無手という虚像
フルプレートは高級なもの、それを突き詰めれば動きやすさなども段違いである。
関節など柔軟に動かせるし、視界の狭さはあるもののほぼほぼ刺突ですら防ぎきるもの。
しかし、やはり金属。その重量はどのように高級な技師であっても誤魔化せない。
「うぐぐっ、前が!みえないっ!」
おたおたしている騎士を見て、ふとエルドは思いついたように指を立てた。
「そうだ、ではこの御仁を誰か私から助け出してもらいましょうか」
立ち上がろうとした騎士の手を払って背中に足を乗せた。
「ぐえっ!」
「さて、本来ならこのまま踏んづければ仕留めるのは容易い」
意図を察した一人の騎士が盾とメイスを手に走り出した。
「おおっ!」
盾を構えて突進してくる相手にエルドはにっかりと笑うと
「どっせいっ!」
「ぐおっ!」
盾に向かって逆に体当たりをかまし、左手で相手の右上腕の部分を掴んだ。
「ぐっ、く、くそっ!」
「さてさて、これからどうしますかな?」
メイスをぶらぶらさせているが高く掲げて振り下ろすのが最大威力を発揮する重量武器である。
振り被る事も振り下ろす事も出来なければその重量はかえって邪魔にしかならない。
押し返そうにも盾が体に密着している為に左手は使えず、エルドに押し倒されないように踏ん張るのが精一杯だ。
「こちらは右手が自由ですな」
エルドはそう言うと騎士のヘル厶のペンテールをこじ開けるとそのまま騎士の鼻をつまんで引っ張り始めた。
「いだだだだ!」
「盾の構え方が悪い、だからこうなる」
そしてそのまま相手が踏ん張る力を利用するとそのまま倒れている騎士の上にもう一人を重ねるように転ばせた。
「ぐわっ!」
「うぎゅっ!」
二人はお互いがお互いの立ち上がる動作を阻害しあい、立ち上がることもできず藻掻いている。
「次!」
容易く二人がいなされ、地面に転がされている中で全く疲れた様子を見せないエルドに騎士達は尻込みし始めた。
エルドの持つ技術に突破口を見いだせずにいるのだ。
「ううむ、なんだか隙がないぞ」
「魔法すら使ってないしな」
聖騎士達はひそひそと作戦を囁き合っている。槍を使った一人、盾を持った一人が子供扱いされる始末である。
魔法使いの無手は非武装のそれではない。
そう言いつつもエルドは先ほどから体術と腕力だけで戦っている。
つまり奥の手は見せていないわけだ。
「あの、二人がかりでも?」
「もちろんかまいませんぞ!」
エルドは二つ返事だ。
聖騎士達は流石にムッとしたがそれを口に出すには相手が悪すぎる。
「行くぞ、二人なら……」
「よし!」
そう言って二人がエルドに近寄るのを見てエトナーは退屈そうに欠伸をした。
戦力の逐次投入だ。
エルドの経験上、全員で袋叩きにしたところで文句など言わないだろうに彼らはプライドからそれが出来ずにいる。
敬虔な信徒でもある彼らにはまだまだ青臭い善意が抜けないのである。
エルド自身が善人であることは疑いはないが、彼が買って出てくれているのは悪役だ。
悪党と戦う対人戦の為にエルドは悪役を買って出てくれているのに、それを集団で制圧する事に気が回らないでいる。
「親父殿、手加減は要らねえ。悪党になりきってやっちまいな!」
エトナーがそう言うとエルドはふむ、と髭に手をやりつつ考えるそぶりを見せると
「そうですな、全員相手にやってみましょうか」
にっかりと笑みを浮かべると悪い顔になった。
「それでは私は今からここで暴れる暴漢で、諸君らはそれを制圧に来たということで」
指の関節をゴキゴキと鳴らしながらエルドは戸惑う聖騎士達に向かいあった。
「悪党が何をしでかすのか、わかりますかな?」
「わ、わかりません」
「では勉強なさるといいです」
律儀に答えた騎士の一人にエルドは笑顔で頷きつつ、ようやく立ち上がろうとしていた騎士二人をひっつかむと一人を集団に向かって突き飛ばす。
「うわわ!わ、わわっ!」
たたらを踏んで仲間の元に戻ってくる騎士を仲間の騎士達は受け止めたが
「むぅん!」
その背中にもう一人の騎士を放り投げた。
「ぐえっ!」
「ぎゃっ!」
人間大の質量を持った投擲物と化した仲間に他の騎士達がもんどりうって転げる中、エルドは自分と戦おうとして前にでていた二人組に目をやる。
「さて、これで数の利はぐっと減りましたな」
二人がちらりと待機していた仲間たちを見やる。
まるでストライクが出たボウリングのピンのように仲間がぶつかって転げている聖騎士達。
全員でかかってきてもいいと言いつつ、エルドはあっさりと援軍を封じてしまった。
「悪党は人間です、魔物でもそうだが……奴らは頭が回る」
倒れている聖騎士達を指さして言うエルドに片方の騎士は思わず指さす方へ視線を向けてしまい
「隙あり」
「うぐっ!」
股ぐらを蹴り上げられてそのまま膝をついて蹲った。
残った聖騎士はあまりの呆気なさに呆然としている。
「まったく、見てらんねえな」
エトナーは溜息をついてエルドに待ったをかける事にした。




