一棟目!
全員が開始位置についた。
全員が何故か既にフルスロットルのエルドを見て不思議に思っていたが何も言わなかった。
「それでは開始です!」
監督官から開始の合図とともに空中にあげた魔法が合図になった。
全員が進みだそうとした時……
「むっ!?」
エルドが握りしめていた掛矢の頭がぼとっと落ちてしまった。
「壊れた!」
「えっ!?」
掛矢の頭を拾い上げたエルドだったがどうしようもないので一旦下がることに。
「道具類の変更はできませんよ、どうします?」
「すまん、修繕できるかやってみる」
全員が一旦ストップしてUターンするエルドを見送る。
先鋒が居なくなったので全員が作戦を一旦変更して盾持ちを先頭に立ててじりじりと進んでいく。
そうすると守衛側と襲撃者側のやり取りは例年のそれと大差ないやり取りが始まった。
「あれっ、お父さんどうしたの?」
「私の使う道具が壊れてしまったんだ」
始まって直ぐに帰ってきたエルドにルナは少し驚いたが何とか掛矢を修理しようとしているのを見て、ふとルナはこんな事を思いついた。
「よし、エルド君は早々に持ち場を離れたな」
総隊長はエルドがどうにか掛矢を修理できないかと悪戦苦闘しているのをみてホッとした。
しかしである。
道具箱の近くで立っていたルナが不意に箱を漁りだしたかと思うとロープを取り出してエルドの所へ。
そして二人でなにやら話し合うとなんとロープを掛矢の頭にぐるぐると巻き始めた。
「あれは何を……?」
「さぁ?」
周囲の人間はエルド達が何をしているのか不思議そうにしていたが、ここでもいち早く総隊長が気付いた。
「不味い!不味いぞ!」
「何がですか?」
演習場として借り受けた土地と一般道を区切った柵から身を乗り出して焦った表情を浮かべている。
部下や監督官は頭にクエスチョンマークを浮かべていたが
「むーん!」
エルドがロープに繋いだ掛矢の頭をまるでハンマー投げのハンマーのように振り回し始めたのを見て仰天した。
「よーし、行ける!行けるぞ!」
「頼むから行けないでくれ!」
総隊長の叫びも虚しく、エルドはハンマーを振り回しながら突入すると少し離れた位置からそれを投擲した。
ガシャーン!!!!
「ウギャー!」
隊列を組んでじりじりと進んでいた襲撃者側の背後からまるで砲弾のように飛んできた掛矢の頭部分はそのまま扉を粉砕、中から悲鳴が上がった。
「ヒュー!さっすがエルドさんだ!」
「やるなぁ!」
そうして投げ込まれた掛矢の頭部分は繋がったロープを手繰り寄せて再利用され……
「どっせいっ!」
二発目が投げ込まれる。
もちろん、そんな質量と速度の乗った物を防ごうとする者などいるはずもなく……
「うわぁぁ!」
「ひぃぃ!」
砲撃を食らった陣地のように守衛側は悲鳴を上げながら右往左往している。
二発目は壁を粉砕して中に飛び込んだ。
もう既に守衛側は防衛どころではない。
「むっ!」
「どうしたエルドさん?」
「なにか引っ掛かったみたいだ」
ちょっと待ってくれ、とエルドはグイグイと引っ張っていたがそれでもビクともしないのでエルドはロープをぐるぐると腕に巻き付けると渾身の力を籠めてロープを引いた。
すると……
ボキボキ!
何かが折れる音が響き……
「うわぁぁぁ!」
「ひぃっ!」
屯所から守衛側の人員が慌てて飛び出してきた。
そして
「く、崩れるぞ!」
「屯所がぁ!嘘ぉ!?」
二発目で弱った大黒柱に引っ掛かったのだろう。
それをエルドが力任せに引き抜いたせいでへし折れたらしい。
屯所は内側に折りたたまれるようにして崩壊し、総隊長の危惧は現実となった。
「う、嘘……」
司令も絶句である。
観覧席では一部の老齢の職員だけがまぁ、そうなるよな、と遠い目をしていて。
「た、建て直し……また」
総隊長の目は死んでいた。
「ガハハ!どうだ!ざっとこんなものさ!」
そんな事などつゆ知らず、エルドは皆と早くも戦勝気分である。
襲撃者側は間違いなく満点かそれに準じた点数を取れるだろう。
「いやぁ、やはり凄まじいですな!」
「ホントに!」
守衛側についていた新人達は倒壊した屯所をみて呆然としている。
無理もない話である。一線から退いてブランクのある職員がまさか二発の投擲で屯所を倒壊させるなど誰が思うだろう。
「それでは次に行きます!」
そう言ってエルドはルナを連れて次の場所へ
「あっ!ちょっとエルドさん!」
行こうとするエルドを職員が呼び止め、掛矢を取り上げた。
「ダメですよ!これを使えるのは此処だけです!」
「むぅ、そうなのか」
もちろんそんなルールなどない。同じ事をされたら別の屯所も数発で倒壊するのが目に見えているからだ。
「向こうで道具を借りてくださいね」
もちろんロープなどの類もバッチリ取り上げられた。
「応援に来たよ!」
「来ました!」
「きましたー」
三人が到着したところでは守衛側が防備を固めており、扉の内側に大量の土嚢が積まれている。
「応援か!有り難いな!」
「エルドさんだ!」
指揮をしていた襲撃者側の職員が現状を教えてくれる。
通常は建物の中と外に人員を配置するのだが、この屯所では守衛側が完全に籠城戦の構えを見せており、入り口や窓を完全に封鎖しているようだった。




