騒動が起こる!
緊張が走る中、そのような事情を知らないサロンのゲストたちは歓談を楽しんでいた。
しかしその中で先ほどまで気になっていなかった不審な人物たちの姿が目に留まり始める。
「見た事のない人物がいるような気がする」
「本当だ、彼はどこの誰だろう?」
受付が買収されていた為に入り込んだ異端者の仲間が笛の音によって慌ただしく動き出したために偽装の魔法が弱まったのだ。
偽装の魔法はカモフラージュに近く、使用してからはなるべく動かず、騒がないのが基本。
背景や風景に溶け込んで見えなくなるように錯覚を起こすものだからである。囁き声や周囲と同じ速度で歩く程度なら魔法の使用者の力量である程度誤魔化せるが今回の様に緊急事態だと動揺してあたふたと動き出すとあっという間に効果が切れてしまうのだ。
「サロンに起こしの学生さんはいらっしゃいますか?」
隠れていた仲間はサロンの学生達に声をかけ始める。
「この子は確かに学生ですが、いかがなさったのです?」
「実は余興として魔法で隠れた私達を見つける催しをしようとしているので参加者の学生さんを募っているのです」
異端者の仲間達は人質を集める為に学生達や保護者に声をかけ始めた。
「杖はもってませんが大丈夫でしょうか?」
「隠れた我々を探すだけですから問題ありません」
それとなく非武装の学生を集める。熟練者の中には魔法を素手で放つ者もいるからだ。
「賞品は魔道具と聞いていますので奮ってご参加くださいね」
出任せを言って参加者を誘う事も忘れない。いくら魔法学校に通う生徒とはいえ自前の魔法道具を持っている者は少ないのだ。特にサロンの催しで賞品になるものと言えば価値のある物が相場である。
そしてサロンの催しで勝ち取ったものということで箔もつく。
「魔道具が賞品になる催しだって」
「行ってみようか」
サロンにやってきた学生たちは誘われるままにホールの一角に集められた。
異端者の仲間たちは学生を囲むように立つと杖を抜いた。
「さて、それでは皆様私達と一緒に来ていただこう」
「え、なんの話ですか?」
周囲の異端者たちは杖を学生たちに向けている。一般の令嬢は困惑するばかりだが学生たちは杖を向けられる事の意味を理解して混乱の最中にあった。
「なっ!私達をどうしようというんですか!?」
「あまり騒ぐと為になりませんぞ。あなた達は大事な人質です」
異端者たちは仲間からの緊急事態の報せを受けてプランを変更した。
学生と令嬢たちを含む人質を一旦誘拐した上で洗脳し、あえて途中で解放することで追っ手を躱しつつ洗脳済みの学生たちを再び使うことで計画のやり直しを図ったのである。
「学生さんたち、それに御令嬢も混ざってるのかな?ご一緒してもらおう」
杖を動かすと周囲から悲鳴が上がった。
「ヤバい事になった」
少し離れた場所で見守っていたが為に難を逃れていたルナ達だったが学生たちが危険に陥った事で行動を余儀なくされる。
「杖を持ってないとは困った子たちだ」
アルディーノはまるで仕込み刀のように杖から魔法用に使う杖を引き抜いた。
「わ、かっこいい!」
「おじい様カッコいい!」
ルナとラウラが緊張感に欠ける反応をしたのでアルディーノは困ったような顔をした。
「アルディーノさん、今動くのは不味いです」
そしてトリニティが待ったをかけたのでアルディーノは引き抜いた杖を戻しながら尋ねる。
「ではどうすると?」
「私とルナ様で気を引きます、相手は誘拐目的のようだ。私はともかくルナ様に手荒な真似はしないでしょう」
「なるほど」
「その間にアルディーノさんはあの集団の裏に回って、合図と同時に攻撃を仕掛けてください」
アルディーノはその言葉に頷いて行動を起こそうとしたが……
「ラウラはどうしたら?」
「……そういえばそうだった」
「ど、どうしましょうか」
困ったように三人が顔を見合わせるとラウラは笑顔でドレスの腰部分に巻いている帯に手を入れると折り畳み式の杖が飛び出した。各パーツが紐で繋がっており、持ち手の飾り緒を引くと杖がまっすぐになる仕組みだ。
「これでおじいさまとご一緒します」
「……かっこいい」
「ですね」
「さすがワシの孫」
優雅に微笑む彼女であるが彼女もキャピターレの娘、それに過去の騒動で彼女の体には一族伝来の魔法の術理が染みついている。下手な魔法使いよりも熟達しているのだ。
「よし、それじゃ二手に分かれて皆を助けに行こう」
ルナがそう言うと三人は頷き、ルナとトリニティは真っ直ぐに。アルディーノとラウラは物陰に隠れながら異端者たちに近づいていった。
「トリニティさん」
「なんでしょうか」
進んでいく中でルナは少しだけ困った状態になるかもと気にしていた。
「目立ちたくないんだけどどうしたらいいかな……」
「派手にいきましょうよ」
「だってそうしたらまた先輩たちが怒るかもしれないし」
トリニティはすこし考えると自分が服を仕立ててもらった時に貰ったマスクを思い出した。
「えーと、確か此処に……あった、これをどうぞ」
「マスクですか」
「ええ、気休めかもしれませんがそれで顔を隠してください、後は派手に動くほど貴女だとは誰も思わなくなるのでは?」
自分は表向きは落第生の集まるクラスの生徒である。
そのイメージを逆用しようというのである。ルナはそれを聞いて少し安心し、マスクを受け取った。




