踊って祈って!
「それじゃあ簡単なものからやってみよう」
「というと?」
「さっきの踊りなんだけど、あれは『陽だまりの舞踊』の一節でね」
踊ると冬場でも温かくなるんだよ。と地味に嬉しい効果の魔法であった。
「じゃあ力が強くなったり、身を守る踊りとかは……」
「一族の技、その秘中の秘だ、そうそう教える訳にはいかないね」
「ですよね……」
「ただ……」
レインは勿体ぶった様子でうろうろとルナの周りを歩き回り、そして後ろから肩に手を置くと耳元で囁いた。
「君が流派の担い手になってくれるなら話は別だね」
シュトリクはそんなレインの態度に呆れたようにため息をつくと、ルナから引き剥がして言った。
「もうっ!ルナちゃんにも流派を継いで欲しいって素直に言いなさいよ」
「そ、それはそうだけど」
「せっかく興味を持ってくれているのだからこちらも真摯に応えるのが礼儀よ」
レインがどうやら妙な意地を張っている事を見抜いたのか、シュトリクはレインを窘めた。
「ごめんなさいね、レインたら教えを請われるのが嬉しいからついつい……」
「いえ、大切な事なら軽々しく聞くのも悪いですし」
ルナが遠慮がちになったのをみてシュトリクはレインをキッと睨んだ。
ほらみろ、と言わんばかりである。
「彼女はああ言ったけど教えを受け継いでくれる人は貴重なの」
「それはそうかもしれませんが……レインさんのご家族の財産みたいなものでは?」
「だからって彼女の言う事を全て真に受けなくてもいいわよ」
秘技などの類はおいそれと真似されたくない。以前ガルドナの一族秘伝の防御魔法をいとも容易く真似したルナにアダムが言った言葉が浮かんでいた。
そのためルナは目に見えて及び腰になっていたのだ。
「舞踊も魔法や聖術の修練と関係あるだろうし、ルナちゃんもついででいいから考えてみてね」
「教えてくれるなら嬉しいですけど……」
いいんですか?という視線がレインに向けられている。
「では一族の流派に参加するとりきめを……ぐっ!」
「面倒くさいこと言わずに簡単な事から教えてあげなさいって!」
まだ変な意地を張っているレインの脇腹に肘を入れてシュトリクは怒り出した。
「わ、わかった、わかったから肘はやめ……」
「大丈夫ですか?」
「いいのよ、仕事が忙しかった時の反動で色々とおかしくなっているだけだから」
体が傾いているレインにシュトリクはむすっとした顔でいった。
ルナも魔法を教わりたいし、レインも自分の流派の魔法を覚えて広めてもらうことは大切な事なのだ。
本来なら「おしえて」「いいよ」で終わる会話がぐだぐだと続いているが、それで相手が及び腰になっては本末転倒である。
「銀の黄昏の存続に奔走してたときはこんなこと言わなかったけど、元から格好つけたがるところあるからね」
「そ、そうなんです?」
紆余曲折あったがレインが脇腹の痛みから復帰して色々と教える決心がついたのか背筋を伸ばして言った。
「そ、それじゃあ初心者向けで身体強化に向いた舞踊を練習しようか」
恰好をつけようとするたびにシュトリクが毛糸の編み針を向けてくるのでレインはぎこちない喋り方だ。
「初心者はとにかくステップと鈴、あとはケープとか帯を振って身振りを大きく注目させるのもいい」
「身なりもやっぱり大事なんですか?」
「儀式や魔法として使うならね」
レインは身体強化に使う舞踊について、自分の流派に必須に近いものを教えてくれる。
「まずはヴェール、頭に被せて顔を見えにくくする。これは神降ろしの儀式で大事になる、踊りに効力を持たせるのに必要なんだ」
「ヴェールを被って顔を隠す?」
「踊っているのが君ではなく、神様が踊っているという風にするのさ」
顔を隠すという行為によって目の前の人間に自分を得体の知れない存在と錯覚させる。
これによって尋常ならざる効果をもたらすのが神降ろしの儀式である。
「なるほど」
「これだけでグッと効果が高まるし、恥ずかしがり屋な人でも思い込みで踊りに集中できる」
顔を隠すということにルナはなるほど、と納得した。
父親を応援するためには人前で踊らないといけない事に今更気付いたからである。
であるならば確かに顔を隠せるのはプラスになるだろう。
「応援と踊りに集中するためのヴェールだね。次に音なんだけど鈴を服か、腕に持って音が鳴るように踊ること」
見た目と音、それが舞踊による魔法の胆になる。五感に対する刺激で相手に魔力を届けるのだ。
実際はルナの存在の格やら魔力量やらでごり押しできるのだが、そんなことは皆知らないのである。
「鈴はどんなのがいいでしょうか?」
「高く澄んだ音がなるならなんでも、音はきっかけだからね」
音で道を作り、踊りで意味を乗せ、魔力で相手に届けて効果を及ぼす。
舞踊魔法のメカニズムはこういったものだ。
「じゃあヴェールと鈴があればなんとかなりそうですか?」
「そうだね、一応は」
「よかった」
ルナは最低限とはいえそれだけあれば可能だと聞いて安堵した。
演習までどれだけ時間があるかルナは聞きそびれていたので準備するものが少ないのは良い事である。
特に衣装などにもこだわるとなるととてもではないが間に合わないだろう。




