お手紙の内容は?
サピスキアは始祖のエルフであり、大陸に遍く存在するエルフやその混血の中でエルフの血の濃い者の記憶や見聞きしたものを共有できる特殊技能がある。
中にはサピスキアに向けて情報や思念を送る事が出来る者もいるらしいが……
「そう言えばどうしてアインザッツの父親の手紙を再現できたんだ?」
アダムは内容には触れず、筆跡まで真似て書いたサピスキアに尋ねる。
「私に、思念を、飛ばせるのは、限られた者だけ、だけど、近くに血の濃い者が、居れば、その限りではない」
「つまりアインザッツの近くにいる時に、アインザッツの両親がめちゃくちゃ心配してたらその情報を得られるのか」
「そうなる」
カティナは血筋で言えばハイエルフ、純血のエルフなのである。
両親ももちろんそうだし、サピスキアによればカティナは魔法の素養もあって始祖のエルフと交信できる素質があるとのこと。
その為、両親が子供に向けるくらいの熱心な思念があればサピスキアはカティナを中継器にして両親から情報を得られるのだという。
「そんな便利な機能があるとは」
「そうでもない、心配は、伝染る」
「うつる?」
「親が、子を思う、気持ち、とても強い」
サピスキアはそう言うとカティナを見やる。じーっと。じーーっと。
その圧力はかなりのもので、無表情も相まってすごく不気味だ。
「あの、すごく読みづらいんで……」
「仕方ない」
「近いって」
じりじりと近づくとカティナもじりじりと離れていく。
「磁石みたい」
「反発しとるな」
「反抗期かな?」
「何を言っとるのか」
とぼけた事を言うティナにアダムが呆れた様子で言う。
カティナはガン見しながらじりじり近づいてくるサピスキアにビビりながらも黒板に書かれた内容に目を通していく。
「なんでかはわからないですけど……、手紙が届いてないみたいです」
「誤配や遅延の可能性は?」
「『学校についてからどう?寮はどんな感じ?』となってるので結構前から届いてないみたいです」
カティナは実技大会のこと、妖精食いのこと、ワイルビーの事などを手紙に書いたようだが黒板の内容を見る限りそれらに触れられた事が無いと気づいたらしい。
「海に行ったら両親は絶対に海の事を聞いてくると思うんですよね」
「山育ちだもんね」
「うん」
カティナは森の中で生まれ、そしてエトナ―から外の話を聞いて魔法学校へ入学を決意するまで森の外はもちろん、海に行ったこともなかった。
「そう言えば来たばっかりの時、木の上に登ってお昼寝しようとしてたね」
「街路樹だったからすごい目立ったよ……」
「や、やめてよ!恥ずかしいから!」
行商人のおかげで最低限の外界のルールなどを学ぶ機会はあったものの、それでも森での生活習慣が抜けず周囲から奇行に走っていると思われる事もあった。
しかし馬車で移動する際に皆と行動することで、また寮で生活することで少なからず外界の事柄に触れてきたのだ。
カティナもそうだったが両親も森の外に出たことが無い。
保守的で生まれ育った場所から離れないことも多いハイエルフ達は環境に影響されやすいエルフの中で数百年、もしくは数千年の長きにわたってその存在を維持してきた。
それはエルフの里、その根源ともされる隔絶された環境で生きているからこその存在である。
しかし中にはカティナのように外界に飛び出す存在もあり、それが外に広がったのがこの世界の人々が良く知るエルフの存在である。
「ハイエルフって数が減ったりしないの?」
「帰ってくる人もいるらしいからね」
「先祖返り、だね」
エルフの血は時折濃く浮かび上がってハイエルフの特徴を示すことがあるらしい。
そういった者は外に出て行くハイエルフとは別に森に帰ってくるのだという。
「へー、帰ってくるのか」
「森は、そうやって、維持される」
サピスキアはそう言うと視線を上にあげた。
彼の目線の先にはおそらく目の前の風景とは違うものが見えているのだろう。
「話を戻すが……、両親からの手紙の返信は?」
「そう言われてみれば、それも最近……」
アダムはカティナの言葉を聞くとふむ、と考え込む。
こういった特殊な地域に向かう配達員は往復することが多い。
辺境に向かう都合上それ以外の仕事は殆ど受けられないため個人同士、家族同士の専属に近い扱いになるからである。
「配達員に問題が起こったか、それともまたぞろ国境で問題が起きたか?」
「とにかく一度帰ってみないと……」
サピスキアから受け取った内容も一方通行だ。おそらく両親はカティナがこの手紙の内容を見た事すら知らないだろう。
焦るカティナにアダムは待ったをかけた。
「焦るな、アインザッツ。配達員個人の問題ならともかく、配達員が通行できないような問題だったらどうする?」
もしそういった事情なら危険だ、と言われてカティナは困った様子でおろおろしている。
そんな時、ルナが一つの提案をした。




