技術と知識は!
ボーボはエリートのあまりに呆気ない最期に愕然とした事を今でも良く覚えている。
彼らはただ、ほんの少しの知識が無かっただけだった。
止血の仕方、傷口の消毒、魔力を回復する野草の種類。
「後で遺骸を探した時、彼らの有様を見て私はこの学問を広く伝えるべきだと思いました」
一人は失血死、意味のない場所に布を巻いてそのまま。
もう一人は傷口から毒が回った。水を使い果たしていたので傷口を洗うことも出来ず、耐えかねて不衛生な水で洗った結果感染症から高熱を出し、衰弱したところを結果獣に襲われて命を落とした。
「中には刺さった矢や槍の穂先を引き抜いた為に命を落とした人もいました」
彼らの中には極限状態の為に魔力量を誤認したのか刺さった矢や槍を無理に引き抜き、失血と魔力欠乏症を起こしてショック死したものも居たという。
「呆気ないものでした、他には間違えて毒草を傷口に当てたケースもありましてね」
ボーボはそう言うとモギヨのイラストが描かれた紙を取り出すともう一枚、別の紙を取り出して並べた。
「それでは皆さん、これに注目してください」
皆が集まって見てみると、そこにはモギヨの葉っぱとそれによく似た葉っぱが。
「これはモギヨの葉と……」
「毒草のイシャダマシです」
イシャダマシとは文字通り医師すら騙す事のある毒草である。
傷口などに間違えて当てると意識障害を起こす他、血液の凝固を妨げる非常に恐ろしい効果がある。
モギヨと似た葉にも関わらず効能は真逆なのだ。
「なんでこんなそっくりに……」
「モギヨもイシャダマシも虫除けになるので、どちらかが虫などから身を守る為に姿を真似たのでしょう」
ボーボはそう言うと見分けかたを示した。
「イシャダマシの見た目は実はここを見るとわかります」
葉っぱの形が似通った二つの植物であるが中に含まれる物質の違いが出るのか葉柄の部分が赤くなっている。
「ここをよく見てください、軸の部分が赤くなっていますね?」
「ほんとだ、これって常にこうなんですか?熟した……っていうか、育ちきったらこうなるとか?」
ルナの言葉にボーボの目が輝いた。
「良いところに気が付きましたね!そうです!育ち始めの小さな葉は色が付いていないんです!ですが内容物は同じ!症状もです!なのでイシャダマシなんですね!」
ボーボは教えたがりの先生のようだ。そうなると好奇心旺盛なルナ達との相性はとてもいい。
イシャダマシの葉は成熟すると葉柄が赤くなり、気温が低くなると紅葉のように葉が全て赤くなったりする。
非常に注意が必要な代物であるが一部では睡眠薬などに使われることもある。
「若い葉を止血に使って命を落とした人がいるほど効果は高いですから、皆さんは気をつけてくださいね!かならず成熟した葉柄の緑色の葉を採取することを徹底すれば問題はありません!」
「温かくても成熟すればイシャダマシは赤くなるんですか?」
「そうです!繰り返しになりますがかならず成熟した葉を選んでくださいね!」
成熟した葉は厚みが出て、葉柄も太くなるとのこと。
「臭いではわからないんです?」
「モギヨは良いんですが、イシャダマシは吸い込むとそれだけで気分が悪くなることがありますよ」
「うへー!」
吸い込むと気分が悪くなると聞いてカティナはある事を思い出した。
「モギヨってカティナちゃんの作る霊薬にも入ってたりする?」
「うん、入ってるよ」
「ほほう!霊薬!」
エルフの霊薬にもモギヨの葉は使われているようだ。ボーボはそれを聞いて目を輝かせる。
「腰痛、内出血、打ち身、頭痛、発熱、大抵のものに効く万能薬!ただし毒には効かない」
「毒は効かないんだ?」
「どれも巡りを良くすることで改善する症状ばかりです、毒だとむしろ逆効果かもしれません」
毒に効かない事に対してボーボが補足を入れると皆が納得したように唸った。
ルナはそんな中で毒の対処方法について確認する。
「毒の場合は下剤とか、吐かせたりしますよね?」
「毒は外に出すのが一番ですからね。お腹を壊した時など無理に止めない方が良い事もあります」
エルフの霊薬は内側に作用して調子を整えることに重きを置いているようだ。
その点、外から入ってめぐらせてはいけない毒に効かないのは納得である。
体内の不調を整える霊薬に対して、外から入った異物である毒では対処の方向が違うからだ。
「ただ、霊薬は作れる人が限られるし……」
「調合に精密な手順が必要なんですか?」
エルフの霊薬に興味津々のボーボと作るところまでは見ていなかったルナがその場に居合わせていたティナとクロエに尋ねる。
二人はカティナが作ったエルフの霊薬を思い出す。
ワイルビーで弁当屋の主人に処方した際、逆にアンチドーテの魔法が必要なほど効果があり過ぎた濃縮版の霊薬。
「臭いがすごいんだよ、イシシのおじさんと二人して劇物だとおもったもん」
「ただでさえ凄い匂いなのに煮詰めたから……」
イシシとティナはあまりの強烈な悪臭とどろりとした見た目に残りを鍋ごと土に埋めたほどだ。
しかしそれが市場に滅多に出回らない高級品と聞いてティナはぐんにゃりしたことがある。




