保護者と同行者ができたら
信頼するエトナーとバエルが遣わした使者が自分の後ろについてくれると知ってルナはへにゃっと笑みを浮かべて皆を見ている。
「大船に乗った気持ちでいろよな!」
エトナーはそう言うがルナに適当な事を言ったからか少しだけいつもの調子が出ていない。
アダムはこんなやつでも罪悪感とか感じるんだな、と新しい発見をした気持ちだった。
「フラウステッド、ここまで来たら乗りかけた船だ。ワシも同行してやるから安心しろ」
「えっ!いいんですか?」
「ああ」
それに対してエトナ―はともかくトリニティは少し困った。
自分が悪魔であることを知る人物が多くなると仕事に支障が出るのではと思ったのだ。
「いや、ひとりで……」
「コイツ一人にエトナ―を押し付けるわけにはいかないんでな」
「あっ」
「なんかいったか?」
「いやー、一人だと心細かったなぁって……ははは」
しかしアダムの言葉に喉まで出かかった言葉を飲み込んで笑顔で誤魔化した。
そういえばそうなのだ。アダムを追い払うと聖人に見られながら仕事をしなければならない。
その事に少し遅れて気付いたのだ。
バエルの加護を受けてパワーアップしているもののエトナ―が相手では焼け石に水程度の強化でしかない。
「それじゃあアー……じゃなかった、ルナさん!サロンでお会いしましょう!」
そう言ってトリニティは恰好をつけて帰ろうとしたが
「あ、すいませんサロンの同行者に渡さないといけない紙があるんで待ってください!」
「はーい……」
ルナに呼び止められてすごすごと戻ってきた。
「くそだせぇ」
「……言ってやるなよ」
エトナ―の容赦ない追撃にトリニティは顔を赤くしていた。
ルナは自分の招待状に添付されていたカードを差し出した。そこには薄く削った魔石が貼り付けられており身分証代わりになるようだ。
「けっこう金かかってんな」
「偽造が面倒なタイプだ、できなくはないが……」
「できるんですか?」
大人三人がカードを覗き込んでいるのでルナはカードを差し出したまま固まるしかなかった。
「ここらへんでサロンを開く人間は限られてるよな?」
「おそらくタイユラン男爵だろう、もしくはその娘か」
「学生向けですもんね」
とりあえず受け取って欲しいと思いながらルナは立ち尽くしていた。
それから日数が過ぎていき、サロンに向かう日がやってきた。
ルナはアリシアに頼んで精一杯のおめかしをしてもらいサロンに向かう準備を整える。
「へ、変じゃないかな……」
「大丈夫よ、自信もって」
アリシアに背中を押されてルナは少し自信なさげに自分の恰好を見た。
こういったこと服装にとんと興味のなかったルナはこれが似合っているのかわからず戸惑うばかりだ。
実際はアリシア譲りの美貌とプロポーション、内側に秘めた膨大な悪魔の魔力が齎す妖しい魅力を備えている。
本人が意識していなくとも、その内に秘めた魔力は魔法に敏感な者ほど強く感じ取る。
まして悪魔として意図的にそれを向ければ、並の魔法使いでは平静を保つことすら難しいだろう。
「とりあえず……行ってくるね」
娘の晴れ姿にアリシアは笑顔で頷き、ルナを見送った。
ルナが家を出て少し歩くとそこには正装のエトナ―とトリニティ、そしてアダムが立っていた。
「おー、ルナちゃん可愛いじゃん!」
「とても良く似合ってますよ」
「ありがとうございます、変じゃないですか?」
「「全然!」」
二人の言葉にルナはちょっとホッとしした。そしてその後ろにいるアダムに目を向けた。
「フラウステッド、緊張することはないぞ。服装にもおかしいところはない、肩の力を抜いていけ」
「は、はいっ」
「魔法使いのサロンでは魔法使いや上流階級の人間と話をして誼を結ぶのが目的だが、お前さんの場合はほとんど必要ない。変に興味を持たれると厄介だから挨拶したら大人しくしておくといい」
アダムの言葉を聞いて頷くルナ。しかしそれを見ていたエトナ―が待ったをかけた。
「おい、待てって!この子には……」
「黙っていろ、エトナ―。お前のやり方はやはり看過できん。それにこの子はそのつもりが無くても魔法使いの知り合いがたくさんいるだろ?」
アダムはエトナ―に耳打ちする。
(あの子はすでにポエトとも知り合いだし、……キャピターレは知ってるか?)
(魔法局の首切り役人を何人も排出してた名うての魔法使いの一族か?)
かつてルナはキャピターレの先代当主であったアルディーノ・キャピターレとルチオ・リパラトーレの二人の名門魔法使いのいざこざに巻き込まれていた。その時にルナは二人とアルディーノの孫であるラウラと友誼を結んでいた。
二人のいざこざは学生時代の揉め事というしょうもないことだったがルナ達の尽力でその問題は解決された。
ルナはラウラにも手紙を何度か書いており、いつかお茶でもと言い合う間柄だった。
(あの子は次期当主のラウラと、彼女の祖父のアルディーノとも知り合いだ。そしてそのアルディーノと友人のルチオともな。それだけでも十分すぎるだろ)
(……じゃあその子かその祖父さんに頼めばよかったんじゃねえの?)
エトナ―の言葉にアダムはふっと考え……。
「今はそんなことを言ってる場合じゃないだろ?」
「なにが?」
そう言えばそうだ。という考えを誤魔化した。




