思惑が外れた?
ラウラとルナが和気藹々としている中、それを遠目に見ていた人物がいた。
「うそ、あれってキャピターレの……」
ルナをサロンに招いた女学生であった。
彼女は屋敷の入り口近くでルナがコソコソやってくると思い、物陰で待っていたのである。
「あの一年生がキャピターレの令嬢と仲良しだったなんて!」
悔しそうにしながらルナを見ていたが、その後ろに僧形の女性とスーツ姿の女性、そしてなんとアダムが居ることに気づいて更に女学生は悔しがった。
仮にラウラとアルディーノだけなら二人にルナが学校では取るに足らない存在だと虚勢を張ることもできたが、その後ろにアダムとエトナーまでいる。
教師と聖職者相手に虚言を吐くのはあまりにリスクのあることだった。
それにいくら自分がそういった所で教師と聖職者が訂正すればあっという間に自分の言葉など覆されてしまうだろう。
そうなれば教師と聖職者を前に相手を貶める発言をした事実だけが残るのだ。
「先生なんか連れてきて……嫌な奴!」
自分がしようとしていたことなど棚に上げて女学生は皆の所へ。
「どうだった?」
「だめ、よりにもよって先生連れてきてる」
「うそ、信じられない!」
子供にとって先生を連れてくるというのはとても卑怯に見られる事がある。
そう言う自分達は下級生をよってたかってへこまそうというのだが。
「そう言わないで、初心に戻ってサロンでの交流を楽しみましょう」
そんな女学生たちの中でアンヌは一人、穏健な方向に軌道修正しようとそれとなく言葉を選んだ。
本来ならば彼女達とて暇ではないはず。このサロンでの交流の成果が将来の就職に関わってくるといっても本来過言ではないのだが、彼女達はアンヌのおかげでサロンの出席に慣れてしまっており目的意識が曖昧になっているのだ。
「そうね、後輩ばかりにも構っていられないわよね」
「今日来るゲストってどんな人だったかしら」
彼女達の興味がゲストに移ったのでアンヌも一安心。
「……手間によっちゃマジでこの子たちとバイバイも視野に入れなきゃ」
主催者だからと一旦輪から外れて控室へ。その途中の廊下でアンヌは溜息をついた。
その時、ふと視界に端に何かが映った。
「ちょいと臭うな」
「どうかしました?」
「異端者の臭いだ」
エトナ―がじろりと周囲を見渡した。先ほどまでのへらへらした態度とは打って変わって鋭い、抜き身の刃のような視線にラウラが体を強張らせている。
「タイユランのサロンでですか?」
「サロンにゃ坊主はこねえからな、油断してんだろ」
アルディーノの言葉にエトナ―はそう言うと建物の奥へとずかずかと歩いていった。
ルナ達はどうしたものかと少し悩んでいたがアダムも異端者と聞いて放ってはおけなくなったのか手袋をはめながら言った。
「フラウステッド、それにトリニティ、お前らはアルディーノ氏と協力して令嬢を守れ。できればサロンの客もな」
「わかりました」
「犯人が逃げたら追うな。対決はあくまで自分と周囲を守る為だけだ」
わかったな?と念を押す。アダムはルナが頷いたのを見て自身もエトナ―を追いかけて行った。
「こんなところで異端者が出るとは……」
「異端者が参加できるんですか?」
異端者とは教会にマークされた悪質な魔法使い、指名手配犯のような存在だ。
教会から追われるのはもちろん、魔法局からも追われる立場であるはずだが貴族たちの住む区画では彼らは貴族の庇護を受けていたりするので逮捕や捜査を免れていることがある。
それを差し引いても今回の参加に関してはイレギュラーな出来事らしい。
「タイユラン男爵は公正な人物だ。それ故に彼の開くサロンに参加することは価値のある事でもある」
「ほへー」
「だからこそ彼の開くサロンに異端者のような法も倫理も守れない連中が参加するなどありえないのだよ」
「なるほど」
異端者が出てきたとの報せのせいでルナ達は迂闊に動くことができなくなってしまった。
しかもよりによってエトナ―が受付をノックアウトしているので不審者も入り放題なのだ。
「しかし流石は聖人と言ったところですね」
「なにがです?」
「私にも僅かですが嫌な気配が漂ってきました」
トリニティも周囲をきょろきょろと視線を動かして探っている。
「君にもそう言ったものがわかるのかね?」
「ええ、私もあ、ひゅいっ!……産まれが少々特殊な性質ですので」
悪魔と言いそうになってルナに脇腹を突かれて体をくねらせながら言った。
「???」
「と、とにかく!魔法局や教会に届け出のない魔道具の気配がします」
そういうトリニティが察知したのは魔界にあるはずの魔道具の気配だった。
これが意味するところは悪魔の力を悪用した魔法使いの存在だ。そして通常の魔法使いよりも悪魔の力を得た魔法使いの悪質さは一段階上になる。
「対処を誤ると面倒なことになりそうだ」
「エトナーさん達に任せるしかありませんね」
ラウラとアルディーノがいるのでルナ達も思ったように動けず、二人が進んでいった建物の奥を見る事しかできなかった。




