良薬は口に苦……くさっ!
すごい顔をしていたキーンもアダムの思惑を何となく悟ったのか鬼瓦のような顔に笑顔を浮かべながら生徒達の元に二人と向かう。
(しっかり頼みますぞ!)
(任せてください!)
二人が悪そうな顔をしているのを見てコロンはため息をついた。
「お前たち!」
キーンが中に入って声を掛けるとCクラスの生徒はその声の大きさに顔をしかめる。
頭痛がするときに大きな音はつらいだろう。
「頭痛が酷い生徒の為にコロン先生とボーボ先生が薬を調合してくださった!特別に早退を認めるので早退する者は薬を飲んでいくように!」
キーンの言葉に生徒達は顔を見合わせるとこっそりと頷きあい、わざとらしく体調不良っぽく振る舞いだした。
実際に頭痛はしているはずだが午前中で早退できるというイベントと本来お金を出さないといけない薬を支給してくれるという甘言に生徒達は何も考えず飛びついたようだ。
「それでは一人ずつ薬を処方してもらうんだぞ!」
キーンの点呼で廊下に並んだ生徒達は一人ずつ別室に呼ばれることになった。
(とりあえず今日はなんとかなりそうだね)
(寮に戻ったら相談しようか)
ひそひそとバレたカンニングの事を話し合っている生徒達。
キーンはそれに聞き耳を立てつつも素知らぬ顔で生徒達を引率する。
彼らは想像を絶するお仕置きが待っている事を知らないのである。
「それでは一人ずつ入れ!」
キーンが指示すると生徒が一人、コロンとアダムが待ち受ける部屋へと入っていく。
「失礼しま……」
そう言いかけて生徒は部屋に漂う異臭に顔をしかめる。
なんだか言いようのない臭いが漂っている。これはかるく蓋をした程度では消せない霊薬の悪臭である。
「はーい、どうぞぉ」
コロンの声が聞こえて生徒は異臭に鼻を覆いたい気持ちを堪えて席についた。
簡易な保健室のようにセッティングされた部屋ではコロンがスポイトと蓋つきの容器が置かれた小型の机の横で椅子に腰かけている。
「あの、お薬がいただけるって聞いたんですけど」
「ああ、そうですよ。ただちょっと容量を測らないといけないんでここで飲んでいってもらわないといけないんですよ」
生徒は少し不思議に思ったが頭痛は辛いし、薬がなんであれさっさと飲んで寮に戻りたかったので深く考えないことに。
「それじゃ口をあけて、上を向いといてください」
生徒はそう言われて上を向いて口を開けた。
コロンはその間にスポイトで霊薬を測り取ると生徒の口の中へスポイトを持ってきた。
その瞬間である。
「あの、なんかすごく臭いんですが」
「ああ、これね、かなりくさいけど気にしないで」
そこは気にするところなのでは?と生徒は思ったがさらに追い打ちが。
「舌に残るとひどい事になるからすぐに飲み込んでくださいねぇ」
「えっ」
「ほいっと」
いつの間にか生徒の後ろに立っていたアダムが上を向かせるとコロンがすかさず薬を口内に投下した。
「はーい、ごっくんして」
「……」
コロンは子供相手にも医者として活動したことがある。
いやがる子供に薬を飲ませるために狭い隙間に薬を投げ込むスキルを持っているのだ。
「お゛え゛ぇぇぇ!!!!!」
「ありゃ、舌についちゃったかな」
飲み込んだ瞬間に生徒の顔が赤から青に目まぐるしく変化していく。
それもそのはず。例え舌につかなくても胃から登ってくる悪臭だけで悶絶するだけの臭気である。
「うげー!うがー!」
頭痛が嘘のように引いた一方でクリアな意識でその臭気をぶつけられるのだからたまらない。
生徒は文字通り悶絶しながらもう一つの出口から送り出されていく。
「ハイ、次―!」
マスクをしたアダムが笑顔で応対する中、Cクラスの生徒達は別の意味で顔を青くしながら一人ずつ部屋に入って行った。
中には小賢しく仮病でしたと嘘をついて逃げ出そうとしたものも居たがキーンから逃げられるはずもなく。
「う゛ぇ゛ええええ!」
「お゛ぉ゛ぇ゛ええええ!」
「え゛ぇぇっ!」
「ぐ、ぐざい゛ぃぃぃ!」
漏れなく全員が薬を飲んで悶絶することになった。
「いいか貴様ら!今回はこれくらいで勘弁してやる!」
キーンはこめかみに青筋を浮かべながらえずいてる生徒達に怒鳴っていた。
「しかし今後もこのような事があったら!覚悟するんだな!」
Cクラスの生徒がげんなりしている中、キーンはまだ中身が残っている容器を突き出して生徒たちに掲げる。
「予備はまだまだたくさんある!これをまた飲ますぞ!」
「「「「ひーっ!」」」」
生徒達はその容器から漏れ出す臭気に反応して悲鳴を上げた。
「あんなの飲むくらいなら補習を受けた方がマシだーっ!」
「勘弁してーっ!」
「臭いのもうやだよー!」
生徒達が悲鳴を上げた。
これ以降、Cクラスはカンニングをしなくなった。
そしてこの霊薬の副次的な効果としてボーボがこの薬品の作り方を知っているとアダムが一言添えたおかげでボーボが侮られることも少なくなり、授業を真面目に聞く生徒が多くなった。
生徒達も転んでもただは起きず、薬草などを美味しく飲む研究を一部の生徒が始めたのだ。
そして後年になって、当時の生徒が糖衣錠やオブラートを開発することになるのだが、それはまた別のお話。
カンニング騒動から少ししてコロンとアダムは実習室で立ち尽くしていた。
「で、これどうするんです?」
「わからん」
ただ、鍋に残った霊薬の処理については誰もわからないままだった。




