お祭り終わって日が暮れて
「す、すごい音がしたぞ!」
総隊長と観覧席から飛び出してきた司令は最後の屯所が瓦礫の山と化しているのを見て
「うーん……」
総隊長は卒倒し、司令は呆然としていた。
「ワハハ!どうだ、精鋭たるものの威容を!」
エルドは襲撃者側の面々を前に押し出して胸を張った。
彼らは全く何もしていないのだがエルドが何故か皆の勝利!的な雰囲気を出しているので苦笑いで並んでいる。
「これは天罰か……」
街路樹から滑り落ちた隊長役の新人は羽織っていたマントと服につけていた装飾を剥ぎ取って、その日から考えを改めた。
「道半ば、まだまだだ」
上には上がいる。自分はまだまだなのだ。
治安維持部隊に配属された時に自分は栄達の道を歩んでいると慢心していたのだと。
しかし蓋を開けてみれば前線から離れてデスクワークをしている人すらあの実力なのだから。
そして演習が終了し、皆が広場に集合した頃。
やつれた様子の司令が演説台の上で立っていた。
「え、えーとだな、なんて声掛けたらいいんだろうね」
司令はもはや威厳もなにもない有様で言葉を探していた。
総隊長は演習で発生した怪我人に混ざって治療を受けている。
司令の頭の中は年長者の意見を突っぱねた事に対する後悔でいっぱいだ。
「とりあえず襲撃者側の、とくに二棟目の人達が頑張ってたので褒めて上げてください」
「そうだね……」
職員もげっそりした顔で司令と話し合っている。
論功行賞の場であり、皆がそのやりとりを見ているのだが……。
「屯所の修理、どうしようか……」
「私に聞かないでくださいよ……」
司令の頭は全壊した屯所の事で頭がいっぱいだった。
職員はそんな司令になんとかこの場をやり切って演習を終わらせて貰うべく、もはや隠れるつもりもなくヒソヒソとやりとりをしている。
「え~、ではまず今回一番目立っていたエルド・フラウステッド君だけども」
司令の言葉に皆が注目する。
今回の功績で言うならぶっちゃけブッチギリトップの戦績である。
皆があそこで頑張っただの、指示を出しただのが評価ポイントであるのに対して突撃して三棟倒壊させたというにわかに信じ難い戦果である。
「功績を鑑みて、演習卒業ということにします!」
「そつ……ぎょう?」
エルドが目を点にしている中、司令は続けた。
「君に演習は必要ないから!もう来なくていいよ!」
「エ゛ッッッッ?!!」
仰天するエルド。しかし驚いているのは彼だけだった。
クインクが疲れて眠ってしまったので、ルナはクインクを抱っこしたまま先に帰ってしまったからだ。
仮にそのまま居たとしてもクインクは驚かなかっただろう。
「がっかりしてましたね」
「致し方ない犠牲だ」
司令と職員はしょんぼりとした様子で帰っていくエルドを見送って溜息をついた。
十年ぶりの演習かと思えば出禁通告である。
可能性がゼロと突き付けられたのであるからエルドががっかりするのも当然だろう。
「演習は他にもある!」
しかしエルドはそこからがしつこかった。
演習やらそれに類するイベントにひょっこりと顔を出してはじーっとそれを見ているのが増えた。
皆はエルドがやってくると当然ながら真面目にやらざるを得ず、エルドが付け入る隙を見せまいとする。
「うぉおお!」
「死ねよやー!!」
そうなると演習も交流戦も熱を帯びて実践さながら。
結果としてエルドが居なくても怪我人が続出した。
「彼は外に出すべきだとおもうね」
「外といいますと?」
司令は総隊長に再び提案した。
彼の元には別件の演習における部隊の取り組みが過激になりつつあることを危惧する他の部署の陳情書が何通か届いていたのだ。
「ほら、大聖堂の聖騎士とか……」
「爆弾押し付けるんですか?」
「ならここで爆発させ続けるの?」
代案は?と言いたげな司令の言葉に総隊長も困った。
万が一、彼が暴れたら取り押さえるのは至難の業である。
演習というのは困ったことに彼に合法的に暴れる権利を与えるようなもの。
真面目故に全力投球、そしてその後には災害でもあったのかという破壊の痕跡が。
「出禁にしたと思ったら演習や交流戦の会場に現れては『参加していい?』って感じで見てるもんだから」
まるで竜巻が雷雨を連れてくるかの如く、エルドが見物に来ると演習が激化する。
なんか手を抜いてるなー、と思ったら余裕があるとみなして入って来ようとするのだ。
これなら演習に呼ばないで毎年期待させてる方が無難だった。
「とりあえずさ、あそこには聖人様もいるわけだし……頼んでみよ?」
「それは……」
総隊長も提案があるわけでなし、とにかくエルドのほとぼりが冷めるまで日光教の武装集団にエルドを任せることにした。
「つーわけで、なんかウチの弟子のルナちゃんの親父殿が来る」
「突然ですね」
大聖堂の修練場でエトナーは聖騎士達を集めていた。
やっとこさルナの強化術が抜けて人並みに暮らせるようになったところに魔法局から依頼がきたのだ。
エトナーは別にどっちでもよかったがルナの父親ということで特に深く考えず了承したのだ。




