いざ!
アダムの神妙な面持ちにエトナーは二の句が継げなかった。
「それよりあの子を下手に刺激して揉め事にしない事の方が先決だ」
「揉め事?またぞろ面倒な事を考えてるバカな奴がいるのか?」
「サロンに無理矢理参加させた奴がいるんだ。上級生だろうが……」
ま、恐らく嫉妬の類だろう。もアダムは言う。
エトナーもその手の妨害は嫌というほど経験してきたのですぐに呆れたような顔になる。
「子供のやる事にしちゃ手が込んでるが……」
「まぁ、友達のよしみというやつで良いように使われてるのかもしれん」
上級生の中でルナ達の活躍が気に入らない連中がいるのだ。
彼女達の中でタイユラン男爵令嬢と仲の良い者が善人のふりをしてルナに罠を仕掛けたわけだ。
「周りにはいい格好をしつつ、目下の者に恥をかかせて一挙両得というわけだな」
つまんねぇなー!と吐き捨てるエトナー。
トリニティはそんな二人を他所にルナとサロンについて話していた。
「サロンって何をするんですかね」
「軽食とか出たらいいですね」
ねー、と話しながらてくてくと歩いていく。どちらも悪魔であるのに和気藹々としている。
というより食べることしか考えてない。お前らそれでいいのか。
「平和なやっちゃなー」
「あんな子に悪意を向ける困った連中だが学生だからな、放ってはおけんのだ」
アダムは嫌々ながらも魔法学校の生徒が問題を起こしているということで矯正するつもりのようだ。
今回の事は本人たちには何でもない事でも人の尊厳を弄ぶ行為である。
二人はそれがルナだけでなく女学生達にとっても良くない事をよくよく知っているのだ。
「まぁ、そうだな。人を弄ぶ事が巡り巡って自分の身を滅ぼすことになるって教えてやらんと」
「お前さんなら専門だろ、しっかり頼むぞ」
「任せろ、説教なら得意だぞ」
昔に撒いた悪意の種は取り除かない限り根を張ってその人物を侵していく。
それはいつしか逃れられぬ呪縛となり、瑕疵となりその人の性根と将来を蝕んでいくのだ。
「拳骨で済む内に……か」
「懺悔に来る時にゃ大きな後悔をしょい込んでくるからな。叱ってやらんと」
彼女達が子供であるうちに、その間に彼女達を正道へ導くことが肝要である。
彼女達は魔法使い、特殊な力を持っている。そこらの人間以上に倫理を求められるのだから。
「それでは招待状を拝見します」
「……はい、これです」
サロンは皆が何度か訪れた事のある貴族区の場所にあった。ルナにとっては一度拉致されたり、非合法なオークションに参加した時であったりとあまりいい思い出のない場所だった。
大通りに近い位置にあるのですぐに分かったがルナはどこか乗り気がしない感じでトリニティとエトナ―にくっついている。
「どちらが同行者の方でしょうか?」
「私です」
「ではそちらは?」
「保護者だ。魔法使いのサロンって奴がどんなもんか見物に来た」
受付は少し困った様子を見せたが相手が日光教の正装でやってきた聖職者ということで追い返すこともできず困った様子を見せている。
「招待状が無い事には……」
「では私はどうかな?」
「あなたは?」
「魔法学校の教師でアダム・ディーンというものだが」
受付はアダムの身分証代わりのエンブレムを見ると笑顔を浮かべた。
「魔法学校の方でしたらよろしいですよ」
「私は?」
「ええと……魔法学校の方は学生の方の緊急事態に率先して対処していただくことがありますので特別な許可が出ております」
「なら坊さんだっていいだろ」
「えぇ……?」
エトナ―がごねる間にアダムとトリニティ、ルナは建物の中へと進んだ。
華やかな建築の中、三人が少し歩くと鈍い音が聞こえたと同時にエトナ―がそそくさと入ってきた。
「お前、不法侵入だろ」
「聖職者の道を遮るなかれだ。後ろめたい事が無ければな」
「お前さんが後ろめたいんじゃないのか」
「お天道様に誓ってあり得ねえよ」
アダムが振り向くとエトナ―の背後で白目をむいて倒れている受付が見えた。
後から来た人はどうなるのかなどと全く考えていないようだ。
「まあいいじゃん、受付が私を追い返そうとするのが悪い」
「魔法使いの催しに普通僧侶は呼ばんからな」
「肯定派を作っとこうって気概がないからどっちも発展しないんだぜ」
まったく悪びれる様子もなく今の両体制について不満を漏らすエトナ―。
「そもそも私を知らん時点でモグリだろ、起きてようが寝てようが変わんねえって」
「あのなぁ……」
何か言いかけたアダムはそのまま諦めた様に頭を振った。
ルナもさすがに苦笑いである。
「怪我の治療とか……」
「要らねえよ、傷つけずに失神させるのなんか朝飯前だ」
「そういえば今日朝ごはん食べました?」
トリニティが朝飯に反応して皆に尋ねる。実を言うとトリニティは街に詳しくないので食事処がわからず売店で銀貨一枚分のお菓子を食べて誤魔化していた。
「そういやマジで朝飯前だったわ」
エトナーもお腹を摩った。昨日の夜は酒場帰りでゴミ捨て場の近くで酔いつぶれていたので朝ごはんを食べる暇がなく、そのまま行水と着替えを済ませてやって来たのだった。
アダムは遠い目をしている。




