アダムは見た! その2
慌てて実習室へ向かうアダム。
そしてその後ろを面白がってついて行くサピスキア。
「エルフの霊薬はいつもこんな感じか?」
「いつもとは?」
「なんだか目に染みてきたぞ」
廊下を進むほどに臭いがキツくなっていく。
アダムは目を擦りながら進み、サピスキアは時折咳き込みながら進む。
「こんな劇物の調合をボーボ先生が許すとは思えんが……」
「ふだんは、げほん、こんなに、くさく、ごほん、ない」
「大丈夫か?」
どんどんと喉にも来たので二人の口数は減っていく。
そうしつつどうにか実習室へたどり着いた二人はこっそりと中の様子を伺う。
「……」
実習室の中でカティナがナベをかき混ぜている後ろでFクラスの面々に混じってボーボとクインク、そしてなぜかトリニティまでいる。
「増えてる……」
「なぜ?」
「ワシに聞くな」
祈る者、というか踊っている人が多いほど効果は高まるが同時に悪臭も広範囲に及ぶとはサピスキアの言である。
妖精であるマリーと悪魔の最高位にいるルナ、そして悪魔のクインクとトリニティ。
祈るものの質も本来ありえない高さになっている訳だ。
「とにかく早く祈祷をやめさせないと大変だぞ」
そう言うとドアに手を掛けたアダムにサピスキアは待ったを掛けた。
「まて、アダム」
「どうした?」
「中は、臭く、ないのか?」
そう言われるとアダムはちょっと怖くなった。
強烈な臭いが籠っているであろう実習室に飛び込むのはかなり勇気がいる。
「ふと思ったんだが」
「?」
「アイツらなんで平気なんだ?」
サピスキアとアダムはこっそりとドアにある小窓を覗き込んだ。
そこには一心不乱に同じ動作で踊る一行とぶつぶつ呟きながら鍋をかき混ぜるカティナの姿が。
「サバトじゃないのかこれ……」
「いや、これは、うん……」
サピスキアは否定しようとしたが悪魔と妖精が混ざる中での異様な光景に言葉が無かった。
悪魔まで混じっている以上、もうどうみてもサバトなのである。
「仕方ない、覚悟を決めるぞ!」
アダムは埒が明かないと思い、思い切ってドアを開けた。
すると猛烈な臭気がまるで壁のようにアダムの体にぶつかってくる。
サピスキアが一瞬白目を向いた。
「「オ゛エッ!!!」」
アダムはえずきながら部屋に突入するとカティナの肩を叩いた。
「アインザッツ!なんの騒ぎだこれは!」
「えっ!先生?!」
サピスキアがふらつきながら踊っている一行の所に行くと全員が正気に戻ったのか慌ててサピスキアの元に駆け寄っているのが見える。
「サピやん!いったいどうして……どうっ……」
「ティナちゃん?……うっ!」
全員が正気に戻った瞬間に感じたのは猛烈な臭気である。
全員が魔法的な動作を行っていたので感覚がマヒしていたのかもしれない。
「「「「「ヴォ゛エ゛ッ!!」」」」」
全員が同時にえずくと一斉に窓に向かって走った。
「やばいやばい!換気!」
「ま、まってくれ!もう廊下まで臭いんだ!」
「でもこのままじゃ……うぶっ!」
「ひぃぃ!」
阿鼻叫喚の最中、鍋をかき混ぜていたカティナは風の魔法を展開すると臭気を一カ所に集め始める。
「堆肥と生ごみ足したような臭さだよ!」
「臭いということしかわからない!」
「くっさ!くさいくさい!」
「命に関わるってー!」
「ぐわああああ!」
皆がのたうち回っている中、カティナが魔法で、ボーボが緊急用に備え付けられた排煙装置で換気を行ったので実習室は落ち着きを取り戻していく。
「な、なんとかなりましたね」
「先生がいながらなんでこんなことに……」
「め、面目ない」
アダムがボーボを見て呆れたように言うと彼は申し訳なさそうにしつつ豪快に鼻をかんだ。
他の面々も催涙ガスでも浴びたかのようになっていたのでクロエの魔法で汲んだ水で顔を洗っている。
幸い排水設備があるので水を捨てる場所には困らない。
「うぐぐ、鼻が痛い……」
「ごしゅじーん……」
「はいはい、ほらちーんして」
「ふむー……!」
クインクとトリニティは助っ人として参加したもののとんでもない目にあってしまった。
しかしその甲斐あってか霊薬は完成したようである。
「とりあえず完成はしたのか?」
「ええ、しましたけど……」
「悪いがこういったことは次から事前に届け出してくれよ」
「……わかりました?」
なんで?と言わんばかりのカティナ。どうやら彼女にはこの凄まじい臭気が気にならないらしい。
一種の才能というか特異体質である。
「しかしこんな山盛りの霊薬は何に使うんだ?」
「効能を調べるにしてもこれほどの量は想定外でしたね」
皆が立ち直り、改めて鍋を見てみると煮詰める前とはいえなみなみと霊薬ができている。
粉末にできるまで煮詰めたとしても、飲みやすいシロップ剤にするにしてもかなりの量である。
「捨てるのはもったいないし、煮詰めて粉薬にしますかね」
「高級品!」
「勝手に売るなよ?」
ティナが目を輝かせるのを見てアダムは即座に釘を刺した。
そう言われてティナは露骨に嫌そうな顔をし、ルナに抱き着いた。
「あんな思いしたのにあんまりだぁ~」
「よしよし、泣かないの」
「フラウステッド、甘やかすんじゃない」
どうせ気にしてないんだから。とアダムが言うがティナはルナにひっついたままである。




