演習の日!
そんなこんなで演習の日。
「とうとう本番だね!」
「あぁ!楽しみだ!」
ルナとエルドは揃ってなにやら張り切っている。
エルドは演習までの日数でシェイプアップし、在りし日のムキムキを取り戻している。
「い、石みたい……」
「ハッハッハ!そうかな?」
クインクがエルドの二の腕と腹筋を突ついて言った。
「まぁ努力の結晶だからな!」
おそらく運営にとってこれほど嬉しくない努力の結晶もないだろう。
屯所はある程度頑丈にはなっているはずだが、今のエルドの仕上がりを見るに不安しかない。
「後は私の強化魔法次第か……」
その隣ではルナが物騒極まりない事を言っている。
何処か不安げなルナにクインクも別ベクトルで不安だった。
「クインクちゃん、どんな感じ?」
「……」
「ダメか……何棟潰れるのかな」
物陰から様子を尋ねるイングリッドにクインクは泣きそうな顔で首を横に振った。
イングリッドはそう呟くと晴れ渡る空を見つめた。
魔法学校の図書館では街で発行されている新聞のストックがあった。
エルドが参加したであろう演習の事は新聞にも載っており
『精鋭の剛腕!』
と面白おかしく書かれている一方で挿絵はムキムキのエルドらしき人物が瓦礫を背景に笑顔でポージングしているものだった。
エルドの凄さを知った上で考えると今回の意気込みに関して嫌な予感しかしないが、人ごみも燦燦と日が照る青天も苦手なイングリッドはお留守番なのである。
「そろそろ彼がやって来るな」
「いよいよですね……」
演習本番。総隊長は襲撃側と守衛側の面々が続々と集まっているのを見て既に嫌な予感しかしていない。
演習の準備を手伝っている設営の職員は今回の演習に際して道具類の準備に余念がなかった。
そこらへんをちゃんとしとかないと街路樹を引っこ抜くような奴が混ざっているからである。
「襲撃者側にはドアやバリケードを破壊するための道具が用意されています」
「うむ」
総隊長の立ち合いの元で行われる道具類の検品。
掛矢、盾、ロープなどなど。防御を突破するための装備が揃っている。
以前は道具なども手弁当だったが、今回は公費で用意された。
その代わりに襲撃者側は魔法を極力使用しないことが条件となっている。
理由は言わずもがな。
あのときの反省を活かしての事である。
「しかしそれだけでは少しばかり備えが足りん」
総隊長は襲撃者側の装備の中にある一回り大きな掛矢を見やる。
金属で補強されたそれは門でも壊すのかというようなゴテゴテした見た目だ。
「これに……こうだ」
魔法で掛矢の柄に切れ込みを入れた。
「その上で演習が始まったら装備の変更は禁止、言いたい事はわかるな?」
「りょ、了解です」
まずもってエルドから武器を奪わなくてはならない。
そしてその次に別の武器を使わせないようにしないといけない。
さらにエルド自身も含めて強化魔法を使わせないようにしないといけない。
この三つの縛りを与えれば……、総隊長はそう考えていた。
いたのだが……
「総隊長殿!お呼び立て頂き感謝しますぞ!」
金属で補強された胴当て、金属製のヘルムを被って歩いてきたエルドを見て総隊長はまた不安がぶり返してきた。
(相当……鍛えてきたな……)
彼が普段机に向かって仕事をしているなどと誰が信じよう。
今しがた戦地から帰ってきたばかりですと言っても信じてもらえそうなほど今のエルドは漲っている。
そんな彼の隣に可憐な少女が立っているのに気付いて総隊長はそちらに視線を移した。
「彼女は……エルド君の御息女かな?」
「ああ、そうです!こちらは娘のルナです」
エルドが言うとルナはへにゃっと温和な笑みを浮かべて頭を下げた。
総隊長は一瞬彼女の温和な表情と雰囲気、そして使い魔らしい小さなインプを連れていることに騙されかけたが、その実、エルドが全身を圧縮した筋肉に包まれているのと同様に彼女が凄まじい魔力を秘めている事に気付いた。
(よ、呼ばない方が良かったんじゃないか!?)
忘れがちではあるがエルドもれっきとした魔法使いである。
基本的に殴った方が早いので殴っているが彼も魔法が使えるのだ。
そしてその素質を彼女も受け継いでいるのだろうと総隊長は思ったが、それ故に危機感は強まった。
「可愛らしいお嬢さんだね、今日は応援に?」
「はい!お父さんをしっかり応援します!」
総隊長は声と見た目のギャップに騙されそうになりながらも警戒を強めることにした。
本人は気づいていないのかもしれないが演習には一般人も職員に随伴する形で参加が可能なのだ。
事前の届け出が必要だが彼女は知らぬ間にエルドと一緒の参加票に名前を書いてしまっている。
見学の枠と勘違いしているのだろうか?どうかそのままでいて欲しい。
「それはそれは、ではこちらのルール説明に目を通しておいてね」
「はぁい」
ルナは治安維持部隊の演習に際してのしおりを受け取ってそれを広げて読み始めた。
総隊長がしおりを渡したのは万一の際に突拍子もない事をしでかさないように、念のためである。




