三棟目?
三人は三棟目の屯所へと向かっていた。
催し物は佳境だとばかりに野次馬は最後の屯所に集まっている。
「今回も全壊するのかな?」
「十年前は三棟全部倒壊したらしい」
野次馬は二棟が倒壊したのを見て興奮気味で騒いでいる。
そしてその原因となった男、エルドに対して皆が注目していた。
「あの大男が屯所をぶっ壊した男だ」
「すげえ、あの腕で挟まれたら死ねるぞ」
三人が歩いてくるのを見て野次馬達は応援するやら、はやし立てるやら。
エルドとルナは別段気にしていなかったがクインクだけは二人が何かしらやる気を出さないかとひやひやしている。
「ええと、始めちゃっていいのかな……」
三棟目の会場では倒壊した先の二棟の後始末に職員が駆り出されているため、進行役も連絡を受け取れずにいた。
「進行役!どうなっておるのか!」
取り残された職員がおろおろしている中、守衛側の新人が職員の元にやってきた。
どうやら開始の合図がいつまでたっても来ないので痺れを切らしたのだろう。
「そ、それが先の二棟の後始末に時間がかかっているようで……」
「開始の合図くらい出せるだろう、こちらは待ちくたびれてしまった」
「しかし観覧席の来賓もこちらにまだ来ていませんし……」
どうやら今期の新人も三棟目に問題児がいるようである。
此度もまた三棟目の悪夢となるのだろうか。
「いやあ、お待たせした。応援に来ましたぞ」
守衛側の隊長役が職員に詰め寄る中、エルド達がやってきてしまった。
「ええと、まだ始まっていないようだ。こちらも準備しよう」
エルド達はまだ演習が開始されていない事を知っていそいそと襲撃者側の待機所に向かう。
そんな三人に問題の新人が待ったをかけた。
「そこの、そう!お前だ!なぜ子供がいるんだ!」
「子供というと、私の娘のことか?」
職員がおたおたするのを他所に新人はエルドに詰め寄るとのほほんとしているルナとクインクを指さした。
「あんなのが居ると気が散るだろう!さっさと観客席に下がらせるんだ!」
「しかし先ほどもしっかり頑張っていたぞ?」
「手加減したに決まってる!演習をなんだと思っているんだ!」
まさかの難癖である。しかし運営にしてみれば救世主になり得る彼の物言い。
ちょっと希望の光が差し込んだのも束の間。
「いいよ、お父さん、私は応援してるから」
「そうですよぉ」
「そうはいかんぞ、ルナ達だってやればできるだろう。彼に見せてやるんだ」
自分はともかく家族を過小評価されたのが気に入らないのかエルドは鼻息を荒くしている。
そして……
「お父さんが頑張ってるのに手加減されたって言うのも嫌だし、此処で見てるから」
「そうか……?」
「うん、その代わりに応援ね」
頑張って、とエルドの背中を押してルナは笑顔で待機所へ。
そしてクインクを抱っこして椅子に座ると笑顔で手を振っている。
「むーん、娘の実力を示せないのは不本意だが……まあいい」
エルドはふんぞり返っている新人を睨みつけると腕を組んでこちらも胸を張る。
「生意気な新人に目に物をみせてやろう」
「望むところだ!」
まさかもうすでに死刑執行命令が受領されているとは思うまい。
言わずもがな、ルナはエルドに『応援』を済ませている。
「我がフラウステッド家の奥義で完膚なきまでにやっつけてやるぞ!」
新人がエルドの意気込みを聞いて不敵な笑みを浮かべると屯所に戻って土の壁を魔法で展開し始める。
どんとこいと言わんばかりだ。
「この防壁は衝撃を吸収できる!突破できるものなら突破してみろ!」
高笑いをする新人を他所にエルドは襲撃者側の面々を下がらせる。
「何をするんですか?」
「まあ、みてなさい。治安維持部隊に属していた者が見せる奥義というものを」
襲撃者側が退避するのを見てクインクは嫌な予感がしていた。
ルナはワクワクしているがクインクはエルドが珍しく体内の魔力を操作しているのが感知できたからだ。
肉体派の魔法使いが魔力を操作する時、何が起こるのだろうかとクインクは不安しかなかった。
「むーーーーん!」
唸り声と共にエルドの右手に風の魔法を凝縮したような球体が発生している。
それはまるで極限まで圧縮された空気のようにぎゅぎゅっと掌サイズに固められている。
「空気を圧縮し、我が拳の力に乗せて放つ!フラウステッド家奥義『エアロハンド』おぉぉぉ!!!」
大きく体を捻って放つ渾身の右張り手。
空間に向かって繰り出されたそれは風の塊を掌の形に変えて直進する。
防壁にぶつかった瞬間、まるで粘土のように衝撃を一瞬受け止めたが……
掌型の風の塊はまるでやすりのように表面を削り取りながらめり込んでいく。
「な、なんだこれ……うおおおおお!???」
守衛側の隊長役は掌の形をした暴風が防壁ごと屯所の壁をそのまま破壊し、屯所に巨大な掌型の穴をあけた。
砂煙が収まった後、屯所はそのまま向こうが見渡せるようになっていた。
見事なまでの貫通である。
「ひ、ひぃぃ!こんなの聞いてないぞ!」
「こわいよぉ!」
守衛側の新人たちは我先にとぽっかりと空いた穴から逃げ出していく。
呆然としていた隊長役はそのまま残った屯所の一部が崩落すると同時に投げ出され、街路樹に引っ掛かった。
「わ、わたしは夢をみてるのか……」
それも飛びきりの悪夢を……。
彼は街路樹に引っ掛かったまま、ぶつぶつと繰り返し呟いていた。




