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調虎離山の計!

アダムは一足先に実習室に入ると机を整えるふりをして各所に仕込んだカンニング対策を確認する。


一つは魔道具に反応する鈴。魔道具が起動して魔石が励起状態になると、それを感知して振動する石が鳴子として仕込まれている。

割とはっきりとした音が鳴る。


二つめは窓のカーテン。魔力や音波を吸収しやすい性質で他所から声を送り込む囁きの魔法や遠見の魔法を遮る。

アダムはそれらがちゃんと機能する事を確認しつつ、隣の準備室へ入る。

アダムが用意した対策、その最後の一つが


「もっもっもっ」

「何食ってんだよ」

「あふぁほ……ぶほっ」

「きったねぇ!」


サピスキアだったのだが……。

何故か御飯を食べていた。口に物を含んだまま喋ったので食べ物が飛び散った。


「ルナちゃんが、用意、してくれた」

「もうじきテストなんだがそんなに食って大丈夫なのか?」


ルナがサピスキアの為にお弁当を持たせてくれたようだ。

しかしルナが用意するととにかく大量になる。

サピスキアはそこらへんをあまり考えていないのか用意された弁当を結構食べている。


「大丈夫、たぶん」

「お前なぁ……」


呑気なヤツめ、と内心で悪態をつきつつアダムはサピスキアに作戦を確認する。


「エルフ語を濫用する者に対するペナルティを起こすのにどれくらいの準備がいるんだ?」

「やるのは、すぐにでも、だけど、皆が使わないと、使ってない人に、効果ない」

「そうなるとテストの後半くらいになるか……?使ってる状況はそっちで把握できるか?」

「ざわめきが、すごく、なるから、大丈夫」


見えたら、もっと、確実。とサピスキアは続ける。それを聞いてアダムは実習室と準備室を隔てる壁の一部を示した。


「ここ、見えるか?」

「どれどれ」


サピスキアがとてとてと歩いてくるとアダムが壁の一点を指さしている。そこには針で突いたような穴が開いており、光が差し込んでいる。


「これは?」

「過去にここで実験器具でダーツやったバカがいたんだ。風の魔法で強化して壁に穴を開けたんだよ」


壁は木製である。そこまで厚くないとはいえ相当な威力だったようだ。


「ここから席を見渡せるか?」

「うん、ばっちりだ」


サピスキアは覗き込んでそう言うと首をアダムに向けた。


「アダム」

「なんだ?」

「いたずらを、する子供とは、こういう気持ち、なんだろうね」

「かもな、ワシも実はちょっと楽しみだ」


いつも無表情なサピスキアの口角がやや持ち上がっているのを見てアダムは話を合わせた。

とにかくやる気になってくれているならいい。

とかくマイペースなヤツなのでやる気のあるなしが非常に重要なのだ。


「よし、それじゃあスタンバイしててくれ」


アダムはそう言うと答案用紙と問題用紙の束を抱えて準備室のドアを開けた。


「よし、皆揃ってるな」


アダムが実習室に入って周囲を見渡すと全員がちゃんと出席順に席についていた。


「それでは答案用紙を配るが、答案用紙が行き渡った時点で私語は禁止。当たり前だが魔法や魔道具の使用も禁止だぞ」

「「「はーい」」」


と言いつつ、既に数人が魔道具の発動を試みている。魔力を鋭敏に察知する能力こそないが服や懐でごそごそと何かを動かす事に関してはアダムほど鋭い人物もいない。


「ちなみに、魔道具を使うと音が鳴るからな。使わないと思うがやめておけよ」


アダムがそう言うと数人は慌ててポケットや服から手を抜いた。

その生徒達の顔を記憶しつつ、アダムは答案用紙を配り続ける。


「よし、それじゃあ今から私語は禁止だ。眩しいからカーテンも引いとくぞ」


カーテンを引いて、アダムは杖を向けると天井にある魔光石を光らせた。

今度は別の何人かがカーテンを何度も見ているのが見えた。


(手口が多様化してるな……まったく)


遠見の魔法を使い、使い魔に別室で教科書を広げさせたりする手口であろう。

しかし教室とカーテンで密室になると遠見の魔法は無力化されてしまう。

カーテンがなければ使い魔と自分の魔力のパスを利用し、使い魔をレンズ代わりにして教科書や別の場所に保管したカンペを読むことができるというわけだ。

こうすることで物的証拠を残さずカンニングができるわけだ。


「ゴホン!それでは問題用紙を配るぞ」


合図があるまで裏向きのままにしておくように。と言いながら問題用紙を配っていく。

その間も何人かがカーテンを見て焦った様子を見せているので流石にアダムも噴き出しそうになった。

ここまでガッツリカンニング対策されると思っていなかったのだろうか?


(残念ながら使い魔や仕込みの済んだお前らの教室とは違うぞ)


おそらくは主人の命令を受けて必死に教科書をめくっているであろう使い魔たちを気の毒に思いつつもアダムは問題用紙を配り終えた。


「それでは試験を開始する、制限時間は50分だ。途中でチャイムが鳴るかもしれんが君らの試験終了を告げるのはこの砂時計なので注意するように」


そう言いながら大型の砂時計をひっくり返す。砂がさらさらと落ち始めたのを見て生徒達は一斉に問題用紙をめくった。


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