ホップ、ステップ、ダンス!
レインはルナと向かい合うと見本の踊りを始めた。
「はい、はい、はいっ」
鈴が鳴り、レインの肢体が艶やかに揺れ動く。
銀の黄昏の本部とはいえシュトリクの私室でのこと。
本来ならば場違いな踊りであるが、流石に熟練した踊り子の成せる技。
まるで舞台の上のように淀みなく踊ってみせた。
「すごい!」
「ありがとう」
手を叩いて喜ぶルナにレインは笑顔で応える。
「これはどう言う踊りなんでしょうか?」
「戦士に捧げる踊りさ、応援を力に変えるものだね」
レインは先ほどの踊りをさらにゆっくりと短く区切ってルナに教えてくれる。
「こうやって、こう!」
「そうそう、大分と筋がいいよ」
「わぁい」
レインは踊りを教えつつ、シュトリクは踊るルナを見つめつつ。
(でっかいなこの子……)
と、揺れる双子山を見て思った。
顔も良く、愛想も良く、スタイルもいい子が笑顔で踊っているのだ。
絵にならない訳もない。
「この一節だけでお金とれそう」
「やめてくれ、まるでいかがわしいお店みたいになるだろ」
何を考えているのかシュトリクはすごいスピードで布を織っている。
色んな事が捗っているのかもしれない。
「たん、たたん、たん」
口でリズムをとり、それに合わせて足を動かす。地を踏むタイミングが合ってくると徐々に魔法としての効果が表れていく。
「むっ、これは……」
レインは彼女の踊りが既に効果を表し始めたのを見て視線を鋭くした。
「どうしたの?」
「これは……、色々と別の要素が強すぎるね」
「別の要素?」
「彼女は悪魔の力を持ってるだろ?それに聖職者としての力も」
そこまで聞いてシュトリクはあっ!と口に手を当てた。
「どっちも儀式に親和性がありすぎる、効果が何処まで出るかな」
「そういえばお母さん神官だったって聞いたよ」
「早く言ってよ!」
くるくると踊るルナ、そしてそのまま最後のターンを決めてポーズを決めると
「はいっ」
「「むっ!」」
ルナの笑顔と共に手を差し向けられた二人の頬が真っ赤になった。ルナの強化が適用されて体が温かいを通り越して熱くなったのだ。
スポーツ選手で言えばウォーミングアップを終えて今まさに臨戦態勢と言ったところ。
毎日の書類業務などの疲れが一瞬で吹き飛ぶほどの体の巡りの改善に二人は思わず顔を見合わせた。
「こ、これは凄いわね!」
「ほんとに!まさしく!ぜひ私の流派を受け継いでくれたまえよ!」
「えっ?ど、どうしたんですか二人とも?!」
そしてテンションも最高潮。まさしく今から戦いに臨む戦士を鼓舞する踊りである。
二人に挟まれたルナはみっちりと踊りの稽古をつけられてしまった。
銀の黄昏の本部から出られたのは日が傾くころだった。
練習の甲斐あって戦士の為の舞踊をマスターできた気がするが、ルナの体力をもってしても大分と疲れる一日だった。
「うぅぅ、疲れた……」
「ごしゅじーん!」
そんなルナを迎えに来たのはクインクだった。またどこかで何かを学んできたらしい知識欲旺盛な主人を心配してやってきたのだ。
「ずいぶんとおつかれです?」
「そうなの、踊りの練習をしてたから……」
踊りの練習と聞いてクインクはちょっとホッとした。またぞろ身体強化の魔法の練習だと思っていたのだ。
そしてそれは悲しい事に当たっていた。
「無理しちゃだめですよ、ごしゅじんが病気になったら皆が心配しますよ」
「そうだね、もうちょっとのんびり行こうっと」
クインクを抱き上げて家路につく。
のんびり行こう、その一言にクインクはすっかり騙されてしまった。
ルナの腕の中でへにゃっと脱力しながら街を歩いていく。
「むん!むん!むん!」
「ごしゅじんのおとうさんがムキムキに……!」
家に帰ってみるとエルドがトレーニングに勤しんでいた。元々が怪力かつ筋肉質な体つき。
脂肪が腹についていたがその実、筋量がほとんど減っていなかったという化け物である。
つまり全盛期の筋量を取り戻すにはそこまで苦労しなくていいということ。
「ふーん!」
自分が何人集まったら釣り合うのだろうと思うほどの重量物を持ち上げたり、地面から飛び出している岩に組み付いて押し引きしたりと全身を使ったトレーニングを欠かさない。
「ふむ!あとはランニングで体力をつければ完璧だ!」
あの腕に勘違いで挟まれたらトマトみたいにつぶれるんだろうな、とクインクはぼんやり考えていた。
ルナは先にお風呂と着替えに行ってしまった。
自分も後を追いかけないといけないがエルドの仕上がりがあまりに凶悪なので嫌な予感しかしていなかった。
「お城でも落とすんでしょうか……」
脱衣所で服を脱いで、洗濯物の籠へ。中に入るとルナが汗を流しているところだ。
「ごしゅじーん」
「クインクちゃん、ほらこっちこっち」
椅子に座るよう促されて頭に少しずつお湯をかけてもらう。
一人で頭が洗えないクインクはいつもルナに洗ってもらっている。
悪魔ゆえに夜目は効くが、目を閉じれば真っ暗になってしまう。
クインクは誰かが居ない状態での暗闇にまだ慣れていないのだ。
「ごしゅじん、おとうさんが鍛えてましたね」
「うん、はりきってるよ」
「あんなに鍛える必要あるんでしょうか……」
オーバースペックなのでは、とクインクは思ったが
「うーん、でもお父さんの同僚の人って似たような人ばっかりだったし」
「えっ、こわい」
クインクは頭の中でエルドが列をなして歩いているのを想像してゾッとした。




