聖なる加護をあなたに!
エトナーはそう言われてふむ、と考えた。
ルナがなんの必要もなくアレがやりたいコレがやりたいと言い出す性格では無いのは知っている。
「一応聞いとくがなんでそんな事知りたいんだ?」
「お父さんを応援する為です!」
エトナーはキョトンとした。
「なんでだ?」
「治安維持部隊の演習に出るんです、だからお父さんを応援するために身体強化を」
それを聞いてエトナーはさらにキョトンとした。
エトナーの記憶には自分と同じくらいの体格の悪魔で弱っていたとはいえ抵抗する狼男を片手で引きずって歩く膂力の持ち主だ。
体重の差があるとはいえ、綱引きでもしたらエトナーでも飛んでいってしまうだろう。
「強化いるか?」
「治安維持部隊はお父さんが働いてた所なんですよ?皆さんも強い人達です!」
「マジか、そんな超人サーカスみたいな連中の集まりなのかよ」
エトナーは魔法局の人達と知り合いではあったものの鉄火場での共闘は少なかった。
魔法と聖術は非常に相性が悪く、攻撃性のある魔法と聖術は反発する性質がある。普通なら静電気程度だがエトナークラスになると魔法使いがまるでピンポン玉やスーパーボールのように弾き飛ばされてしまうのだ。
それ故に魔法攻撃が必要な場所ではエトナーは聖術をほとんど使えない。魔法使いが魔法を展開する中でエトナーが聖術を使った瞬間、周囲の魔法使いはまるでロケット花火のように四方に飛んで行くのだ。
「まぁ、そうなると聖術で強化するのは必要か……」
「ですです」
エトナーの頭の中ではエルドの集団が武器を手に乱闘している様子が浮かんでいる。
そんな暴力の濁流のような場所なら確かに必要だ。
「しかし聖術の強化はほとんど護りだ、攻撃の強化は望めない」
「そうなんです?」
「神殿や聖堂で朝な夕なに祈ってる神殿騎士やモンクの類は祈りを力に変える奴もいる、だがそれを他人にとなると難しいんだ」
「でも護りや結界の聖術は他者に掛けられますよ?」
ルナの問いかけにエトナーは道端の石ころを拾い上げながら言った。
「護りは簡単さ、護りは祈りによって得た力を分ける行為だからな」
石ころを祈りだとするだろ?とエトナーは手の平の石ころをルナの手に乗せた。
「これで護りの加護は完成だ。結界も似たようなもんでな」
持っているものを他所に置く、と石ころを地面に投げ捨てる。
「これで完成、自分の持ってるもんを使うから簡単」
「???」
「ちょっとややこしかったか?」
まだイマイチピンと来ていないルナにエトナ―はうーん、と唸りながら言う。
「魔法の仕組みがわからんからなぁ、まあ、なんだ……聖術で強化するにはされる側にも聖職者の素養が必要ってことさ」
「そうなんですか……」
「ああ、聖術の身体強化の場合は内なる力に呼びかける必要がある。信仰を力に変えなさいと外から肉体に呼びかけるんだな」
その代わりと言っては何だが、掛ける側は疲れないぞ。とエトナ―は言う。
「そうなんですか?」
「相手の背中叩いて、頑張れ!って励ますようなもんだしな。頑張るのは相手であって私らじゃない」
聖術はとにかく使い手を選ぶ。素養と鍛錬がとにかく必要だ。
魔法のように一定の水準の威力ならば誰でも扱える上に、道具で代用すらできるのとは真逆である。
聖術は使えるなら消費は少ない上に効果が高いが一定水準の効力で使えるかは素質に左右されやすく、魔法は誰にも使えるが個人の魔力には限界があり、魔石などを使っても消費が重い。
残念ながらエルドは教会の人間ではなく、その道の修行は積んでいないので強化は難しいだろう。
「ただ、ルナちゃんの場合は悪魔の権能で魔力でそれを代用することが可能だろ?」
「!」
ルナは魔法と聖術のハイブリッド。信仰と魔道の境目を歩く存在である。
桁外れの魔力量で代用することで魔法の容易さで聖術の出力を扱うことができる。
悪魔の魔力をルナの魂というフィルターを通すことで祈りの力に変えるわけだ。
当然ながらそのような離れ業は人外の所業である。
人間がやれば魔力どころか生命まで使い果たしてしまうし、悪魔がやれば聖術の光でその身を焼かれてしまうだろう。
「試しに私に掛けてみな、やり方教えてやっから」
「はい!」
「ではまず聖術の中で、治癒に近いイメージだな」
手を翳してルナはエトナ―の体に力を送るイメージをしてみる。
治癒の場合はそれでなんとかなる。というかルナはそれでなんとかできてしまう。
長時間になれば鼻や目からの出血を伴うほどの集中力と魔力を代償に再生に近い治癒能力を得られるのだ。
「むーん……」
「おっ、きたきた……うん、そんな感じだ」
効果があったらしい、初回にも関わらず成功させられるのは魔力を湯水のように使って祈りの力の代用ができるからだ。
「今日はここら辺にしとこう、成果は上々だ」
どんなイメージでやってみた?とエトナーが尋ねるとルナはふぅっ、と息を吐いた。
練習は長時間に及んだのか中天の太陽は傾きかけていた。ずいぶんと集中していたようでエトナーはルナの体調も気遣ってのことのようだ。
「とにかく頑張れー、って感じです」
「わはは、そりゃいいや。ルナちゃんはその方向でやればいいさ」
エトナーはそう言うとルナに繰り返して練習するように言い、時間が遅くなったことを告げてすぐに帰るように言った。
「それじゃあ」
「ああ、ほどほどにしとけよ。でないと鼻血ぶーだぜ」
手を振りながら帰っていくルナを見送るとエトナ―は塒の教会に入ろうとし、手を伸ばした。
「ありゃっ!?」
開くつもりがドアをもいでしまった。ドアを立てかけて中に入ると長椅子に手をついた瞬間、長椅子をぶち抜いてしまった。そのままの勢いで床に倒れ、舞い上がる埃の中でエトナ―は腕を組んだ。
「こりゃやべえ。聖術を魔法の出力でやらすとこうなんのか……」
エトナーは諦めて床に寝っ転がると、いつ効果が切れるのかぼんやりと考えていた。




