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サロンの後は大荒れ?

ルルイエはルナの家の前に転移すると普段着に服装を瞬時に切り替えてドアをノックした。


「こんにちは、ルルイエです」

『はーい』


のんびりした声が聞こえてくる。おそらくアリシアだろう。

ルナがそうであるように善性の固まりのようなアリシアもまた、ルルイエにとって癒しの存在である。


「ルルイエ先生!どうぞ、お入りになってください 」


アリシアはドアの前に立っているのがルルイエだと知り、笑顔でドアを開けて彼女を招き入れた。


「連絡をくれたら色々と用意したのですけど……」


ルルイエをリビングに招くと口ではそう言いつつお茶に続いてお菓子やら塩気の利いた漬物が続々と卓上に出てくる。

食べ物に関しては常に量が確保されている家である。


「十分過ぎますよ、それよりルナちゃんは?」

「あぁ、それなら今お菓子作りの最中ですよ」


そう言われてみるとなにやら微かに甘く香ばしい香りがしている。

焼き菓子だろうか?そう思いつつ出されたお菓子に手を伸ばしているとキッチンからルナが出てきた。


「できたできたー……あれっ!ルルイエ先生!」


ルナが籠一杯に焼けたビスコイトを手に上機嫌である。それに加えてルルイエが来ている事がわかるとさらに表情が明るくなる。


「お忙しいって聞いてましたけど来てくれたんですね!」

「そうよぉ」


来訪者に笑顔を絶やさないのはルナの美点の一つである。

ルルイエは彼女の笑顔が大好きだ。今まで相対してきたどの人物よりも眩しく、透き通って見えるのだ。


「お菓子作り?いい匂いねえ」


ルルイエが嬉しそうに微笑む。ルナはそれに嬉しそうにしつつ籠をリビングの机の上に置いた。


「ごしゅじーん、もう一枚くださーい」

「ルナちゃーん、私もぉ」

「ごはん食べられなくなるでしょ、ダメ」

「「えー」」


後ろからついてきたクインクとイングリッドがおかわりを要求するも食事に差し支えるからと待ったがかかる。


「ルナ様、私も……」


そんな二人のさらに後ろからトリニティが出てきた。同じようにお代わりを催促しようとしてルルイエを見つけると驚いた様子で叫んだ。


「げえっ!ルルイエ!」

「御挨拶ね、虹色になりたいの?」

「やめて!」


ルルイエがそう言うとトリニティは即座にルナの後ろに隠れた。

古今東西魔界の住人はルルイエの悪戯から悪戯で片付けていいのか怪しいレベルの被害まで色々と蒙っている。


「うー!さては私の仕事を邪魔しに来ましたね!」

「仕事?もしかしてバエルに何か届けるの?」


ルルイエは首をかしげる。完全な藪蛇である。


「……ああ、このお菓子の事ね?」

「むっ!?」


遅れて理解した時にはもう遅い。ルルイエはお菓子を見てニヤニヤとしている。


「アイツが食べるものでしょう?最適なスパイスがあるわぁ」

「うぐぐ、なにをする気?」


ルルイエは悪い顔をしながら掌にいくつかの小瓶を出現させる。


「一つは食べたら口から火が出る薬」

「さっそくえげつない……」

「二つ目は食べると兎になる薬」

「ちょっとかわいいかも……」


三つ目は、と言いかけた所でルナがルルイエの後ろに立った。


「ルルイエ先生?」

「何かしらルナちゃ――」

「ダメです」

「えっ」

「食べ物に悪戯するのはダメです」


小瓶を取り上げるとルナはそれを無造作にゴミ箱に投げ捨てた。


「いいですね?」

「わ、わかったわ……」


有無を言わせぬ迫力にルルイエも思わず首を縦に振った。

食べる事をこよなく愛するルナにとって食べ物で遊ぶ事は許し難い暴挙であったのだ。


「お土産に持って帰ってもらうんですからおかしなことはしないでください」

「……」

「返事は?」

「わかったわよぉ……」


ルルイエはこういった時だけルナの真面目な性格がうらめしく思えた。

元より彼女は悪戯好きで、なんならルナを驚かせたりすることもあるくらいだ。

好奇心があり、驚きやすく、騙されやすい。

そんな彼女のリアクションはルルイエにとって大好物の類だが食べ物に関してだけは例外らしい。

微塵も興味も驚きも示していない事がわかる。


「食べ物で悪戯はしないわ」

「ならいいんです」


そう言うとルナは一枚のビスコイトを手渡した。


「どうぞ、焼き立てですよ」


ルルイエはそれを受け取って、一口齧ってみる。

ほんのりと甘く、クルミの風味が広がる素朴な味わい。

これ以上の美味な料理や菓子などルルイエはたくさん食べて来た。

それでも親しい者が用意してくれるお菓子の味はいつだって何物にも代えがたい価値を添えてくれる。


「すこし、大人げなかったわね」


ルルイエはそうつぶやくと小瓶を取り出してトリニティに投げ渡した。


「アモンに渡しなさい、奴ならそれでわかるはずよ」

「?……わかりました」


見せびらかしてきたことは許し難いがそれでも、贈られたものを喜ぶ事は罪ではない。

ルナから贈られたものであればなおのこと。

今回の事で懲りたなら見せびらかすこともあるまい、そう思ってルルイエは解呪の薬を渡したのだ。

ガラス細工の花にかければたちまち元通りになるだろう。

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