皆で霊薬を作ってみよう
霊薬の話をいくつかしているとボーボは手を叩いた。
「よし、それでは皆さんで霊薬をつくってみましょう!」
「えっ、いいんですか?!」
「かまいません!本物を作れる人も居ますし、色々と試したい事もあります」
それでは移動しましょう、と皆は連れ立って旧館の実習室へ。
「薬草学と錬金術など薬品を混ぜる必要のある学科は必ず実習室を使いますので整理整頓しましょうね」
そう言いながら入った実習室はまだ掃除が行き届いておらず、埃まみれである。
「午前中の座学を切り上げたのは良かったかもしれませんね。まずは掃除しましょう」
そう言いながら幾つかの班に分れて窓を開け、雑巾とバケツ、ホウキとチリトリ、ハタキなどを集めた。
「手際が良くて何よりです」
「慣れてますからね」
重たい機材などもテイロスとルナがいれば動かせるので掃除はくまなく行う事ができる。
「それでは霊薬の基本的な材料を伺いましょう」
一通り掃除を終えて皆が準備を終えた頃、ボーボはまずカティナに霊薬の材料を尋ねる。
「はい、持ち合わせがちょっと少なくなってきましたけど……」
そう言いつつカティナは一旦寮に戻って取ってきたいつも薬草を入れて持ち歩く袋から一つずつ薬草を並べていく。
「これと、これと……これを最初に入れますね」
「ハクドクとナナソネとヤクシャクを乾燥させた物ですね。これは打ち身と内出血、腰痛に効きますよ」
「これが悪臭の元じゃないの……?」
鍋に入れてすりこぎ棒で叩きながら火を通し始める。元々乾燥していたこれらの薬草は熱とすりこぎ棒の力で少しずつ粉末になっていく。
「そしてこれと、これ、これを薬研で粉にして……」
「コンカツとキンカとモギヨですか。これで頭痛、貧血、発熱に効果が出ますね!」
「薬効のオンパレードだね、これで飲める代物なら……」
ティナがそう言って顔をしかめる。蘇るのはあのすさまじい匂いだ。
「これに霊木の樹液を少々……」
「これは見たことがありませんね。なんでしょうか?」
「カティナちゃんの故郷に生えてる不思議な木の枝だってさ、詳しくは知らないけどエルフが魔力を流すと樹液が出てくるんだって」
ティナは便利な枝だとしか思っていないらしいがボーボはその枝から滴る樹液になにか秘密があるのではと考える。
「すみません、アインザッツさん。その樹液、ちょっと頂いても?」
「構いませんよ、ただあまり大っぴらにしないでくださいね」
「もちろん!」
ボーボは密閉できる容器にその樹液を少量受け取るとそれを保管箱に仕舞い、劣化しないように保存する。
さらにその樹液を鍋に入れる際にも待ったをかけた。
「さて、皆さん。この時点でも効能ははっきりとしています、しかしエルフの霊薬の特徴であるこの樹液がどのように効果を変えるのか気になりませんか?」
ボーボの一言に皆が一瞬考えて、確かに!と頷いた。
煮詰めた物とはいえアンチドーテで効能を弱めないといけないほど強烈な効果だった。
「というわけで、まず樹液ナシの物をこちらに取り分けておきます」
お玉で木製の容器に移していく。
「さて、それでは作業を再開してください。その樹液を入れたあとは何を?」
「祈祷を行います」
「サバトじゃなくて?」
カティナがかき混ぜていたすりこぎ棒についていた霊薬をそっとティナの鼻の頭に乗せる。
するとティナの表情がみるみる内に青ざめていき……
「は、はにゃがー!!!!」
鼻を押さえてのたうち回りはじめた。
既に臭い始めていた霊薬は現時点でも強烈なもの。樹液を入れて混ぜ始めるとさらにきつくなっていく。
「では、クロエちゃんに前教えたので皆さんでやってみてください」
カティナが一定のリズムで鍋をかき混ぜながらなにやらぶつぶつと呟いている。
「これは?」
「……おまじないの言葉らしいです」
「ネイティブなエルフの言葉だったっけ?」
「じゃあ人には聞き取れませんね」
エルフの言葉、それは人間の言葉と一段階階層が異なる言語だそうだ。
精霊の言葉に近いそれは人間には聞き取れず、精霊使いや悪魔、妖精などと対話するための言葉に近い。
それ故に人々はそれを音としか認識できず、遥か昔の人々はエルフは喋る代わりに歌うとしていた。
「ミストさん、それではお願いしますよ!」
「……はい」
クロエはどこからか葉のついた短い枝をもっており、それを両手にもってふらふらと踊り始めた。
Fクラスとボーボはそれを真似て動き始める。
「マリーちゃんは聞こえる?」
「うん、ルナちゃんは?」
「聞こえるかな、不思議な言葉だね」
ルナとマリーはその出自と体質からカティナが呟く言葉を聞き取れていた。
『木、水、火によって交わる。大樹、草木のその身、肉に宿る力によって癒しの力を得る。癒しの力によって健やかなる時を得て、ながらえる人々はこれを言祝ぐ。大地よ、風よ、我が身を助けたまえ』
一定のリズム、そして踊り、最後に言の葉を添えることで霊薬は高い効果を得るのだろう。
全員が踊る中、鍋とカティナの周囲に精霊が踊るように寄り添うのをルナとマリーは見ていた。




