その事に気付いてカティナは思わず吹き出した。
「寝坊対策にリュックの中で寝たのか?」
「そうかもしれませんね」
そう言ってエトナーと二人して笑顔になってみたものの。
「ということは荷物の大半はちびっ子なんじゃないのか?」
ふと、エトナーがそんなことを言い出したのでカティナは固まった。
旅につかうリュックなので大きくはあるがテイロスが背負っていた背嚢のように超大型のものではない。
身長二メートル越えの大男が背負う背嚢はFクラスで体格はワーストに入るダズならば余裕で入るが……。
その真似をクインクがしているとなると……。
「あー……、ほんとだ」
着替えなどはぺしゃんこになっているし、肝心の食料は大半がクインクが潜り込むスペースになっていたため入っていなかった。
「あっぶねー、中継基地によって正解だったな」
リュックの中ですやすやと眠るクインクは小さな自分用のリュックを抱えている。
エトナーは心配性だな、と苦笑していたが
「私が昨日余計なこと言っちゃったからかもしれませんね」
「なんか言ったのか?」
「授業に代わりに出てもらったら?って言ったんです。だから心配したのかも」
「なるほどな」
ルナがクインクを身代わりに授業に出させて置き去りにするなんて、そんなことするはずがない。
そう言うのは簡単だが唯一の肉親を非業の死で喪ったクインクには離れ離れになるという選択肢はないのだ。
エトナーはそんなクインクに少しだけ同情しながらリュックの口を閉じた。
「とりあえず飯食って、食料を買い込んでからだな」
「おはようございますー」
「おはようございます、どこ行きの方でしたっけ?」
「ああ、あの私達ティナちゃんの同級生です」
中継基地の中に入るとテントの庇の下で木箱の山を振り分けている番頭らしき人物に声を掛ける。
そうすると番頭は木の板に留めた用紙を見ながらカティナに尋ねる。
ユピトール商会では手代と番頭のシステムがあり、手代は番頭の補佐と雑務をこなしつつ商会に属する下働きを統率する。
番頭は各部署や店舗のリーダーであり、この基地を運営する人物でもある。
「へぇ、お嬢の同級生の方ですか」
「そうなんです、食事と旅先の食料の買い付けをしたくて」
「はいはい、そういことでしたらあちらの建物に向かってください」
一瞬不思議そうな顔をした番頭だったがティナの知り合いであることと買い物客である事を知るとテントの庇から出てきて既に建設が済んでいる石造りの建物を指さした。
「ここと同じ規模ならあの建物が食料の売買と調理をやってます。運が良ければ宿泊もできるんで覚えてくださると便利ですよ」
「ありがとうございます」
「いえ、ワイルビーでは大活躍だったんでしょ?カティナさんでしたっけ?」
名前を知っている事に驚いた様子のカティナに番頭はにこやかに笑って言った。
「どうして私の名前を?」
「お嬢のお友達にいるハイエルフといえば貴女でしょう?存じてますとも」
「そうだったんですね」
「ええ、ああそうだ、ついでなんですが……エルフの霊薬が飲みやすくなったらユピトール商会に卸して下さいね」
旅に体調不良はつきものですから。と番頭は笑顔で言った。
「粉末にできますよ」
「えっ、そうなんですか?それなら欲しいなぁ……旅先ではお腹を壊す人も多いんですよ」
商隊を組織して各地に売り込みや販路の拡大をしているユピトール商会の面々は旅に強い人材が多い。
しかしそんな彼らであっても常にトラブルと隣り合わせの生活をしている。
病気やケガ、盗賊や販路先でのトラブルなど待ち構える困難は多い。
その中で知識だけではどうしようもないのがケガと病気だ。
「もしたくさん作れたらティナちゃんに渡しておきますね」
「ありがとうございます、お願いしときます」
粉末にしたところで激烈に不味い味はどうにもできないが効果は確かなものなので欲しい人は欲しいだろう。
体調不良の症状に幅広く効く霊薬は誰もが求める逸品。味以外は。
「ルナちゃん、もうちょっとの辛抱だからね」
「まだ初日なんだけどなぁ、まさか旅先での食い物が期待できないだけで空腹になるなんて迂闊だった」
エトナーが呆れる中、カティナは手伝ってもらいながらルナを石造りの建物へと運んでいく。
「あっちの方の姿のルナちゃんはおっきいですからね……」
カティナの言葉にエトナーは顎に手を当てて唸った。
(そうだった、ルナちゃんの一部にゃ冥府の大百足が居るんだった……底なしの大喰らいの性分と巨体も合わさってんだったな)
元々父親譲りの健啖家なのでエトナーも失念していた。
人間の基準ではいくらたくさん食べてもルナの本体である悪魔の体にとっては平気どころか、控えめの食事にしかならないのである。




