出発信仰
アリシアに旅におけるあるあるを聞いたところでその日は何事もなく過ぎていく。
そうして出発の日がやってきたのだが……
「エトナーさん、出発の日なんですが!」
準備を済ませ、カティナと共に教会に来たルナであったがどういったわけかエトナーの姿がない。
「あれー?」
「留守なのかな?」
二人して首を傾げていると遠くからアダムがやってくるのが見えた。
「おーい」
「あ、先生」
現在の時刻はまだ朝早く、アダムはちゃんと寝ていないのか少し疲れた顔をしている。
「間に合ってよかった」
二人の元にたどり着き、息を吐いてそう言うとアダムは背負っていた鞄から冊子を取り出した。
「これを渡しとこう」
「これは?」
「出席日数代わりの課題だ、滞在が長くなったらするといい」
「はぁい」
どうやら用意する物というのはルナの為の宿題だったようだ。
エトナーが同行するとあって安全の心配はしていないが学校の成績は気になるルナの為に作ってくれたらしい。
「ありがとうございますぅ」
「エルフの里でなにか学べることがあったらそれを発表してくれてもいいぞ」
「わかりました」
「アインザッツも故郷の事を日誌に書いてくれたらそれを課題として認めよう。故郷の風習なんかを纏めてくれ」
「わかりました!」
ホッとした様子のルナにアダムは忙しかったら冊子は帰ってから終わらせてもいいからと言ってくれた。
カティナもな、ととにかく提出すればいいということらしい。
ルナの勉学の姿勢に対する信頼はFクラスの中でぶっちぎりである。
これがティナなどになるとひどいことになるのだ。
ルナは宿題をサボったことも誤魔化したこともないがティナやクロエは間に合わないと見るやルナやマリーの宿題を写すことが多い。
点数に直結しないのですぐにばれるのだが、姑息な手段をあの手この手で講じては補習や罰則を免れようとするのだ。
「嫌な顔せず宿題を受け取るのはお前さんくらいのもんだよ……」
冊子もプリントも作るには相応の労力が必要だがティナはやってこなかったり、クロエは無意識に発動した魔法でびしょびしょにしたりとアダムに苦労をかけまくりである。
その点においてもルナの態度は優等生そのものだった。
「そのご褒美というにはアレ過ぎるが、探し物の在処を教えてやろう」
「探し物って……」
ルナが不思議そうにしているのを他所にアダムは教会に据え付けてあるベンチの裏で背景と同化しているエトナ―を引きずってきた。
「これだ」
「これはひどい」
顔色は青を通り越して土気色だ。
旅支度をするとか言っときながら着の身着のままで酒瓶を抱いたまま眠っているのか死んでいるのかすら定かではない状態で転がっている。
「出発するって言ってたのにー!」
「愚かなる神の御使いだな、エトナー」
ルナが珍しく不満を露わにしている。
約束を取り付けたにもかかわらずこの有様であるからしょうがないのかもしれないが。
「けど普段の二日酔いより顔色が酷いですね」
息をしているのかちょっと怪しい見た目だ。さすがにカティナも心配そうにしている。
皆は既に気にしていないがカティナにすら二日酔いで青ざめている顔を覚えられている有様である。
「どうせゲロを詰まらせてるんだろ」
アダムは地面がむき出しのところまでエトナーを引きずっていくと魔法で地面に穴を空けてエトナーの顔をつっこんだ。
「こうして、こうやると」
そしてエトナ―の背中を文字通り足蹴にすると数回痙攣した後に水が噴き出すような音が。
「うう、ひどい」
「バカだからしょうがない」
疲れからかアダムの態度が普段よりも悪い。
そうでなくても連日の補習でメンタルをやられているのである。
「うぶぇええ……」
「おい、日光教のバカ選手権代表。旅に出る前日に死にかけてるのはお前くらいだぞ」
「アダムか、ううくそ、景気づけに飲み過ぎた……」
顔を地面から引き抜いたエトナーだったが顔色の悪さは相変わらずである。
しかも吐いた後なので臭いも酷い。
「顔洗ってくる……これ埋めといてくれ」
そう言うとふらふらと教会に向かうエトナー。
カティナとルナは溜息をつきながら穴を塞いでいる。
「とりあえず今日中には出発できるだろう……たぶん」
まあ、頑張れ。とアダムはどこか投げやりな様子で言うと少しふらつきながら学校へと足を向けた。
アダムもアダムでこれから優等生が二人減った魔境に向かわねばならないのだ。
さらに言うと、もしもこれで出発ができなくなったりしたら急いで冊子を完成させた意味も吹き飛びかねないのでそこらへんも原因かもしれない。
「はーっ、なんとかなったわ」
「ほんとにですか……?」
どこかやつれたような様子のエトナーにルナは心配と呆れの入り混じった視線を向けている。
旅支度自体はちゃんとしていたのかリュックを背負ってはいるが……。
「食料品とかは最低限にしとけ、どうせ持たないし腐るから」
「何日分でしょうか?」
「教会経由で行くからなぁ……、魔法学校の馬車だと一週間くらいだったか?」
「そうでした、何度か宿を経由しましたけど」
エトナーはしばらく考え込んだ後に言った。
「急ぎだから最短距離を突っ切ろう。そうすれば国境に二日もあれば到着する」
二人はそんな魔法のような方法があるのかと驚いたが、どうやらエトナーには考えがあるようだった。




