舞い踊れ!
マスクを受け取るとルナはなんだか不思議な気持ちになった。
悪魔になってからというものの自分のもう一つの姿とも言うべき悪魔の姿を隠し続けてきた。
そんなフラストレーションがマスクを被ったことでひょっこりと顔を出したのだ。
マスクがあるからバレないかもしれない。
そんな気持ちが彼女の気持ちを大きくしていく。
「派手に、圧倒的に!」
走る速度は徐々に速まり、トリニティがやや置いていかれる形になる。
「速っ!待ってー……」
そんなトリニティの声を他所にルナは速度をぐんぐんと上げていく。
「誰だ?!」
「マスクを着けた女が突っ込んで来ます!」
ルナの足音を聞いたサロンの参加者たちはまるで水が引いた様に道を開けた。その傍をルナは駆け抜けていく。
マスクが自分の正体を隠してくれる。気分はスーパーヒーローのそれだ。
「Guooooooo!」
学生を囲んでいる異端者たちを目視するとルナは最寄りの異端者に飛び掛かった。
「なにっ……うおおっ!?」
服を掴んでそのまま一回転するとまるでボールのように壁に向かって投げつける。
壁に叩きつけられた異端者に気を取られている内にルナは蜘蛛の脚を背中から伸ばし、左右の異端者を吹き飛ばす。
「何者だっ!」
「秩序を正すためにやってきた……悪魔ですよ」
マスクから覗く目が悪魔のそれに変わり、鋭い光を放っている。
異端者たちがその威圧感と圧倒的な魔力量を感じ取って冷や汗をかいている。
「降参するなら優しくしてあげますよ?」
「く……こちらには人質が……!」
そう言って人質に向けようとした他の異端者の杖が根本からぽとりと落ちた。
持ち手だけになった杖を見て呆然としている彼らに物陰からアルディーノとラウラが杖を構えて現れる。
「キャピターレの妙技を味わいたい者は前に出るがいい、もっとも……次に床に落ちるのが杖とは限らんがね」
「首切り役人のキャピターレ……!」
「いつの間に背後に……!」
異端者たちは前後をルナとアルディーノ達に挟まれる形になり、異端者たちは進退が窮まってしまった。
「ここには聖人も来ている。勝ち目はないぞ」
アルディーノの一言が決定打になった。彼らは緊急事態を告げる笛の音がエトナ―が襲来したことによるものだと思ったのだろう。実際彼らの耳には笛の音がひっきりなしに響いていたが今はもうすでに聞こえなくなっている。
「わ、わかった……降参する……」
「わかりました、それじゃあこちらに集まってくださいね」
ルナは異端者たちを一カ所に集めると自身の糸で彼らを縛り上げた。
「これで逃げられないでしょ」
「る……むぐっ」
「お見事ですな、お名前を尋ねるのは控えた方がいいですかな?」
名前を呼びかけたラウラの口を塞いでアルディーノはルナに問い掛ける。
「そうですね、悪魔ですから」
「それではそのように致しましょう」
アルディーノはそう言うとぺこりと頭を下げ、少し距離を取った。その視界の端に銀板に風景を写し取る魔道具で写真を撮っているトリニティを見つけ、苦笑いを浮かべた。
被写体はおそらくルナだろう。彼女の目的の一つなのかもと思い、アルディーノは知らないふりをして学生たちに声を掛けることに。
「危ないところでしたな、お怪我はありませんか?」
「はい、ですが何がなにやら……」
「それもじきにわかるでしょう」
アルディーノはそう言うと他の学生たちにも声を掛けて回った。
そして親や保護者を呼び寄せると共に学生たちを落ち着かせるべく会話を続けていた。
「なんだよ、誰も来ないと思ったら終わってんじゃん」
エトナ―が男を二人引きずってホールに戻ってきた。
彼女の不興まで買ってしまった彼らは手酷くボコボコにされており、よく見ると器用にアンヌを背負っている。
「後ろの人は?」
「る……おっと、悪魔ちゃんじゃないの。こいつらがそこの連中の頭だろう」
エトナ―もルナがマスクをつけていること。そしてそれにエトナ―を誤魔化す事はできないものの認識阻害の魔法がかかっていることに気付いて言葉を濁した。
実際、このマスクも知り合いの認識を阻害することはできないという制約を持っている。
「すまない、少し時間がかかった」
ルナがボコボコにされた二人の異端者を縛り上げているとアダムが戻ってきた。
「おせーぞ」
「雑魚の処理に手間取った。周到な計画だったようだな」
異端者たちは主催者の洗脳とそれが失敗した時のセカンドプランとして学生たちの誘拐を準備していたようだ。
誘拐して洗脳した学生をあえて早期に解放することで洗脳済みの人間を野に放つつもりだったのだろう。
しかしその計画は偶然居合わせたエトナ―達によって阻止され、魔道具もエトナ―の拳で粉々になっていた。
「外にもいたのか?」
「ああ、人質を外に連れ出して、そのまま別の場所に運ぶ手筈ができていた」
アダムはエトナ―が頭を押さえたのを見て周囲の警戒に移っていた。
そこで怪しげな馬車を見つけたので即座に鎮圧したのだ。
「背後を洗う必要があるかもな」
「だな、だが今の問題は……」
アダムはじろりとルナを見た。




