二棟目!その2
ルナが右往左往する中、クインクはぽてぽてと主人を追いかけていた。
一生懸命ではあるが、なにぶん小さな体なので時間がかかる。
「よいしょ、よいしょ」
そうしていると正面玄関で騒いでいる人たちが目にとまった。
「ビクともしないぞ!」
「めげるな!エルドさんが頑張ってるんだぞ!」
なんとか扉をこじ開けようとしているが扉は高く積み上げられた土嚢が固定している。
力づくで、と言いたいが彼らはエルドのように馬鹿げた怪力を持っているわけでも土木作業員でもない。
山のように積まれた土嚢に悪戦苦闘している。
そうしていると、クインクはどうにも困っている彼らに自然と吸い寄せられていった。
ルナの影響を受けているのか、彼女も困っている人がいると放っておけないのだ。
「あのー……」
「うん?どうかしたのかな?」
「お手伝いしますか?」
「うーん……そうだなぁ」
小さなインプに何ができようか、と皆は少し困ったがどうにも邪険にもできず一旦作戦を練ることに。
「土嚢をどうにかしたいんだけど、扉を挟んでるしどかすことも壊すこともできないんだ」
土嚢は頑丈に編んだ植物繊維の袋が使われている。火を使うことも考えたがそれだと危険性もあり皆が躊躇っていたのだ。
それに対策もあるだろう。二階からルナにめがけて降り注いでいる水がそれを示している。
「どうしたものか……」
「土にたくさん水をいれたらいいのでは?」
そんな中でクインクは砂遊びからのアイデアを提案した。
以前にティナと悪ふざけで作った砂の城がクロエが来た途端に湿気でグズグズになったのを思い出した。
砂も土も水をたくさん含むと硬さを失う事をその時に覚えたのだ。
「土嚢に水か、それならできるかもしれない!」
皆は再び玄関に集まると扉をどうにかしてこじ開け、隙間を作る。
「どうかな?手が入りそう?」
「なんとか、いけます!」
そして細い隙間にクインクがスコップを差し込むと土嚢に先端を突き刺した。
そしてクインクを介して水の魔法を使える職員が魔法を展開する。
「むーん……」
クインクがポンプのような働きをして水の魔法をスコップから放出する。
すると土嚢はみるみるうちに水を含み、やがて中身が泥水でパンパンになった土嚢は水風船のように柔らかくなる。
すると硬さを失った土嚢から支えが揺らぎ始め、土台から崩れ始める。
「やった!成功だ!」
「すごいぞ!」
職員が喜んでクインクの背中を叩いた。
本人たちは軽くやったつもりだったが、クインクは驚いてしまい。
「むむっ!?」
クインクの魔力が暴発した結果、職員が展開した水の魔法がホースの水どころか間欠泉のような勢いで噴き出した。
「な、なんだぁ!?」
一階が完全に水浸しになり、壁を補強していた土嚢が吹き飛ばされて建物に内側からのダメージが追加される。
「も、もうだめ……」
壁を防御していた魔法使いがそれによって完全に魔力を使い果たして卒倒し……
「ふんっ!」
「むーん!」
一瞬、抵抗が緩んだのを見計らってエルドとルナが同時に掛矢を振るった。
壁と玄関と一階が同時攻撃によって致命的なダメージを負う。
そして浸水した一階に二面の壁のダメージが重なった結果
「壁が崩れるぞ!」
「わわわっ!」
一階部分が吹き抜けになった。
エルドとルナがこわした壁から流れ出てくる水に慌てて逃げ出す中、泥と瓦礫に埋まった一階部分を見て総隊長は言葉がなかった。
倒壊こそしなかったものの、壁が無くなった上に水を大量に含んだ泥まみれの建物など使い物になるわけがない。
「た、立て直しか……」
内側から破裂するように壁が崩れたのだ、それを支えている建物の柱が無事であるはずがなく。
総隊長が呟いた一言がまるで引き金になったかのように
「ぎゃー!」
ほどなくしてこちらの建物も一階建てになった。
司令と総隊長が同時に腰を抜かしたのは後にも先にもこの日だけだっただろう。
「ちゅ、ちゅうし!中止にしよう!もう……中止!」
司令は総隊長の言葉がまったくの出鱈目でなかったどころか、あれでもマイルドな表現だったのではと思い始めていた。
しかし後悔は先に立たず、である。
エルドとルナ、そしてまるでくしゃみでもしたかのようなリアクションのクインクはそのまま三棟目へと足を向けていた。
「おい!中止だろ!だれか止めてこい!」
呆然としている守衛側を設営スタッフが慌てて助け出している。
魔力切れを起こして倒れている者もいるし、倒壊の衝撃で負傷している者もいる。
ルナは一瞬彼らを助けに行こうかと迷ったがスタッフの邪魔になると思い、ためらいがちに三棟目へと向かっていった。
その混乱によって暴走機関車はそのまま次の会場へ行ってしまったのだ。
「おい!エルド君は!」
「えっ?あ、いない」
「いないじゃないだろ!とめてこい!」
「でも倒壊した屯所から怪我人を搬出しませんと」
「それはそうだが!」
さっさと止めに行きたかったが怪我人が続出している状況である。
スタッフもそれにかかり切りになってしまい、エルド達を止めるどころではないのだ。




