もしかすると?
ルナの感覚は既に人間のそれではない。トリニティやクインクもそうだが、悪魔の魔力を感じる力はまるで動物が紫外線を可視光として認識するようなもの。
「む、むむ?」
「どうしました?」
そしてその中でルナのように複数の目や、超音波を知覚できる優れた感覚器官を複数持つ悪魔は魔力を更に細かく認識できるようになる。
「なんだかアンヌさんの魔力に違和感が……」
「違和感?」
「うーん、何というか色が混ざったような感じがするというか……」
ルナは六つの目を更に開いてアンヌを観察するとそれをはっきりと視認した。
「違う魔力が顔に貼り付いてるみたいにみえる感じがします」
「ほー!ルナちゃんにはそう見えるのか!」
エトナーがアダムをすり抜けてルナの所へやってくるとトリニティを押しのけてアンヌを覗き込んだ。
「色が混ざってるってのは恐らく魔道具の影響を受けてるってことだな」
「そうなんです?」
「そもそも魔力が二種類混ざってるなんてことはありえないんだよ」
エトナーの説明にルナは頭にクエスチョンマークを浮かべている。
それにアダムが補足した。
「フラウステッドが混乱しているのは属性と混同してるからだな?」
「属性……あっ、そう言う事か」
ルナが二種類の魔力があり得ないと言われて混乱したのは魔法の授業ではいつも適性のある属性の魔力を複数持っているのが普通であると教えられているからだ。
魔法使いは属性値の合計を魔力と捉える。しかし聖職者にはそこらへんの感覚がないので魔力=体内の魔力の総量と捉えるのだ。
計算すると答えは同じになるだけにとてもややこしい事になる。
エトナ―が言いたいのは自分の魔力に他人の魔力が混ざった状態を示していると言いたいわけだ。
「魔法使いには属性がパズルのように組み合わさってその人の魔力の総量が決まるのだ」
「私から見た魔力が10だとしたら魔法使いには火が5、風が3、土が2で10になってるって感じか?」
「そんな感じだな」
エトナ―の例えにアダムは頷いた。凡そそんな感じだ。
「なるほどな、じゃあこの場合に誤解なく言うと『他人の魔力が混ざることがありえない』というと伝わるわけか?」
「そうなるかな、たしかに外から入ってきた魔力がその人物の魔力と同居することはありえん」
大抵は排出されるか、分解されて吸収されるかだ。それらのキャパを越えると魔力中毒を起こす。
それらの症状が出ず、魔力が残り続けるということはそれ自身が何かしらの仕組みがあって動いているということだ。
「それで、その魔力をどうにかする術があるのか?」
「取り除けるかやってみます」
ルナは背中から蜘蛛の脚を伸ばすとアンヌの頭に添えるようにし、さらに両手を頬に添えた。
「む、むーん……」
顔に纏わりつくような魔力だけを浮かせて、移動させるイメージ。
普通の人間ならば不可能な行動である。しかし彼女にはそれができるのだ。
魔力を視認し、触れる感覚を持てる彼女には。
「もうすこし……」
魔力を掬いあげるように両手を動かすとそのままアンヌに纏わりついていた魔力が離れていく。
そしてそのまま魔力を霧散させるとアンヌに残っていた異物の魔力はなくなったようだ。
「こんなやり方があったんだな」
「いくらなんでもルナちゃん限定だろ」
アダムが感心する横でエトナ―が言う。二人が視線をトリニティに向けたが彼女も無理無理と、手と首を横に振った。
「ううん……」
「ミ゛ッ!」
「う゛っ!」
魔力が霧散し、状態が良くなったのかアンヌが呻いて目を瞬かせた。
ルナは自分が悪魔化していることを思い出して慌てて飛びのいたのでアンヌは僅かに浮いていた頭を椅子のクッションにぶつけた。
「大丈夫か?」
アダムが心配するふりをしてもんどりうったルナとアンヌの間に割って入った。
「こ、ここは……?」
「サロンの控室だ、異端者に襲われて気絶していたんだよ」
「そうだったんですか?……う、ちょっと頭が痛い」
起き上がったアンヌはそのまま頭を押さえて唸った。
「魔力が混ざったからだな、中毒症状が出てる。今日はもう安静にしときな」
「わかりました……」
アンヌは一瞬当然のように居たエトナ―を流しかけたが、即座に顔を上げた。
「えっ?なんでいるんですか?」
「居ちゃ悪いのか?」
「呼んでませんけど……」
「コイツだって呼ばれてないだろ」
エトナ―はアダムを指さしてむすっとした顔をしている。
アンヌは頭痛がひどくなったような気がした。
「先生は別に……いたた」
「大丈夫ですか!?」
頭を抱えて唸ると今度は別の人の声がする。そう思って視線を向けると自分と似た年頃の女の子が心配そうにこちらを見ているのがわかった。
「あなたは……」
「ルナ・フラウステッドといいます。先輩」
先輩、そう言われてアンヌは目の前の自分を心配する女の子が友人たちが参加させた一年生であると気づいた。




