再テスト!
問題を確認し始めた生徒達は前回と微妙に違う内容の問題文に仰天した。
(前の問題と違う!)
(再テストじゃないのかよ!)
多少の勉強はしているものの、彼らとて高得点を取れるほど勤勉でも記憶力が良いわけでもない。
それに加えて範囲が同じというだけで違う問題が出てきたのでその曖昧な記憶力がさらに酷使されることになった。
「ううん」
「うーん」
「むむむ……」
生徒達が問題に苦戦する中、アダムは全体をジロジロと観察している。
生徒達の中にはこっそりとカンペを持ち込んでいる者もいたが範囲が違う事で役に立たず、それ以前にアダムが監視しているので身動きができなかった。
コソコソ
アダムの肌に微かな風の流れが触れる。頭を搔くふりをして耳に手を当てると彼らがエルフ語を使って作戦会議を開いているのが聞こえてきた。
『今回の問題、なんだかおかしくない?』
『問題が前のと違う、カンペが役に立たない』
『最初の問題から確認してみよう』
聞こえる聞こえる。アダムはすぐさま全員の頭に拳骨を落としたい気分になった。
だが穴から覗くサピスキアの瞳が怪しく輝いているのが見えたので思いとどまる。
(さて、お手並み拝見だ)
囁き声が聞こえる中、準備室で耳を澄ませていたサピスキアは生徒達の声に目を瞬かせる。
「彼らは、なぜ、苛立っている、のだろう?」
焦り、苛立ち。そう言った感情がサピスキアに伝わってくる。
エルフ語はそう言った感情に相応しくない言葉。
風は苛立たない、焦らない、ただあるがままに吹き込むだけだ。
それを私欲で冒涜する彼らにサピスキアは眉をひそめる。
「これは、おしおき、だね」
アダムが言っていた言葉と、今の状態を鑑みてサピスキアはそう結論付ける。
当然ながらエルフたちにとってエルフ語は母国語のようなもので誰もが慣れ親しむものなのだ。
エルフの中にはエルフたちに伝える為にエルフ語の流派を持っている者まで居る。
純血のエルフやハイエルフと言われる特殊なエルフでなければ聞き分けることすら難しいものだが流暢な言葉を操る事が一種のステータスになるのはどの種族でも一緒なのだ。
サピスキアは声を整えると大きく息を吸い込んだ。
『咎人よ、罪を語れ』
リィーン……、とまるで鉱物が共鳴したかのような涼やかな音が響いた。
アダムはその清らかな音と正反対の、まるで両肩に誰かが圧し掛かったような重圧に思わず生徒達を見やる。
生徒達は一斉に顔を上げると驚いた様子で周囲を伺っている。
(何かやったようだな……、しかし何が……?)
アダムには内容が聞き取れなかった。何を言ったのかと思案する刹那。
「わ、私!カンニングしてます!」
生徒の一人が声を上げた。
「……なに?」
アダムが思わず問い返すと声を上げた生徒が口を押えて目を見開いている。
「今、なんと言った?」
「か、カンニング!しま、した!」
必死に口を閉じようとしたり、手で口を塞ごうとするもののまるでそれを意に介さないように言葉が漏れ出てくる。
「わ、私も!」
「俺も!」
「自分もしてます!」
そして口口に生徒達がカンニングを自白し始めた。アダムはそれを見て驚く様子を見せつつも全員の出席番号を頭の中で記憶していく。
「そ、そんなにか!お前たち、一体どうやって……!」
アダムが問いかけるとそれを聞いたサピスキアがさらに続ける。
『贖え、手口を吐き出せ』
「ま、まー、ま、魔道具です!他の人の答案みてます!」
「つ、つつ、使い魔で、教科書見てます!」
「え、エルフ語をつか、つかっ、使ってます!聞こえないと、思ってました!」
手口まで自供し始めたのでアダムが生徒が隠しているであろう場所を改めると魔道具やカンペが出るわ出るわ。
ここからはもはや自分だけでは対処しきれないとアダムはさらに増援を要請した。
ドアを開けて待機していた人物に声を掛ける。
「キーン先生!カンニング発生でーす!」
「カンニングだぁぁぁ!?んんんん-!!!ゆるさーーーん!」
生徒指導のノー・キーン先生の召喚である。元魔法局治安維持部隊出身、ごりごりの体育会系の先生である。
どうして魔法使いなのかちょっと謎だが身体強化系の魔法を教えているからかもしれない。
「エルフ語を悪用するとは許せん!使ったものは全員返事しろ!」
「「「はい!」」」
「めっちゃいるな!全員反省室に移動しろ!」
そう言うと自白した上に物的証拠まで握られた全員がキーン先生に連行されていった。
特にエルフの生徒はこの不可思議な力に心当たりがあったのか顔色が真っ青になっていた。
他の生徒達もカンニングがバレたことで怒られることは確定したので全員げんなりした様子である。
「まさかクラス全員だったとは……」
皆を見送り、ガランとした実習室を見渡すとアダムは失言に気付いた。
一人残っていたのだ。
「お、俺……なんも聞いてないっす」
「そ、そうか……」
無実にも関わらず一人残った男子生徒はそう悲し気に呟くと落涙した。
こういう時、どのように声を掛けても傷つくだけなのでアダムは再テストに集中するように告げるにとどまった。
「ぐっ、うぅっ、ぐずっ、うぐぐぅぅぅぅ」
泣きながら答案用紙に向かう男子生徒にアダムは一人、世の中の無情さをかみしめていた。
(正義とは、常に犠牲がつきものなのだ……)




