演習でなにが?
待ち構える守衛側とその防備を突破して目的を果たす襲撃者側の攻防はいつも派手であり、時には一般公開もされていた。
新人たちも先輩たちに合法的に反抗し、自己の優位性を示すチャンスと二つ返事で快諾し、先輩たちも新人たちに教育すべく腕まくりをして準備を重ねていた。
「それではエルド君、君に先鋒を頼みたい」
「自分がですか!頑張ります!」
当時、今よりも全身くまなく筋肉に覆われていたエルドは総隊長の指名を受けて力強く頷いた。
体術の有用性を示すにはエルドがうってつけだと思ったのだろう。
「それでは演習を開始する!治安維持部隊の屯所の三カ所を襲撃するので守衛側は防備を固めること!」
総隊長の言葉に新人たちは自信の漲る瞳で頷くと配置についた。
「さあ!最初の攻撃だ、手近なところから落とすぞ!」
襲撃者側の面々はエルドを筆頭に体術と強化魔法のエキスパートが占めていた。
彼らはまず、エルドに防御の強化魔法をかけて突撃させ、陽動しつつ可能ならば追随して突入する作戦を立てた。
治安維持部隊の屯所は玄関が大通りに面していて誰かがやってくるとすぐにわかる。
四角い建物であるがバルコニーなどがあって、周囲を見渡せる作りになっているので奇襲には向かない。
新人たちは攻め手に対して魔法による防御を行うつもりのようで、バルコニーで周囲を見張るものがちらほら。
万全を期すためか建物の前にも人員を配置していた。
「奇襲なんてセコい手は使わない、真っ向勝負でねじ伏せる!」
ガシッ、と両の拳をぶつけ、まるで怒れる牡牛のように鼻息を荒くするエルドに周囲は面白がって強化魔法をかけまくった。
「よっしゃ!行けっ!」
「うおおおおお!」
背中を叩いて送り出すとエルドは猛然と走り出した。当然ながら隠れる気なんか一切ない。
「来たッ!真っ向から!?」
「火よ!ヤツを穿て!」
火球がエルドを直撃したもののその程度で止まるようなタマではない。
「ぬるいっ!そんなものでは止まらないぞ!」
「そんな……ぎぇっ!?」
「うそだろ……うぐぉっ!?」
その上に防御の魔法を掛けられているのだ。痛みが無い以上、火球のストッピングパワーではエルドはとまらない。
両腕を伸ばしたエルドの豪快なダブルラリアットを食らって玄関前の人員は沈黙した。
「うおおおおおおおお!」
そして両腕を広げたまま扉を粉砕して突入したエルド。
そしてその場で独楽のように回りながらすれ違う人を全てなぎ倒していく。
「ギャー!」
「魔法がきか……ブエェエエ!?」
「壁を抜いてくる! ひぎぃぃぃい!?」
建物から響いてくる悲鳴と一人で何とかなってしまったのを見て先輩陣営はいつ終わるかと思っていたが。
「崩れるぞー!!」
エルドの暴力に耐えかね、柱を失った屯所が倒壊した。エルドが床をぶち抜いて全員を地下室に叩き落したために新人たちは難を逃れたが守るべき屯所の被害が甚大であることは明白であった。
「い、一カ所陥落!襲撃者側のポイントだ!」
この時点で総隊長含めた事務方はドン引きしていたがエルドは瓦礫から這い出てくるとそのまま二か所目の屯所へと向かっていった。
当然ながらそんな彼を止められる者はいない。
「おーい、応援に来たよ!」
「あれっ、そっちはどうしたの?」
「潰してきたよ!」
「早ッ!」
エルドがやってきたのを見て二か所目の担当は驚いたがエルドがいれば楽になるのは目に見えているので気にしないことにした。
「素手は不味い、暴れすぎるから武器なんか持たせろ」
「そうなの?」
「屯所が崩壊した」
「マジかよ」
武器を持たせれば自然と対人戦には慎重になるだろうと踏んであえて武器を持たせる作戦だ。
もはや新人たちは眼中にない。
「よし!じゃあ行ってくる!」
エルドはそう言うと棍棒をひっつかんで走り出した。
守衛側は遠距離から魔法を放ってくる。
火や石やら様々である。エルドはそれらを叩き落しながらじりじりと距離を詰めていく。
避けないのは後ろに味方がいるからである。盾とヘイトを稼ぐ役割だ。
仲間はエルドが理性的に動いているのを見てホッと一息。
したのも束の間。
「むっ!」
棍棒が魔法によって破壊され、エルドは無手になってしまった。そうすると……
「おい、あいつなんで街路樹なんかに」
「あっ!ヤバい!やめさせろ!」
傍に生えていた街路樹に組み付くとそのまま当然のように引っこ抜いてしまった。
全員が仰天するなか、葉の生えた部分を屯所に向けるとまるで衝車か何かのように屯所へと突撃していく。
「なんかきたー!」
「うそだろ!」
火球が飛ぶが生木は燃えにくい。石を当てても撓む枝や葉に防がれて効果が無い。
そして止めようにも質量があるので止まらない。
「うわーーーーーーー!!!!」
悲鳴と共に葉の中に埋もれていく新人たち。エルドはそのまま屯所に突入すると今度は街路樹を中で振り回し始めた。
「助けてくれー!」
「ひーーーっ!」
「むちゃくちゃすぎるー!」
新人が悲鳴を上げて屯所から逃げてくる。そして少しすると街路樹が壁を突き破ってにょっきりと生えた。
「勝った!」
「……もう負けでいいよ」
泣きながら出てきた新人たちは短くそうつぶやいた。




